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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
えぴそーど でろ(ゼロ) 世界を救う愛は『炎』より熱く
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篝火(かがりび)を絶やすな

 絶望と言う言葉はこの日のためにあるのでしょうか。

 私は、私たちは今の今まで諦めた事などなかったというのは嘘ですね。

 ええ。認めましょう。


 諦めることが許されなかっただけなのだと。


 罪から逃げられず。業から逃げられず。友情や義親子の情から逃げられず。


 それでも。

 運命に翻弄されたとは。私は思っていません。


 『善き事を成す』のは。生きていくものの勤めだからです。

 『善き事を成す』想いは。私が。継ぎます。


 戦って。戦って。泣いて悔しさに震えて。

 そして私は能力を奪われ、無力な小娘に戻りました。


 ただの『西尾 由紀子』に戻りました。

 『水のウンディーネ』ではない、ただの人間に。


 でも。私は『水のウンディーネ』。


 水のウンディーネは。今や私なのです。


 『ちいと』能力の無い私に、鉄の剣は重く、鉄の塊に布を巻いただけの握りは掌を破って血をにじませます。


 今、私が、私たちが戦う相手は。


 微笑を絶やさず、明るい笑みを浮かべ、歌を歌い楽器を鳴らし。翼をはためかせて舞い降りて。


 殺す。潰す。砕く。その圧倒的な力に。無慈悲さに。微笑みながら行う破壊に。魂の奥から骨の髄から。

 ……恐怖を感じます。


 認めます。私は怖いのです。故に戦うのです。

 大切な人の、ひとたちの意志を継ぐために。

 西尾由紀子として。ウンディーネとして戦い抜く。

 それが。私。私なのです。

 勇者であり、水のウンディーネである。西尾由紀子なのです。


 天使様が。人を襲っています。


 魔族を。殺しています。世界を滅ぼし。新たな世界を作るため。

 天から隕石が次々と落ちて、()ぜ、地は地震と地割れに覆われ、人の心は闇に包まれて神の慈悲を請い。

 津波が人々を押し流し、暴風が繋ぎとめた掌と掌を引き剥がし、炎が全てを嘗め尽くします。


 そんな中で、私達全てに聞こえる声があります。


「ほろんじゃえ♪ 滅んじゃえ♪ 崇めろ 私を崇めろッ みーんな 私の ご は ん♪」


 私達を殺すと宣言する。

 世界そのものである『女神』の声が。


「怯むなッ」


 ただの学生に戻った私の両の(かいな)は脆く、弱弱しく。

 乗った馬さんの突撃の勢いを生かした一撃を放つたびに掌に砕けそうな痛みが走ります。


「……」


 手綱を通して、名馬『シンバット』の気持ちが伝わってきます。魔王様の残した奇跡の残滓が、馬たちと私達の戦いを。支えてくれます。


 本来。馬と言うものは臆病で、寂しがり屋で優しい生き物です。戦場を駆ける様な生き物では。ありません。


 それでも。彼らは私達に付き添ってくれます。

 久さんが残した秘密兵器。騎兵五千と馬その四倍の二万。

 蒙古軍そのものの騎馬達が、私達の戦いを支えてくれます。


「ウンディーネ様ッ 空をッ 来ますッ」


 第一軍団旗についた炎。

 火のが残した消えざる炎は希望の灯火となって私達を導きます。


「俺の炎がただの象徴に成りさがるくらいなら消してしまえ。だが。希望の篝火を絶やすな」


 火のの声が聞こえた気がします。


 次々と襲い来る天使たちの攻撃。


 馬さんと、馬さんの意思を汲み取る力を持つ『子供たち』、騎兵五千と一万五千の勇士たちは奮闘し続けます。


「希望を捨てるな」

「篝火を絶やすなッ」


「由紀子さまぁああああああああっっ 」


 戦場の中、小さな女の子が燻銀(いぶしぎん)の黒鞘の刀を持って駆けてきます。兵士の頭を飛び越え、馬の背をけり、『天使』の剣を蹴り飛ばしながら。


「コレを使ってくださいませっッ」


 受け取った刀は。思いのほか軽く手に馴染みます。これは。まさか。

 するりと剣を抜き。振り返り際に『天使』を討った私は確信します。これは。風のの。


「『風鳴(かざな)』ですッ 魔王様が滅んでもッ! 火魔将と風魔将の核となるべく炎魔将の『炎』と、風魔将の『風鳴(かざな)』は残り! 次代の希望の炎にッ 導きの風の剣となりますッ」


 風の。こんなところで。ホント。私は二人に助けられていますね。


「いこう。風の。火の。義父ちゃん。ウンディーネさん」


 私は『風鳴』を手に『シンバット』に乗って駆けます。

 脳裏に。かつての友人とのやり取りが浮かびます。

 『天使』を斬り付ける手と罪の重みと、痛みと。心の傷とともに。


『由紀子。知ってるかしら』

『モフモフするのはもう辞めてください』


 かつて、ウンディーネさんは私にこういっていました。


『魔将は後継者に。同じ魔将に力を譲ることができるの』

『ええ。お聞きしました』


 妹の由美子ではなく、私が何故継承者になったのか。由美子は最初納得がいかないようでした。確かに。魔法の使える由美子のほうがいい『ウンディーネ』になれたと思います。


『もし、同意した者の魔力を譲り受けることができる力を与えられたものがいたら』

『?』


 彼女の両の腕は私を強く掴んで離してくれません。彼女の柔らかな頬が私の頬に当たります。


『その人も。其の方にも。私の思いを捧げることが。私の力を与えることができるの』


 意味が解らず。首を傾げる私に頬を擦り付ける彼女。まるで泣いているかのような微笑み。


『いやだなぁ。低俗で。嫌な女だよ。皆が私のことそういうの。わかるよね』


 解ったよと呟く彼女はとても小さく。悲しく見えました。


『ウンでーネさんはそんな嫌な女の子ではないです。誰が言い出したか知らないけど。怒ってあげます』


 私がそういうと『ありがとう。私の親友』とつぶやき、彼女はまた私に頬を擦り付けてくれました。


 私は。恋を知らなかった私は生意気にも彼女にこう告げました。


『それに。きっと。変な魔力とかは解らないけど。その人が好きで助けたいってウンディーネさんが想うならば。きっとその人に。届いています。想いも。心から湧き上がる力も』


 私は。異性を好きになったことがありませんからわかりませんがと伝えると彼女は『そうね』と呟き。


『もう少し。もふもふさせてね』

『十秒』


『十分』

『五分』


『七分。これ以上譲らないわ』

『私の髪で私の体ですよ』


『だってもふもふするの、これが。これが……ううん。なんでもないかも』


 予言の力があるって。彼女は言っていました。

 もっと。もっと一緒にいれば。彼女が私を抱きしめたのは。あれが最後だったのですから。


 意識はまた。戦場に。


「篝火を絶やすなッ」

「希望の風は必ず吹くッ」


 私は感じていました。

 この世界の何処か。何処でもない何処かで久さんが戦っているのを。

 私は知っています。彼が戦っている限り、私たちは希望を失ってはいけないことを。

 たとえ、其の拳が空を切り、その蹴りがあたらず。世界中から。『世界』そのものから嘲笑を受けながらでも。

 彼が諦めていないという事実が。私を。私達を勇気付けてくれます。


 炎を手に、『子供たち』は駆け、天使たちに炎を押し付けていきます。

 白い翼は次々と血で染まり、堕天の穢れに黒く染まって、滅びてゆきます。


「さらまんだーさまの篝火を絶やさないののっ!」

「『風鳴』ある限り、希望の風は消えずッ」

「奮い立てッ 炎を守れッ 風を絶やすなッ」


 剣を振り、大地を駆け、天を覆い尽くす『天使』に立ち向かう私達。

 神にすら祈れず。魔王様さえ滅びた今。私は。


『このドブスッ かかってきやがれっ』


 久さんを。信じます。

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