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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
エピソード でろ(ゼロ) 遥かなる想いは『風』に乗って
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がーる。みーつ。ぼーい。 でろ(ゼロ)

「私の。勝ちね♪」


 赤い血の花が咲いた。


 『勇者』の血は大地に吸い込まれ、新たなる魔力の糧となる。

 魔力が限られたこの世界では、よくあるコト。


 『勇者』は死んだ。

 勇者は。死んだ。ゆうしゃ は しんでしまった 。


「ヒロシッ!!!!」


 『武田 久』は今まで共に戦ってきた親友にして先輩の最後を。見た。



―― 地獄のような戦場で。私たちは出逢いました ――


「うふふ。人間ども。もっと私を愉しませなさい。私の身体を赤く染めなさい」


 2mはある異形の刀を振るい、次々と人間達を赤い液体としていく女。

全裸に近い姿。身体を包む透明の『水の羽衣』。

そして。またも赤く染まる身体。


 女の身体は水で出来ており、近寄る勇士たちの攻撃は文字通りまるで刃がたたない。

 女は身体を震わせ、虐殺の快楽に酔いしれる。


「次は。貴方かしら。勇者様」


 女。

 魔将『水のウンディーネ』は愛剣『霧雨』を『勇者』に向ける。


―― 地獄のような戦場で。俺たちは出逢いました ――


「久。ここは僕に任せろ」

「無理だッ 」


 『聖剣』を手に、青年は叫ぶ。


「魔将・『水のウンディーネ』ッ 一騎打ちだッ」


「久。お前は撤退をッ 皆を連れて撤退しろッ」


 敵の水軍の力は圧倒的だった。水を、津波を。潮流を自在に操り、熟練の船乗りが。水軍の将が次々と海の藻屑となり、魔物達の腹に収まった。


 辛うじて丘に逃げた『久』と呼ばれる少年を含む人間軍は『絶望』を見た。

 百の艦船を易々と沈めて見せた魔王軍第一軍団の長がそこに一人立っていたからだ。

 生き残りたちは微かな勝機を求め彼女に殺到した。『水のウンディーネ』。魔王軍で最も強く。最も美しく。最も残忍とされる女。


 その噂が正しいことを。その実力の確かさを彼女は己の力で証明して見せた。

 水で出来たその身に剣はすりぬけ、鉄の鎧を砕く高圧を持ち如何なる物をも溶かす『水』の威力に次々と勇士たちが倒れていく。


「あなたが。勇者のヒロシさんかしら」

「ああ。お前を討つ」


 『水のウンディーネ』は赤みをおびた唇に自らの人差し指を這わせる。

 ヒロシと呼ばれた青年は久より前にこの世界に『召喚』された勇者だった。

 剣に優れ、人格に優れ、微笑みを絶やさない彼は久が王となった後も勇者軍の中心的な役割を果たしている。


「お前では勝てない。逃げろッ お前は魔王を討てッ」


 叱咤する博志。

 久はそれでも動かない。動けない。恩人である博志(ヒロシ)を捨てられない。


「二人まとめて。で良いのよ♪」


 『水のウンディーネ』は楽しそうに呟くと、また『霧雨』を振るった。

 びしゃり。水がほとばしる。その水は赤くて生臭かった。


「血。血。血……美味しい。美味しいわぁ。私の身体にみんなのまっかで熱いものぉ。はいってくるぅ」


 剣を胸に抱き、官能的に悶えてみせる『水のウンディーネ』にヒロシは剣を構える。



「ごちそうさま」


 鞘走りの音が聞こえたのは。赤い花が咲いた後だった。


「ひろ……し?」


 『勇者』として召喚された久は自らを召喚した国を乗っ取り、反目しあう人間の国家をまとめて戦いを開始したが。その影にはいつもヒロシがいた。

 『勇者』としての資質は薄いが、豊富な戦いの経験を持つ彼の薫陶をいつも久は受けていた。


 崩壊する戦線の中、『聖剣』を手に怒りのまま叫ぶ久。


「ウンディーネ。決闘を申し込むッ」

「あら。可愛い。ボ♪ ウ♪ ヤ♪」


 久は剣技が苦手だ。いつもヒロシには敵わない。

 そしてこれから、ヒロシに剣で勝つことは。永遠にない。


 童貞は。好きよ♪ そうつづけて悶える『水のウンディーネ』。

 しかし色気に惑わされない久を見て「本当に童貞ね」と眉をしかめてみせる。

 彼女の痴態を見て惑わされない男は。いないはずだ。


 にもかかわらず久はヒロシの遺した『聖剣』を構え、差し違えの構えを見せている。


「私、疲れているのよ。幸運だったわね」

「ふざけるな。倒す」


「ボウヤ」


 蒸気となって『水のウンディーネ』の身体が消える。


「『命』は。大切にしなさい」


「また会いましょう勇者さま。でも次はもっと色気のある状況で会いましょう。待っているわ」


 水蒸気となって消えた『水のウンディーネ』。

 その手には新たな『花』が握られていた。


「ヒロシィッッッッッィィっ」

「聞いていないのね」


 『水のウンディーネ』は虚空の中、悲しい気持ちを押さえなかった。


「可愛いボウヤだったなぁ♪ この『花』。由紀子ちゃん喜んでくれるかなぁ」


 虐殺の後で、久の嘆きの涙は天にさかのぼるかのように流れた。

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