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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
エピソード でろ(ゼロ) 遥かなる想いは『風』に乗って
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花の名前は

「由紀子。今日も花を持ってきたわよ」


 ウンディーネさんは素敵な花をいつも持ってきてくれます。

 今日のお花は小さくて、良い香りを周囲に放つ珍しいお花でした。


 近づいてみてみると、小さな青い花弁に水気滴る若草色の葉を持つとても愛らしくて美しいお花さんです。

 興味を持った私は尋ねてみます。私の知らないお花ですから。


「何と言う花なんですか」

「知らないわ」


 くす。


 私の問いに少し逡巡したような表情。

 間髪入れずに素直に答えた彼女。

 凄く綺麗な人なのに何処か抜けていて可愛らしいのです。


「植えましょうか」


 私は彼女と一緒に美しい花を植えました。

 たくさん。たくさん。植えました。



 花が傷つかないよう細心の注意を払って植える私の手つきを彼女は優しい瞳で見つめています。


「最近、花の植え方が上手くなったわね。由紀子」

「そうですか」


 水をやりすぎるとか、少ないとか、もっと土を柔らかくして欲しいとかそういうことは周囲の『子供たち』のほうが詳しいからでしょうか。

 この子たちが言うにはお花の言葉がわかるそうですが。羨ましいですよね。


 その中でもひときわ綺麗な一輪のお花。


「綺麗なお花ですね」

「薄い青に白。か。惜しい相手だったわ」


 私の言葉に不思議な返答を返すウンディーネさん。


「あ。なんでもないの」


 戸惑って慌てふためくさまを見せまいとするところがちょっと可愛かったりします。 


「くす。変な方」

「変ッ?! 私が。この私が変ですって?!」


 私の微笑みにすぐむきになる彼女。みっともないですね。

 だからこそ私は彼女のそのようなところが友人として好きなのですが。

 

「みっともないっ?! 貴女は少し年上を敬うべきよ。並ぶものなき美貌と武勇を誇る魔王軍第一軍団の長に何と言う口の利き方っ?! ノームの教育の程が知れるわよッ」


 くすくす。


 こうしていると鳥取に残した親友を思い出します。心なしかこの方はたっちぃに似ているんですよね。



「からかわれているだけだろう。キャンキャンうるさいぞ。小娘」


 私の保護者の声に楽しいおしゃべりは一時中断。


「ノーム?!」「あ。ノームさん」


 その間に彼女につけられた花冠に花の首飾り。

 綺麗ですが辟易していた私はノームさんに頭を下げます。


「……」


 ウンでーネさんはノームさんに挨拶しませんでした。


「ウンでーネさん?」まだ(むく)れているのですか。


「たいそうな『花畑』だな」

「『妹』ほどではないけど、こういうのは得意なの♪」


 いつもは温和なノームさんが何故か怖いです。


「(『土のノーム』。これがヒロシよ)」

「(ほう。これは惜しいな。人間でこの色は珍しい)」


 小声でぼそぼそ。意味は良くわかりませんが、お二人の仲はあまり良くないようです。もっと仲良くして欲しいのですが。


「ウンでーネさん」

「なにかしら。由紀子」


 ノームさんとお話を終えてぶすっとしているウンディーネさんには申し訳無いのですが彼女のこういう表情は可愛かったりします。


「ノームさんにはガイアさんという素敵な奥さんがいますので、あまり近づかないで下さいね」

「あのねぇ」


 クククとノームさんが笑い出しました。私、変な事いいましたっけ。


「うちの夫婦仲は良好だ。杞憂だな。由紀子」

「私に男ッ気が無いといいたいわけ?」


 ぶすっとするウンディーネさんにノームさんは大笑い。


「まぁ、気にするな。そのうちいい男が」

「魔将につりあう男がいないだけよっ?! 魔王様だって独身なのよッ?! どうってことはないわッ」


 あ。それ。禁句です。



 つかつかと靴音が聞こえてきました。あの方は地獄耳です。ええ。

 あの尖ったウサギさんのように長い耳は伊達ではありません。


 太陽の光を受けて白い肌は更に輝き、薄い金色の髪が風になびきます。

 ほのかな甘い香りは草花も霞み、その優しい顔立ちは彫刻より整っていて。


「誰が。独身だと? ウンディーネ」


 まおう(魔王)。でーぬすれーとさまです。


「いっ。いえっ?! 独身こそ花だとッ」

「ほう?」


 でーぬすれいとさまの細い瞳が更に釣りあがります。怖いです。


「お前の『花』が見てみたいものだな」

「ほ、ほほほ。お戯れを。ディーヌスレイト様」


「あとで、ゆっくり話そうか」


 でーぬすれいとさまはそう仰ると、平伏する私達に微笑んでくれました。

 王様なのに腰が低くて偉いのです。凄くいい人なのです。


「逃げるなよ。ウンディーネ。極上の酒を用意してやろう。最後にな」

「は、はいっっ」


 いいなぁ。私はお酒飲めませんし。


「由紀子よ」

「はっ?! はいっ?!」


「ノームの養女ならば義父(ちち)に恥じぬ働きをせよ」

「はっ。はい……」


「『はい』は一回でよいッ!」


 おつきの方にお叱りを受けてしまいました。ううう。


「良い。下がれ」

「はっ」


 おつきの方が下がり、でーぬすれーとさんは私の傍に近づきました。


「由紀子」

「はい」


「触っていいか」

「は。はい?!」


「モフモフしていいかと聞いている」

「も、モフモフ?」な、なにを仰っているのでしょうか。



「うむ。やはり聞きしに勝る素晴らしい手触りだ」


 事あるごとに私の髪をフワフワ叩いたり撫でたりして遊ぶ魔王様に水魔将様。土魔将(ノームさん)やガイアさん。

 一体、皆様の頭の中で私の扱いはどうなっているのでしょうか。珍獣なのでしょうか。

 あとでお城のほうで爆発音が連続して聞こえ、ノームさんに隠れるように言われた次の日、また訪れてくださったウンでーネさんはガタガタ震えて物凄く怖がっていました。お城で『爆発事故があって』巻き込まれたそうです。怖いですね。怪我しなくてよかったですね。

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