幕間。帰ってきた酔っ払い勇者ドモ(久視点)
「帰って来たヨッパライ」(かえってきたよっぱらい)は、ザ・フォーク・クルセダーズのデビューシングルであり、同グループの代表曲である。
解説
1967年12月25日に東芝音楽工業(現・EMIミュージック・ジャパン)の洋楽レーベル・キャピトルレコードからシングル盤が発売され、早回しのテープと奇想天外な歌詞で反響を呼んだ(レコード番号CP-1014、B面は「ソーラン節」を収録)。「アングラ・フォーク」のブームを生み出した曲である。オリコンチャート史上初のミリオン・シングルで日本のコミックソングの代表的な作品。
「『箱庭』良いトコ一度はおいで♪ 酒は美味いしネェちゃんは綺麗ッ」
「うふふ。博志君ったら」
博志……博志……。それ(フランメ)は元男だ。胸揉むな。孫が泣くぞ。あ。今は女だからアリなのか?
俺はため息をつくことすら遠慮したくなる酒の臭いに眉をしかめた。
ボロボロのテーブルに俺たち六人の『勇者』が集い、安酒を煽る姿はそこいらのチンピラと変わらない。
いや、フォーク・クルセダーズとやらを唄って見境なく絡む博志の痴態と比べれば俺がこの世界にきた遠因となった同僚の木下のほうがまだ紳士的だといえる。アイツはヤクザと喧嘩する程度で済む。博志が暴れると酒場一つ簡単に壊滅する。
「ガハハ。酌しろ。チェーレッ」
「ツェーレ。よ。デバカメ」
「俺はエア……(痛)デッ」
大柄な男がチビ娘に襲いかかろうとすると、見事な股間狙いの蹴りが大男に炸裂した。あのチビ女。やりやがる。
あと、酒吐くな。汚い。べちゃっと酒が床に飛び散り、ベタベタした石畳に広がる。って、キタネェ?! 掃除しろよッ?!
汚い理由が少しわかった。
獣脂の明かりだ。そこらじゅうを黒く汚く染めている。
「本当に、皆いい加減ですね」
ため息をつく男。瓶銅だったっけ? この男だけは飲んでいてもかなり紳士的だ。
「ヴィントです」
「びんどー」
「ヴィント」
「びんと」
「ヴィント」
「ビンド」
「ですから」
「わかった。今日からお前の渾名は土瓶だ」
俺の提案にその涼しい顔立ちの男は肩を落とした。
やめておけばよかった。俺は自分の判断を呪った。
少々前後する。フランメは各国から集った俺たち『勇者』に『結束を高めるなら先にやることがある』と呟くので乗ったのだが。
「まずはベッドの中で愛を確かめあいましょう。久様。
……初めてだから優しくしてくださいま……ぐはっ」
思わす手が出てしまったが、中身が男ならいいよな?
「冗談ですわ……ホント乱暴な殿方……でも其処がいい」
悶えて色目を使うフランメに告げる。「本気で殴るぞ」と。
「気持ちはわかるが蹴るな。久。変態でも一応生き物だ」
「ああんっ 博志君もステキぃぃっ?」
ついつい口より先に手が出てしまったらしい。と言うか本気で気持ち悪い。
そんな女だが、そこはまぁ由として。
「酒盛りに決まっているじゃない」
フランメの言葉に俺たちは眉をしかめた。
『勇者には毒も病気も効かないんだが』
全員で一斉に彼女に抗議する。
そうなのだ。酒を呑んだところでまったく酔えない。煙草を吸っても美味くもなんとも無い。むしろ不味い。
「みんな。『銀の鎖』の味を覚えている?」
嫌なことを。目が覚めたとたん変な模様に光る銀で出来た鎖で縛られていた記憶を思い出し、眉をしかめる俺たちにフランメは「ふふふ」と笑う。
「あれは、この『世界』から私達に供給されているチート能力を一時的に大地に還元する効果があるようね」
フランメのいうことはわかり難いが、扇風機のモーターに繋ぐ前に電線を地面のアースに流すように配線するようなものらしい。
「まぁ俺はアレがあっても関係なく引きちぎれるが」
マジか。エアデ。
「エアデ君はそうでしょうね。でもツェーレ。あなたは?」
「私はアレにつながれていても分身が使える」
便利だな。
「あれか。お前を嫁にすると掃除と飯の用意と子供の世話をいっぺんにしてくれるってか?」
「ッ?!」
なんで顔赤らめるんだ。お前。風邪か?
「ヴィント君は。って、聞くまでも無いか」
「神の奇跡を使える私に、あのようなものは子供だましだ」
キザったらしいやつだなぁ。こいつ。
「じゃ、アレで困ったのは私達三人だけ?」
フランメは口を尖らせる。
「そうだな」「そのようだ」「まぁ。相性もあるでしょうけどね」
ぶうたれるフランメに勝ち誇る三人。
「まぁいいわ。美少女になれたと歓喜する間もなく、小汚い親父に穢されそうになったのは私だけのようだし」
意外と壮絶だな。話しかけることを躊躇する俺たちにフランメは更に一言。
「思わず。僕は男の子だよッ っていってしまって……もう殺してやりたかった」
話かけてはいけないものを感じて黙る俺たち。
いや、その。まぁ。結果的に良かったんじゃね?
「男に生まれたくて生まれたわけじゃないのにぃいいっっっ?!」
あ~。その。泣くな。フランメ。話を続けろ。
そういって抱き起してやるとフランメはにぱぁと笑って抱き付いてきた。思わず突き飛ばしかける。しかしフランメは華麗に突き手をかわすと俺に抱き付いてつぶやくに。
「と、いうわけで、鎖を解析して、お酒が楽しく呑めるようにする術を開発したの」
俺の肩越しに舌を出すフランメ。
「……」
「……転んでも只では起きない娘さんですね」
絶句する大男に、スカした男。
「日本酒がのみたいのう」
「こういうときだけジジイに戻るな。博志。今更ジジイになっても可愛くない」マジで。
「フランメちゃん! 今日から私たちは親友よっ?! 私のことはツェーレちゃんって呼んでいいからッ」
このチビ。未成年は酒呑むな。
「おしっ! 酒もってこいッ」
大男が叫ぶ。うわ。暑苦しい。
ぐー。すぴー。ずびびびびぃ。
「速攻で潰れましたね」
全員で押し黙る。デカいのに情けない。
そんなえだでだかであでだがえあてだかに、びんとが呆れているが、コイツ、底なしだろ。
早くも六杯目の器を開けて、ヘラヘラ笑っている。
脱ぐなッ?! そこっ? ぬぐなっッ? チビ助ッ?!
「忍者戦隊ッ ツェーレちゃんッ! AC0(ゼロ)ッ!」
「やめんかああああああっ?!」
必死で服を着せる俺に拍手喝采のバカヤロウ共。というか、このメンバーで本来の女はこのチビだけだ。
「お前はつつしみってのがないのかぁっ?!」
「ああんっ。ヒサシって言ったっけ? やさしいぃ~?!」
今度は服を片手に泣きつくチビに閉口する俺。
「こいつ何とかしろ。博志」
「うは~! 若い娘はええのうっ?!」
酔っ払った博志はフランメの胸を後ろから揉み倒し、大笑いしている。
「あんっ 博志君。もっと優しく」
お前も乗ってるんじゃねぇ。フランメ。
「長年連れ添った婆さんもそれはそれでいいが若い娘もなかなか」
「目を覚ませ。そいつは男だ」
もう、なにがなんだか。
「俺も揉ませろ」
「私も少し興味が」
「やめんか」
俺は叫ぶが、こんな化け物連中を俺一人で止めれるわけもなく。
「もうっ。エアデ君もヴィント君も焦らないでッ」
「やめんか。オカマ」
瞳に涙を浮かべるフランメはツェーレに抱きつく。
「久君がつれない~~~~~~! 慰めてッ!」
「良いわよ。たっぷりといいことしようねぇ」
やめんかっ。女の服を女が脱がそうとするなっ?!
泡を食う俺の横で、無責任な野次と喝采。
「ええいっ。お前らも止めろッ?」
「いや、俺も揉ませてくれ」「俺も」「俺も」
「はい。おさわり金貨一枚からッ」
「商売するなッ?! パンパンがっ?!」
「ひょっほー! ねえちゃんも俺に触らせてくれええ」
「やめんかクソジジイ。女房が見たらどう思うと思ってるんだっ?!」
「久君も。のむのむのむぅ~」
エアデに羽交い絞めにされた俺の喉に無理やりチビ助が酒を注ぎ込む。
「……」
頭が。ぼーっとする。
俺は上着を脱いで、鍛えた身体を披露する。
「お~」
「久君ッ! 綺麗ッ! 肉体美ッ!」
「俺のほうが」
「私が一番美しい男ですッ」
顎を突き出して一言。
「アン●ニオ猪木ッ!」
『ブッッ!!!』
一斉に吹き出す連中。
「俺が教えた」
自慢げに語る博志。なんかよくわからんが一発芸らしい。
酒の臭いと怪しげな香の臭い。舌を衝く刺激臭。腐った肉が焼かれる香り。
「私も私もッ」
「もう脱ぐなよッ」
「むしろ脱げッ」
「ロリコン発見ッ」
「忍法ッ 日本酒召喚ッ!」
「おぉぉぉっっ?!」
溢れる懐かしい香りに熱狂するおれたち。知らない酒の味に喜ぶ酒場の酔っ払いども。
「ガマガエルも出すよ~~~~~~~~!」
それは出さんでいい。
「ああああああっ?! あたしのガマちゃんが料理にッ?!」
その場でガマを両断する博志。捌くエアデ。こんがり焼くフランメ。自重。
……俺が覚えているのは。ここまでだった。
「うううううう」
頭が……いてぇ。ズキズキする。くらくらする。そして目が乾いた感触。
俺は目を見開いた。血だらけの尻丸出しにして窓に頭を突っこんでいる大男と、股間にクソをつけて大の字に横たわる全裸の優男。
「見なかったことにしよう」
腕にずりずり何かが引っかかっている。持ち上げてみる。
「……博志」
腹に顔を描いた男が股間まるだしで意識を失っている。ボコボコに殴られているが何があった。思わず股間を見たがこいつはクソをつけていない。
となると気になるのは女性陣だ。コイツに襲われていないだろうな。
「……」
女共は朝まで飲んでいたらしい。周囲の野郎共が死屍累々。
吐く。嗚咽する。暴れる。周囲の連中もまた地獄。
溢れた日本酒は周囲に際限なく広がり、男も女も大人も子供も老人もお祭り騒ぎ。
こいつらとは。二度と酒は呑まない。俺は心の底から誓った。
「あ。でもツェーレ。日本酒、ちょっと詰めておいてくれ。酒樽九つでいい」