表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
えぴそーど でろ(ゼロ) 世界を救う愛は『炎』より熱く
79/86

魔竜山脈の死闘

「引くなッ 魔族とて恐怖もすれば血も流すッ」

「訓練どおりにやれば、貴君らもッ ただの農奴でも魔族を倒せるッ 家族の仇が討てるッ」

「太鼓の音を聞いたら皆で同時に竿を振り落とせッ」


 その『竿』の先端は鋭く斜めに尖り、要所を鉄で補強され、排泄物がついている。これにて傷つけられたものは、致命傷に至らずとも破傷風という病によって死ぬ。

 そして、その主な素材だが、所謂木でも鉄でもなかった。まだ生木の香りを放つその『槍』は、本来武器の行き渡らぬものに急造であつらえたものだったが絶大な効果を発揮した。

 魔竜山脈周囲に成育し、若芽は食用に耐えうるが、成長すれば堅く、高く育ち。周囲の植物を圧倒して食い荒らす。内部は空洞にして如何なる用途にも使えぬとされる困った植物。それは我々地球の、日本人である久の瞳には『竹』として映った。


「臆するなッ 貴君らには『勇者』がついているのだッ」


 その集団戦術は、魔族の範囲魔法に無力のハズだった。しかし『勇者』達の防御魔法や、新型防衛陣が農奴たちの身を守り切った。

 農奴兵を率いて緒戦をまさかの勝利で飾った『勇者』達の軍は魔族に対して文字通り『破竹』(この世界にはこの言葉はない)の勢いで反撃を開始する。

 彼らの支援を得た勇者達の勝利はなおも合流に難色を示す各国を動かし、遂には大陸の宗教的指導者、『神聖皇帝』の意向を受け、総力戦へと発展していった。


 農民は勇者達の提示した方法にて食料の増産に務め、鍛冶屋は勇者達の提示した『統一規格』に基づき武器や防具を作り、騎士や貴族は一斉に名乗りを上げ、戦いに参戦していく。


 この戦役で最も功績を挙げたのはその騎士や貴族ではなく、また勇者でもなかった。

 土地を追われ、魔族に家族を殺され、領主に売られ、あるいは拉致同然に引き連れられた奴隷や農奴。

 魔族への恐怖しか知らぬ者達が。『勇者』たちの鼓舞を受け、稲穂を植えるか如く均等に槍を揃え、鍬を篩うかのように同時に打ち下ろし、収穫の喜びを舞う娘たちのように戦場で血の塊となって散っていく。


 彼らが揃えたクロスボウの一撃は訓練された弓兵に劣らない活躍をみせ、魔力で補強された魔族の鎧を。皮膚を貫いた。


 倒した魔族の強靭な皮膚や角は武具に転用される。


 魔族はそれまで玩具のように扱ってきた人間の。

 農奴や奴隷どもの進軍に。

 同胞の死体を武器として迫る彼らの姿に。


 口には出さぬがある種の恐れを抱きだした。



 そして、魔族たちは次々と要所を人間達に奪われていく。


 豊富な資源を誇る白竜山脈。

 天然の要塞にして塩の供給源たる流氷島。


 各地を守る白竜族、流氷島の極光伯爵は魔王軍の主力との合流を拒否。自らの力で挑み、『勇者』たちとの一騎打ちを望み、死んでいった。


 そして今。


 この魔竜山脈もまた、主人であると同時に最強と恐れられた魔竜の一族の長を失い、人間どもに奪われようとしている。


 雨の中、由紀子たちは走る。


 要所要所に設置された竹の魔法罠は、踏み込んだ敵を次々と突き刺し宙に吹き飛ばし、あるいは穴に落として貫き、確実かつ堅実に敵の命を奪っていく。


 ごめんなさい。


 由紀子は心で泣きながら、自陣の魔族を必死で叱咤激励する。


~ 由紀子。まだ泣くな ~


 親友の声は慰めの言葉のみを話さない。

 凄まじい勢いで揺れ動く戦場の状況と情報が波となって親友の声と共に由紀子の心を打ち砕こうとする。


 それでも、由紀子は泣かない。

 泣かないと誓った。

 泣けなかった友のために。


 しかし由紀子は部下の報告に愕然とする。


「ウンディーネ様。ノロマの第四軍団が孤立したようですな」

「なっ?」


「穴掘り第四軍団には相応しい最後よ」

「ははは」


 自分たちも孤立し、滅びを待つのみなのに。


 人も、魔族も結束しない。

 『敵』がいるのに合い争い。勢力をしのぎあい。

 身内で血を流し合う。


 だが、人はそれでも、利害を一致させて魔族を討ちに掛かってきている。

 魔族は人間を侮っていた。そして認めてはいないが、恐怖していた。


 それは人間の農奴たちが彼らに抱く純粋な命の恐怖ではなく、なんとも得体の知れない何かに対する恐怖。『異質』への恐怖だった。


 由紀子は決意し、宣言する。


「皆のもの。第四軍団を助けに行くぞ」

「何を言っているのですか。穴掘り第四軍団などいてもいなくても」


「やはり身内可愛さですか。由紀子様」

「愚か者ッ」


 由紀子。いや、『水のウンディーネ』の叱咤が響く。


「力なき人間共が全力を出し、か弱き農奴が力を合わせて挑んできているのに無礼と思わんのかッ」


 第四軍団は弱小だった。所属する種族たちも魔族の中では非力な種族ばかり。それは事実だ。

 故に結束を知り、規律を知り、連帯を重視した。だからこそ最強の軍へと成長していったのである。


「我らも、我らも第四軍団のように結束し、やつらと戦うのだッ」


「しかし、人間ごときに」

「我らは個の武勇を尊ぶが、奴らには誇りなどなく、群れるしか」


「脅える心を奮い立たせ、友と共に(あぶみ)を揃える者に勇気も誇りも無いというのか。それに習わぬならば我らの誇りも勇気も。腐りきり、錆びきったものに過ぎんッ。彼らが(からす)避けに野山に掲げる案山子(かかし)なる人形にも劣るッ」


 由紀子改め『水のウンディーネ』の叱咤を受けて魔族たちもまた結束の兆しを見せていた。


 今まで協力しあうことが無かった各軍団も不本意ながら各地で団結、共同作戦を行わざる得ない戦局がちらほら出だし、それを由紀子が後押しした。


 魔竜山脈を守る魔竜一族の敗北。


 人間達にとっても魔族たちにとってもこの事変の後に続く戦いは多くの血と涙を流し、そして新たな運命が動く戦いとなるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ