『鉱山の国』の『勇者』。『炎』のフランメ
「結束を高めるならば。やるべき事があると思うの」
各国の『勇者』が集う中、俺と博志はフランメと名乗る女に月明かりと『輪』の輝く庭に呼び出された。
『山の国』が誇る『勇者』は「『戦士』エアデ」。無類の怪力を誇る。
『湖岸の国』が誇る『勇者』は「『忍者』ツェーレ』。こんな世界にも忍者がいるんだなぁ~。と思った。
『海の国』が誇る『勇者』は『僧侶』ヴィント。神の奇跡を自在に操る。恐らく一番強い。
そしてこのフランメ。
『鉱山の国』が誇る『魔導師』の名前に反せず、隕石は落とすわ、炎で都市は焼くわニッコリ笑って全部帳消しにするわととんでもない女だ。
スラリとした長身(生意気にも俺より高い)にほっそりした身体なのだが。
「何故俺の腕に身体を押し当てるんだ」
「当てているのよ。おばかさん」
でけぇえっ?! でかっ?!
……木下ッ?! 木下ッ?! 俺は変な国にいるぞっ?!
この国は女共が自重しねぇえっっ?!
夜露と月光がつややかな緑の葉を輝かせ、青白い花の香りがおれたちの鼻腔を優しくくすぐる。
さわさわとした風が心地よく、風の香りが舌を満たす。星の輝きの中、俺と博志は彼女の導きのまま歩き出す。
「いい加減離れてくれないか」
腕を包み込む暖かくて異常に柔らかい物。
近くに香る女の匂い。
「くす。久君可愛いね。童貞かな?」
「……ぷ」
笑うな。博志。
女を突き飛ばす趣味はない。なんとか逃げようと腕を動かすが。
「あぁん♪」
悶える声に思わず吹き出す。
へっ?! 変な声出すなッ??! 俺が慌てると奴は大笑い。
博志もまたたまらず大笑いしだすが、俺としてはたまったものじゃない。
「俺も触らせてくれ」
「あぁん♪ 博志君 せ く は ら ♪」
気持ち悪くなって離れる俺。
軽薄でどうしようもない台詞に反して真剣な顔の博志に意味深な笑みを浮かべた奴は呟いた。
「呪術の臭いも感じるわね。Absorb系の力もあるのかしら」
あぶそ……なんだそれ?
「くす。当たりみたいね」
意味わからない。
夜露が白い花の甘露になる瞬間。思わず口をあけてしまった俺にフランメは核心に触れる。
「万能型の勇者って言うから不思議に思ってたのよ。特化するか、無能になるかしかありえないから」
戸惑う俺に代わって剣に手を伸ばす博志に奴はおどけてみせる。まるで剣を持った男二人を意に介さないかのように。
「あ。博志君は気を悪くしないでよ。私達の中で一番年上だし、子供の経験や配慮に足りない発言は許してくれるよね?」
博史が一番年上? 俺とタメだろ。
思わず博志を眺めてしまうと、彼はふと表情をほころばせた。
「まぁ孫がいるしな」
「お前は何を言っているんだ」
別の意味で口をあける俺にフランメと名乗った女は大笑い。
「心筋梗塞だったっけ。死因」
「多分そうだと思うぞ。胸が痛くなってからの記憶がないし。2015年死亡な」
はぁあっ??!
2015年? あれか? 未来からきたってか? 透明のチューブに車が走ってたりするのかっ?!
月明かりに青白く照らされる博志の顔はニコニコと太陽のように明るい。
「お、おまえ俺と同い年て」
「うん。そうだよ。産まれた年は一緒っていったじゃないか」
り、理解できねぇ。お前等何を。
「私は2011年死亡よ」
「え」
「俺は芳伸が可愛い彼女を連れてきたから悔いは無いな」
よしのぶ? 誰だ?
「孫だ。ちいとキツイが可愛い彼女を連れてきてなぁ。いや。さすが俺の孫。フランメにゃ完敗だがなかなかのおっぱいだぞ。あいつは目が高い」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。理解が追い付かない」
パニックになる俺にフランメが追撃をかける。
「私は悔いだらけよ。こんな可愛い彼氏がほしかったなぁ」
再び俺の背に柔らかいものが襲い掛かり、フランメの細くて長い腕が俺の胴に絡みつく。
「うぎゃ?! 俺は幽霊の中にいたのかよっ??!」
なんとかフランメのデカイ柔らかいものから身体を引き剥がした俺は近くの生垣に飛び込む。
頬を生垣の葉が切りつけ、血の香りと夜露の香りが鼻を衝き舌に伝わる。
「くんなっ?! くんなっ?! 悪霊退散ッ」
俺の様子に月光ならぬ輪光に照らされた二人は更にため息。
「幽霊じゃないし」
「というか、私から見たら久君のほうが昔の人過ぎて幽霊みたいなんだけど」
叫ぶ俺に。
「そろそろ。本題に入りたいんだけど」
「ほんだい?」
フランメは口元をしかめて告げる。
あれか。三星か。中国かどっかの車作る会社だな。
「それはサムスンだ。ヒュンダイの間違いだろ」
「ほんと、久君って面白いね」
「いい加減落ち着かないと拘束魔法をかけるぞ」
「くす」
ひぃぃっ?
……。
……。
「どこまで話したっけ? えっと、アブソーブ系統は敵の能力を吸収する力……久君には難しいかな?」
「お前の言っていることの九割も解らん」
俺は頭を抱えた。丁稚の俺にもわかる話をしてくれ。
「コイツにテレビゲームの話をしてもどうしようもないぞ。1967年転移じゃインベーダーすら知らん筈だ」
「なんだそりゃ。いんべーだーってナニ」
「いんべーだー……なにそれすごい。
久君より未来の話だから、説明しても意味無いし、理解できないと思うわ……それより。アブソーブね」
フランメが言うには本来は敵の力を奪って自分の力にする高度な呪術らしい。
「普通は一時的で、補助魔法の一種なんだけど」
「ほじょまほう?」
「あああああっ?! もうッ! 昭和の男の子に説明するのがわずらわしいッ?! FFくらい知っててよッ」
えふえふ。ああ。黙って聞いていれば。
「ホンダが一位を取ったんだろ。それくらい知ってる。職人舐めるな」
「……」
「それはF1だ。久。確かにあの時代は話題になったな」
何故か冷たい風が吹いた。
二人がかりの『拘束魔法』でがんじがらめにされた俺にフランメ。
「いい? 久君。これ以上話に水を差すなら『沈黙』をかけるわよ」
「はい」
俺が素直に黙ると、彼女は「素直で大変よろしい」と言って胸を張った。
未来の女はとんでもなく生意気らしい。
こんなのの仲間と結婚する博志の孫の将来が不安だ。
「要するに、『同意』をキーに発動する呪い。『契約祈祷』に近いわね。魔導技術的なプロトタイプは博志君なんだろうケド」
一瞬。博志の顔が引きつったのが見えた。この女自重しろよ。
「『命を捧げてもいい』くらい惚れた場合、あなたの変わりにその人が死ぬ。
ついでにいうとこの世界の人は私達含めて普通に死んだら、この『世界』の魔力になるんだけど」
フランメの瞳が俺を射抜く。
「キミは。違うみたい。世界そのものが得るはずの魔力を奪って。自分のものにしちゃってる」
とっても。とっても興味深いわね。フランメはそういった。
「ひょっとしたら。私の望みを。キミは叶えてくれるかも知れないわ。『ヒサシ様』」
にこやかに笑う彼女に博志は「のぞみ?」と聞くが、彼女は人差し指を綺麗な形の唇に当てたのみだった。
風が木の葉を落とすようにフランメは俺と博志の前に膝をつく。
「あなた様のために。『鉱山の国』裏切ってあげる……ですから。『私の心』を受け取ってくださいませ」
「は? はいっ?!」
なぜ初対面の男にそんなことをいいやがるっ?! つつしみってものを知れッ?!
というか、自分で俺の能力を見破ってなぜそのような危険なことを言いやがるっ?! 丁重に断ったが、一体何を考えているのか。お前みたいな女の考えることはわからんと告げるとヤツはとんでもないことを告白した。
「だって。私元々男の子だもんっ」
「なああっっ??!」
「美少女になれてよかったと思っているしっ!」
「ぎゃあっ! 寄るな変態ッ ホモ野郎ッ 」
「失礼ね。性同一性障害っていうのよ。未来では」
「知るかぁっっ?! ホモ野郎ッ 近づくなッ!」
「興奮してた癖にぃ♪」
「なんか、俺がいなくなったら人類は滅びそうな予感がする」
じゃれあう俺たちを尻目に博志はため息をついた。