惑星を包む『輪』は運命を乗せて
「魔王様」
魔王・ディーヌスレイトは詩集を手に窓枠に腰かけて空の星々。天を覆う『輪』を眺めていた。薄暗い自室には業火を纏う自らの直属の部下が二人。
「偽善です」
「私も。そう思う」
魔王ディーヌスレイト。彼女の能力は『言葉を伝えること』。
自ら死に向かう人々に星の彼方に去った人々の。風の言葉を告げること。
「なら。何故」
敵である勇者を生かそうと。
風が室内を満たす。もう一人の直属の部下。諜報を司る男。
炎と風が場を包み。自室の環境が一気に悪化する様子に苦笑いするディーヌスレイト。
「なぜだろうな。人形に過ぎない私だが。時々、この身体の。エルフや人間が考えることは何か。考えてしまう」
魔王さまはお優しい。
炎の将が呟き、風の将が呆れる。人間に情けをかけるのは愚かだと。
ましてや相手は魔王その人を手にかけようとする勇者。
勝手に自滅してくれるならそうするべきだと。
「解っているのだ。だが、辞められないのだ」
同じ星を見て美しいとおもうもの同士が、何故遭い争うのだろうか。
そして、何故自分がその当事者なのかと。
「魔王様。人間との戦いをやめたいなどと言えば」
廃棄処分。壊れた魔王など人形に過ぎない。
「解っている。シルフィード。杞憂だ。私は現実から目を逸らすほど夢想家ではないのだ」
だが。
「この星の輝きを見ると。『オリジナル』がどう考えるのか。無駄な思索をしてしまうのだ」
きらきらと輝く星の大河。ぽろぽろと音を立てるように流れる星屑。世界を覆う巨大な『輪』。
その美しさを理解できないほど。風の将は愚かではない。
だが、それ以上に彼は現実主義であった。
「お身体に障ります。あと」
「なんだ」
風の将はコホンと咳払いをした。
炎の将は何故か横を向いている。心なしか炎が一割り増し。
「下着が。その。見えます」
「えっち」
風の将は常に暴風を纏っている。
図らずして女官たちから受ける彼の渾名は『せくはら』であった。