魔族の賓客
「あははっ! もうっ みんなったらっ」
明るい声をあげて花畑の中央で笑う子供。その周囲には兎や猫の獣人の子供や『子供たち』がいる。すべて護衛兼監視役であることを。その『子供』は知らない。
薄暗い部屋の中。
その小さな窓。そこからはこの武骨な砦には似つかわしく無い花畑が見える。
そこで無邪気に戯れる子供達。実に牧歌的な光景だ。今が戦時体制でなければ。
「間違い無いのか」
間違いであってほしい。喉を呑み、乾いた唾液を飲まんとする。
その思いを込めて魔王軍第四軍団長『土のノーム』は報告書を読み上げる側近に確認をした。あの花畑で無邪気に戯れる少女が。『勇者』の一員であるなど信じられるはずが無い。
「残念ですが」事実です。
豊満。優美。双方を持つ彼の副官にして妻。『ガイア』は勤めて冷静に報告を続けた。
「該当時刻に光に包まれながらゆっくり空中を下降する少女を見たという報告があります」
昼間から酔っていたのだろうとの現場判断により報告が遅れた件、申し訳ありません。部下の責任は私がこの首にて。首を差し出し、兵たちの助命を訴える『ガイア』に『土のノーム』は苦笑いしてみせた。
「表をあげろ。仕方ないことだ」
「は」
『土のノーム』はなんともいえない表情を浮かべる。
「私たちの『義娘』が。あの『勇者』だと」
拳を握り締める『土のノーム』。
だまされたのか?
いや。あの少女。『由紀子』の瞳には偽りは無い。
「監視を続けろ。そして」
務めて冷静に告げる。事あれば斬るしかない。魔王様の御為に。
『土のノーム』と『ガイア』には子供がいない。
城内に迷い込んだ異世界からの哀れな旅人を『娘』として保護した二人だったのに。
「哀れだな。自らが何者であるかも知らず、敵中に送られるとは」
「ええ」
その旅人は勇者として召喚された存在であった。彼らの主、魔王を討つために。
その娘を。養子にしてしまった自分たちも同罪であろう。
「ガイア」
「はい。ノーム」
二人はしばし見つめあい。呟いた。
「『平和』という言葉、なんだと思う」
「わかりません」
『娘』の言葉のいくつかは、魔族である二人には理解できぬものであった。