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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
エピソード でろ(ゼロ) 魔族の賓客
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『命を捧げます』

「うおぉうぅッ」捨て身の一撃。


 久は刀剣を操る技術に欠ける。故に突き技による捨て身の一撃が彼の戦術になる。

 彼の優れた身体能力と、恐ろしいほどの度胸は、魔族の将達から見ても侮れない。

 体力に限界が無いかのように滅茶苦茶に剣を振り、素手の戦いで撲殺する。体格に差がある巨大な魔物には魔法と突撃で倒す。


「死ね。勇者ヒサシッ」


 剣をもった魔族が一歩引くと久に植物の蔦が複数絡みついた。捕縛魔法だ。

 もがく久に一斉に隠れていた弓兵たちが一斉に矢を放つ。血を吹き出し、崩れ落ちる久。


「ここまでだったな」


 余裕をもって剣を納めるかの魔族の背に、久の剣が突き刺さった。



「また。『死んでしまった』みたいだ」

「……」


 博志は押し黙る。

 久はカラカラと笑ってみせるが、正直死ぬ感覚と言うのは耐え難いものだ。

 ガリガリと心を削り、恐怖が足を掴む。だが。優しい声が聞こえて。その声は何処かで聞こえた声で。

 死んだはずの身体に命が蘇り、力が萎えていったはずの身体に驚くほど力が宿り、身体が軽くなり、魔物達に剣を振るえるようになる。


 博志は相棒の持つ不可解な現象をいつも疑っていた。神聖皇帝が彼にどのような力を与えたのか。意図を計りかねていた。

 彼。博志は『失敗作』だ。簡単な言語関係と魔法使用能力しか持たない。

だが、類稀なる努力と剣の技、優れた知識と実戦により将としての器を開花させていた。


「また。『女の声が聞こえた』っていったな」

「うん」


 久はその事を素直に博志に告げていた。

 博志は一つの仮説に達しつつあったが、その事を久に話すのを避けていた。


「いいか。お前は笑うな。久。女にほれるな」

「はぁ。博志。前から思ってたが、まさかお前そういう趣味か?」


「ばか」


 二人の『勇者』はじゃれあいながらその場を去る。

 墓標代わりの魔族が使っていた大きな剣。二人が捧げた小さな花束を背に。



「お帰りなさいませ。『旦那』さま」


 冷たい目で久と博志を迎える少女。リナと言う。


『流れ矢で』死亡した国王に代わって国を治める彼女は『国一番の勇者』を夫としたが。


「魔物の血で臭い。近寄らないで」


 心を開いたわけではない。身体も。そして久だってお断りだ。

 そもそも彼女はあの『偶然の流れ矢』を疑っている節があった。

 勇者を捕縛し、王の命令を聞かせる呪いには欠点があった。

 『王の命令しか聞かない』点だ。


 その事に気がついた博志は少しずつ味方を増やして行った。

 勇者の地位を利用すれば王宮の、王国の何処にでも入ることが出来る。魔物退治に必要だからだ。

 そうして、各有力者の妻や娘たちに『ニコポ』と呼ばれる力を振るう。『微笑むだけで異性が惚れる』という恐ろしい力である。



 博志はこの力を嫌悪していた。

 事実上、誰も彼を愛していないと言うことを再認識させられるからだ。そして、久も博志と同意見だった。

 他国の『勇者』どもはむしろこの力を積極的に使うことで異性、時として同姓をも篭絡させ欲望のままに振舞っているらしいが、彼らは自らの目的のため、自由の為に其の力を振るった。

 久と博志は最後に王妃を篭絡し、国を乗っ取ることに成功した。

 王族で生き残ったのは。リナだけだった。



「おい。リナ」

「なんですか。汚らわしい」


 久の言葉にそっけなく答えるリナ。


「夜中まで待っててくれたんだな。ありがとう」

「……」


 偶然だ。背を向けたままリナはそう答えた。


「なあリナ」

「あなたには捧げる言葉も身体も。心もありません」


「香をたいてくれたんだな。あと内政で解らないところ。フォローしてくれてありがとう」

「誰の仕業でしょう。解りません」


 彼女の頬は赤かった。


 月と『輪』が見守る星々の中。雲が見える。いや、銀河だ。

 久とリナは空を飛んでいた。リナの魔法だった。


「あなたには心も身体も。唇も捧げる気にはなりません。あなたは。私の父母を殺した悪魔です。魔族以下です。だけど。命を捧げてもいいとおもっています」


 久たちは神聖皇帝の宗教的権威を元に、人間を統合した軍を作る計画を打ち立てた。この政策が成功すれば、魔族に対して反撃が可能になる。しかし。



「ですから。ですから」


 彼女は憎しみと相反する思いを苦しげに告げた。


「生きて帰ってきてください」


 人間は、魔族より恐ろしい。権力が絡むとあればなおさらだ。

 久と博志が生きて帰れない可能性は高い。それを喜ぶ思いと同時にリナは気が付いた。気づいてしまったのだ。自らの想いに。

 逆らえぬ運命と抗えぬ本当の気持ちに。


 風が冷たい。久はマントをリナにかけてやる。


「普通なら、ここでキスするんだろうけどな」

「私たちは嫌いあっていますから」


 輝く星明かりが二人の足元の雲海を大陸のように照らす中。二人は微笑み合った。


 数ヵ月後、辛くも陰謀から逃れ、なんとか人間達の連合を築くことに成功した久たちはリナの突然の死を告げられた。


「どういう……ことだ」


 とまどう久に金色の仮面をした人物、久の召喚主である神聖皇帝は告げた。


「お前に惚れた女どもは、お前に力と命を捧げて。代わりに死ぬのだ」

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