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第7話 初めてのランクアップ

時間は2時前といったところか。

俺とフィニアはバウスイモムシが居た森、通称バウス森からギルドへ帰ってきていた。

あの後、バウス草も探してみたのだが、わずかばかりしか見つけられなかった。

バウスイモムシの名前は伊達じゃなく、次々に食い荒らされてしまったのだろう。

「たっだいま~」

威勢よくフィニアはギルドの扉を開ける。

そしてそのままカウンターに向かうと、それを察してかアリアが俺達の方へと歩いててきた。

「おかえりなさい。いかがでしたか?」

「すっごいんだよ、ケイルってば戦闘経験無いって言ってたのに、次々にバウムイモムシ倒しちゃうんだもん」

「あら、そうなんですか?」

「え? いやまあ……あはは……」

フィニアにベタ褒めされ、アリアに意外そうな目で見られ、俺は思わず照れ笑いで誤魔化してしまう。

褒められる事は慣れてないんだちくちょうめ。

「それじゃ、清算してる間にご飯行ってくるね。ほら、ケイルも戦利品置いて置いて」

「あ、ああ」

促されるままに俺はバウスイモムシの触覚とバウス草をそれぞれ包んできた布をカウンターに置く。

「よっし、それじゃあお昼食べに行こう~」

よっぽどお腹すいてたんだな……。

俺はフィニアに引っ張られるようにして飯屋へと向かった。

割高になるが、昼食にギルドキッチンを選んでくれなかった事はフィニアの気遣いだったのだろうか。

それとも彼女自身気付いていなかったのだろうか。

いやまあ、バウスイモムシの体液で汚れた弁当の包み布はしっかり洗ったけどさ。

フィニアに連れられて入ったのは、特になんの変哲も無いありきたりな飯屋だった。

昼過ぎで店内の客は少なく、ウェイトレスがのんびりとテーブルを拭いていた。

俺とフィニアはウェイトレスに銅貨を2枚ずつ手渡して空いている席に座る。

間もなくすると料理が運ばれてきて、俺達は遅い昼食をとり始めた。

基本的にこの世界の平均的な飯屋にはメニューというものが無い。

ギルドキッチンにしても然りだ。

飯屋に入って前払いの料金を支払うと勝手に日替わり定食が出される。

食材の流通も材料の保管も現代日本とは違うから仕方の無いことか。

その分、旬の新鮮なものは食べられるけどね。

「そういえばさ、ケイルってなんで冒険者になろうと思ったの?」

フィニアはフォークに刺した野菜を口に運びながらそう訊いてきた。

唐突の質問に俺の食事の手が一瞬止まる。

「うーん……孤児院を出て、途方に暮れてたらギルドを紹介してもらって……」

「でもさあ、ケイルほどの力持ちだったら、他の仕事もできたんじゃない?

 炭鉱とか土木とかさ。冒険者よりも割りがいいんだよ。

 ギルドにもそういった仕事は回ってくるけど、ピンハネすごいんだよ」

なんか前に似たような事聞いた事あるな。まあいいか。

確かに転生特典の能力に目覚めた俺なら力仕事も難なくこなせるかもしれない。

だが、今更そんな職に就こうとは思えない。

というか無理だろうな。

今までの引きこもり人生は伊達じゃない。

定職に就けたとしても3日で辞める自信がある。

「……笑わない?」

「笑わない笑わない」

食事の手を休めて俺を見ているフィニアの顔は既に笑っている。

「その……冒険者ってかっこいいと思ったから……」

「あはは、ケイルも男の子だもんね、そう思うのは全然変じゃないよ」

俺の中では至極当然かつ、本気なのだが、改めて口にすると恥ずかしい……。

前世の俺であればただの痛いおっさんなのだが、この世界では俺は冒険者を夢見る15歳の少年だ。

だ、大丈夫、大丈夫……。

だが、その冒険者への憧れで、こうして5日間ながらも弱音を吐く事無くギルドで仕事が続けられているのは事実だ。

「じゃ、じゃあ、フィニアはなんで冒険者になったんだ?」

「あたし? なんだろ、気が付いたら、って感じかな」

「全然理由になってないよ」

「あはは、そうだよね。まあ、あたしもケイルと同じで孤児院に居たんだ。

 で、特技も何も無かったから13歳になったら孤児院も追い出されてね」

フィニアは片肘をついて、皿の上の野菜をフォークで転がしながら思い出に耽るように続ける。

「それで途方に暮れていたら、優しい冒険者さんがあたしをギルドに連れていってくれて、薬草集めを教えてくれたり、簡単な魔物退治を教えてくれたんだ。

 あれからもう2年かー、早いなー」

フィニアも俺と同じ境遇だったのか。

しかも13歳から2年ってことは、俺と同い年じゃないか。

その2年分だけフィニアは俺の先輩という事にはなるが。

「その優しい冒険者さんってのは?」

「まだギルドで仕事はしてるんだと思うよ。

 あの人はギルドランクAだったから、毎日いろんな所に行ってるんじゃないかなあ。

 考えたら、もう1年くらい会ってない気がするよ」

「ギルドランクが上がると忙しくなるもんなのか?」

「みたいだよ。いろんな大変な依頼のパーティに引っ張りだこみたい。

 それもあって、あたしはずっとギルドランクDのままでいるんだけどね。

 自由に仕事は選べるし、そんなに無茶だってしなくていいし」

割り切ったようにフィニアは食事を再開し、野菜を口へと運ぶ。

「ふ~ん……。フィニアは上のランクに上がってみたいとは思わないのか?」

「今のところ思ってないかなあ。

 別にお金が無くて苦労している訳でもないしね。贅沢はできないけど。

 ケイルみたいに初めてギルドに来た子の面倒を見る方が楽しいし」

「ギルドの案内役みたいな感じで特別報酬が出たりとか……」

「あはは、ないない、あたしが勝手に好きでやってる事だから。

 それに、ギルドは何もしなくってもどんどん新しい冒険者は増えていくしね」

最初の頃はフィニアはギルド職員とやたら仲がいいのでギルドの指導員か何かと思っていたのだが、本当に単なる世話焼きな性格なだけだったのか。

でも、考えたらそうか。

あれだけギルド内が冒険者で賑わっていれば、教育も何も必要無いよな。

実力がある冒険者だって次々にやって来るんだろうし。

力か……今の俺の転生特典の力があれば、ギルドでどれくらいまでいけるんだろうな。

「でもさ、フィニアだってその気になればギルドランクCになれるんじゃないのか?

 ギルド職人の人とも仲がいいみたいだし」

「どうだろ? 考えたことないや」

フィニアは興味無しと言いたげにフォークを口にくわえて両肘をついている。

だが、明後日の方向を向いた目線は、なにやら思考を巡らせているようにも見える。

「ケイルがギルドランクCになったら考えるかもね」

そう言ってフィニアは立ち上がる。

……あれ? なに? フラグ立った?

「よーっし、報酬を貰いに行こ~」

見るとフィニアの皿はすでに空になっていた。

小心者の性か、俺は残った昼飯を慌ててかきこむ。

……なんかこれも前に似たような事があったな……。


俺とフィニアは昼食を済ませると、再びギルドへ向かった。

ギルドへ入るなり、もはや定位置となっているカウンターへ腰掛ける。

その様子を見て、すぐにアリアが執り合ってくれた。

「はい、フィニアさんとケイルさん、パーティとしてのお仕事の清算が終わりましたので報酬をお支払いしますね。

 まずはEランクのバウスイモムシ退治のお仕事、18匹討伐で銀貨9枚になります。

 それとFランクのバウス草採集のお仕事、7束で銀貨1枚と銅貨4枚です。

 合わせて金貨1枚と銅貨4枚になりますね」

「あ、ケイルと山分けするから銀貨でお願いー」

「はい、分かりました」

アリアは銀貨10枚と銅貨4枚をカウンターに並べる。

今更ながらではあるが、この世界では10枚単位で通貨が変わる。

物価がだいぶ違うから当てにはならないが、金貨一枚は日本でいう一万円札みたいなものだ。

銀貨一枚が千円札、銅貨一枚が百円玉といったところだ。

銅貨の下に半銅貨という十円玉相当の通貨があるが、ほとんど使われていない。

露天でリンゴを買うにしても、銅貨1枚でリンゴ3個のような形で銅貨が最低通貨として流通している。

算術もままならない冒険者も多いらしく、ほとんどが丼勘定で経済が回っているのだ。

その分上限は高いらしく、金貨の上の通貨もあるらしいが、詳しいことは知らない。

「ケイルもしっかり頑張ったから、きっちり半分こね」

フィニアは銀貨5枚と銅貨2枚を俺の方へ寄越す。

こうして考えると結構な稼ぎだな。

今までの薬草集めの稼ぎが丸一日で銀貨4枚と銅貨2枚が最高だったため、それと比較すると丸一日かけていない分、随分と割高だ。

俺の転生特典能力の賜物である事が多分に大きいが。

「ケイルさん、失礼ですが戦闘経験は無かったのでは?」

「あ、ああ……まあ、今まで戦闘なんてやったことなかったんだけど……」

「動きこそ雑だったけど、こう見えてケイル、怪力だったんだよ~。

 ケイルの戦闘での戦力はあたしが保障するよ」

フィニアの助け舟が非常にありがたい。

だが俺はなんとも恥ずかしくなって、思わず俯いてしまう。

「ふふ、分かりました、それでは心配ありませんね。

 では、引き続きケイルさんのギルドランク昇格のお話をさせて頂きますが、よろしいですか?」

「おおー、ケイル、今日でランクアップだったの?」

「ああ、まあな」

「はい、それでは改めてギルドカードを発行させて頂きますね」

アリアは名刺サイズの一枚の薄い銅板を取り出した。

程よく磨かれてはいるが、何の変哲も無い平らな銅板のカードだ。

「この板に手を乗せてもらえますか?」

俺は言われた通りに銅板に手を乗せる。

ひんやりとした感触が手に伝わるが、すぐに俺の体温は銅板に伝わる。

その手の上にアリアの手が重ねられ、俺は一瞬どきりとする。

女の子に手を握られるなんて生まれて初めてかもしれねぇっ。

いや、握られてはないけど。

いや、アリアは女の子というよりは大人の女性だけど。

そんな初体験にどぎまぎしていると、掌に妙な感覚を覚えた。

なんというか、微量な血が銅板に吸い込まれていくような妙な感覚だ。

「はい、これでギルドカードへの登録は完了です」

「え……今のって……?」

「書写の魔法の一つです。

 私がケイルさんの魔力を通して、このギルドカードへと印字した形ですね」

銅板から手を離すと、先程までは何も書かれていなかった銅板に文字が書かれていた。

===========

氏名:ケイル

年齢:15歳

ギルドランク:E


トルワート冒険者ギルド

印字者:アリア・ハルアート

===========

うわっ、すげぇな魔法って。手品みたいだ。

ていうかアリアさん魔法使えるのかよ。

さっき掌から何か流れ落ちるような感覚になったが、あれが魔力って奴なのか。

「ギルドカードはこのように書写の魔法を使って、本人と登録者の魔力を混在させた形をとっていますので、偽造ができない仕組みになっています。

 身分証としても使えますので、決して失くさないようにお願いします。

 もし紛失してしまった場合は、登録抹消と再配布の手数料として金貨8枚をお支払いして頂きますのでご了承下さい」

金貨8枚……ギルドカードがないとギルドで仕事もできないし、完全に借金背負う形になるのか……それは嫌だな……。

高額な罰金にしているのも決して失くさないようにという注意喚起のためだろう。

そこで俺は思いつく。

「これって、穴空けちゃってもいいの?」

「はい、文字に被らない所であれば構いません。

 先日お渡しした町の地図に鍛冶屋さんの場所も書いてあります」

ちゃんと専門の鍛冶屋もいるんだな。

金貨8枚を持ち歩くようなもんだし、俺みたいにカードに紐を括り付けたいと思っている奴もやっぱりいるらしい。

「そういえば、Fランクのギルドカードって?」

「あれは破棄してもらっても構いません。

 実のところ、Fランクの冒険者さんは仮登録のようなものですので」

てことは、これで俺も晴れてギルド正社員という事か。

……正社員という響きは耳が痛いが。

「それでは、次にギルドランクDへの昇格について説明しておきますね。

 ギルドランクDへの昇格の条件は『Eランクの仕事を5種類行う』事です。

 また、ケイルさんの本日のようにパーティでEランクのお仕事をされてもカウントはされませんのでご注意下さい。

 あくまで一人でEランクのお仕事を5種類こなして頂く事が条件となります」

「大丈夫だよー、いざって時はあたしがパーティ外で手伝ってあげるからさー」

なるほど、パーティとして申請しなければいいのか。

「フィニアさん」

アリアは例の笑顔だ。

「ごめんなさい」

さすがフィニアは抜け道をよく知っているもんだな……。

「まあ……冒険者さん同士で協力するのも一つの手ではありますが……。

 冒険者としてしっかりと経験を積むという事は忘れないで下さい」

確かにズルしても経験不足で後々苦しそうだしな。

素直に5種類の仕事をこなす事を考えよう。

とりあえず一つはバウスイモムシ退治で確定だけどな。

「また、ギルドランクEからは昇格の際に昇進試験を受けて頂く事になります。

 昇進試験を受けるタイミングは任意ですので、試験を受ける際にはお申し付け下さい。

 日程などの詳細につきましては、その時に再び案内します。

 ちなみに試験の内容は『Dランクの仕事をギルド職員と共に行う』事です。

 専属のギルド職員が同行する事になりますので、その際にまた説明します」

ふむふむなるほど……俺は例のメモ紙に相変わらず日本語でメモをとる。

とりあえずはEランクの仕事を5種類やることを覚えていればいいか。

「それでは、説明は以上になります。今後ともギルドでのお仕事頑張って下さいね」

「ああ、ありがとう」

「そういえば、ケイルってまだギルド宿舎なの?」

「ああ。そうだ、今日の宿の分払わないとな」

俺は財布から銅貨を5枚カウンターへ置く。

「はい、本日のギルド宿舎の宿泊費をお預かりしますね」

「お風呂だけ貸してくれる宿屋さんあるから教えよっか。

 川で洗っただけだから、まだちょっとべとべとだもんね」

え、何それ、またフィニアのフラグ立った?

「あたしの宿屋はお風呂付きだから、別の所になるねー」

そりゃそうですよねー、15歳の女の子にもなればそうですよねー。

淡い期待は当然のように打ち砕かれ、俺はフィニアに風呂を貸してくれる宿屋を案内してもらう事にした。

案内してもらった宿屋もギルドの近くにあった。

学生街みたいな感じでギルドの周りにはたくさんの施設があるものだ。

フィニアは自分の泊まっている宿で風呂に入るとの事で、紹介された宿屋で別れた。

この宿屋は風呂、朝昼晩の食事付きで一泊銀貨4枚らしい。

一体どれくらいのギルドランクになればこんな宿屋に泊まれるようになるのだろうか。

ちなみに風呂だけ借りたい場合は30分で銅貨3枚とのこと。

俺は一度宿舎に戻り、着替えを持ってきてから風呂を貸してもらう事にした。

久々の湯船は、戦闘で疲れた体に心地良い。

俺は時間一杯ギリギリまで暖かい風呂を楽しむのだった。

【繰越】     銅貨6枚

【収入】銀貨5枚、銅貨2枚:バウスイモムシ退治


【支出】     銅貨5枚:ギルド宿舎代

         銅貨3枚:風呂代

         銅貨2枚:昼飯代

         銅貨1枚:夕飯代


【合計】銀貨4枚、銅貨7枚

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