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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
えぴそーど でろ(ゼロ) 我らのキズナは『水』より濃い
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わが名は『水のウンディーネ』

~ 由紀子。状況は把握したけどな ~


 ええ。たっちぃ。


~ お前、いいのか ~


「……」


 時が止まった空間で私は親友と語らっていました。

 それはいつもの楽しい学生同士の語らいでも、将来への期待や不安、都会への畏れや憧れでも。


「うわあっ」「死んだッ」「お前が殺したッ」

「死ねッ 死ねッ 魔族は死ねッ」「いたいいたいっお母さん助けてッ」「殺す殺す殺すッ」「キエエエエエッ」「俺のっ 俺の首は何処だァァ」

「滅べッ 悪魔めッ」「悪魔は貴様だっ?!」

「うははっ 汚物は消毒だッ」「死んだッ お前らが殺したんだッ 死ねッ 死ねッ」「消えろッ」

「神は欲したもう魔族の血をッ」

「精霊は共にあるッ」

「魔王様のために人間どもの首をッ」


 ありませんでした。


 血の臭いが鼻の鈍い私の鼻腔を貫き、不快な味となって広がります。

 断末魔の声は私の心臓を、内臓を、魂を苛み、傷つけます。私の身体に、炎の残滓が、鮮血が降りかかります。

 ここは戦場。優しかった人が、微笑んでいた人たちが。家族を抱いて笑っていた人々が殺しあっています。


~ 止めるのは無理。俺に出来そうなのは、由紀子達が死なないようにする事だけ ~


 ……。


~ 人を殺すことに。なるぞ ~


 ……嫌です。


 お父ちゃんに詰め寄ったことがあります。

 どうしてこんな世界に産んだのですかと。

 どうして、生きていくために汚いことばかり、嫌なことばかり覚えて、醜い人になっていかなければいけないのかと。


 そして、そんな世界に生まれるくらいなら。生まれないほうがよかったと。


 それでも。

 それでも。

 それでもっ!


 それでも生きなければ。生きなければいけないのですかっ!!


「死ねッ しねっ」

「死んだッ ウンディーネ様が死んだッ もうおしまいだっ」


「死ね」「死んだッ しんだッ お前らが殺したんだッ」「貴様も死ねッ」

「冥途に向かえッ 人間ッ」「それはこっちの台詞だッ」


「死ね」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」「シネ」


 死んでいません。みなさん。

 ウンディーネさんは死んでいません。


 ウンディーネさん。約束したじゃないですか。

 みなさん。微笑んでいたじゃないですか。

 私は、私たちは知っています。

 生きて、生きて、その記憶を伝えるために。


「必ず、みんなで笑える日の為に戦うって」


~ そっか。俺のいない間にお前が出逢った子はいい子だったんだな ~


 ええ。たっちぃには悪いですけど。いい友達でした。


~ 由紀子。俺も背負ってやる。お前の罪。俺も背負ってやる ~


 私の、私達の前で殺しあう人々。魔族も人間もない。その戦い。

 私も。背負います。友人の流さなかった、流せなかった見えない涙のために。


 私の瞳から零れ落ちる暖かいもの。

 その行く先は水滴となって空しく血まみれの土に吸い込まれていきます。


「そうでしょ。ウンディーネさん」


 さわさわと水が私の周りに集まっていきます。

 私の服にまとわりついていく。透明で清浄な水の流れ。

 精霊の御子のみが身にまとうと伝えられる魔族の装備。


『水の羽衣』


 ~ 状況把握。由紀子。この山の上に向かえ。敵の本隊は山の下。平家物語の逆落としだ。わかるな ~


 たっちいは手短に敵の総数、陣容、山の形状などを教えてくれました。

 何故か私の脳裏にこの山の姿、形、敵味方の位置が絵のように映ります。


 地面に突き刺さった、私の身長より大きな剣に手を伸ばします。

 魔王様のオリジナルを守って戦い抜いた『星の忠犬(アステリオン)』が振るいし伝説の剣。『霧雨』。


 『水のウンディーネ』のみに帯刀が許される。名剣。


「まだ。死んでいません」


 総崩れになっていく魔軍第一軍団に向けて『私』は。『私たち』は呟きます。


「モノ共。惑わされるな」


 その言葉に皆は立ち止まり、『私』の言葉の続きを待ってくれました。


 一瞬でした。その瞬間だけ。時は止まっていました。

 私と、友人の思い出を振り返るように。時は止まっていました。


 いこ。たっちぃ。ウンディーネさん。


「魔将『水のウンディーネ』は死んでいないっ!」


 魔将。『水のウンディーネ』は。ここに。ここに。


 さわさわと清浄な水がわたしの身体を包む羽衣からほとばしり、私の身長より長く、重い剣は羽根の様に軽く。私の指に馴染みます。



「ここに。いるぞっ! 『水のウンディーネ』は。ここにいるぞッ」


 戦意喪失していた皆さんから弱弱しい鴇の声。


 かつて友達が未来の為に叫んだように。

 そして今、鳥取にいる友達が帰りを待ってくれているように。


 そして私が。わたしたちが。

 私達の未来のために。


「戦え。貴様ら。それでも魔族の勇士か。

『最強』の魔王軍第一軍団の力を、人間どもに見せてやれ。

私が前線に出る! もし一歩でも私が怯んだら後ろから斬れ!」


 皆の者。私の口から言葉が漏れていきます。


「この。私」


 皆の視線を受け。私は。私たちは呟きます。


 今日から、ずっと一緒だから。あなたの涙。私がうけとったから。

 あなたが、私の代わりに受けていた罪も嘆きも。私にください。

 わたしたちは。『親友』でしょう。


(いやっ)


 もう。『西尾 由紀子』ではありません。


「『水のうんでーね』に。続けェぇぇえっっ」


「莫迦なッ 確かに今ウンディーネはッ」

「うわああっ」


 鬨の声をあげて反撃を開始する私達魔王第一軍団魔王親衛隊の精鋭達。やっと本来の力を発揮し、押し返します。


「押し返せッ 一度突破するッ」


 その言葉に。


「私の首は何処にッ?」


 黒騎士デュラハンさんの言葉。生きていらしたのですね。

 私はデュラハンさんの首を掴み、胴に投げてあげました。


「お、お見苦しいところを、由紀子……さま」


 紳士的に応える彼に私は告げます。『由紀子と言う娘は。死んだ。そう伝えろ』と。


「わが名は」


 地獄のような戦場でも、涙を流さなかったあの子の変わりに。


「『水のウンディーネ』!」


 私は。私達三人は微笑む。

 今はほほ笑むことができなくても、いつか皆がほほ笑むことができる日を信じて。


「『勇者』にして『水魔将』!」


 わたしの。私達の運命は。

 このとき大きく動き出したのです。

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