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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
エピソード でろ(ゼロ) 魔族の賓客
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暴風雨

 其の日。俺たちは魔族と戦うために隣国の王と同盟を結ぶべく、隣国の首都に来ていた。


「しかし、王自ら連絡もなしに来てよかったのか」

「俺たちだけでどうこうなる相手ではないだろ」


そう。俺たちは俺たちを縛る王を倒し、王位を簒奪することに成功していた。

あの『二コポ』を使えば直接王を倒すことは出来ずともなんとでもなる。


 その日の天気は穏やかな晴れ。

風の気配も。水の気配も無かった。


 意外と清潔な道を歩く俺たち。子供たちが玩具を手に駆けていく。

 清潔な道といい人々の笑顔と言いこの世界にしては豊かな国らしい。


 俺たちの王国は『箱庭』と呼ばれるこの国の地図上の中央部分に位置する都市国家で商業的には豊かだが兵力に乏しい。故に国力を挙げて勇者召喚に挑み、神聖皇帝御自ら呼び出した俺と博志を生み出したが。


「出来損ないの俺じゃなぁ。役に立たないにも程がある」

「そうかなぁ。俺、博志には全然勝てる気がしねぇ」


 博志は酒が飲めるが、俺はまだ呑める歳ではない。この国は飲んでもいいらしいが。とりあえず自粛する。


「久。自分の実力を素直に評価するのも実力のうちだぞ」

「そうか」


 コイツは何かと賢くて、頼りになる。


 ひゅうひゅう。風が吹いてきた。違和感に眉をしかめる。


「久。風が吹いてきたな」

「うん? 変だな」


「どうした」


 不思議そうな彼の表情に。


「いや、漁師の息子だから。俺。風とか雨とかの気配はわかるつもりなんだが」「……」


「久。行くぞ」

急に表情が変わった彼は俺の腕を引く。


「風が吹いているぞ」


雨が降る前に雨宿りする場所を探さないかと言おうとするも。


「だからいくんだッ」


博志は俺の手を強く引いた。


 ごうごうと吹く風が石の建物を砕いていく。

 雨は吹き荒れ、あっという間に膝まで水に浸かり、胴まで。


「飛ぶぞ。久」


 彼は俺を抱きしめ、空に飛んだ。

 ごうごうと風を引き裂き、頬を圧し、水が俺の目にぶちあたるが、それより驚きが優った。


「うおおおお??! 人間が空を飛んでいるッ?!」


(※作者註訳:久さんの知識にスーパーマンはありません。

日本で一般にスーパーマンが認知されるのは1978年公開の映画からです)


「説明するのが面倒だ」


 博志は叫ぶ。

 轟音を立てて砕かれていく家、屋敷。水に飲み込まれていく人々。

 石で出来た家は外にでることが困難だ。俺と博志は空から家々の天井に攻撃魔術を放って脱出口を作る。


「伊勢湾台風では天井に穴を開けられずにそのまま溺死した人間が多い」

「……他の勇者どもなら知らん知識だな」


 他の『勇者』? 俺たちの同類がいるのか? よそ事を考えるのが良くなかった。


「うわっ」


 暴風で空から落ちそうになる。


「しっかり捕まってろッ 久ッ」

「うわああぁっ?!」


 博志の腕を取る俺。その眼下で小さな子供の悲鳴が聞こえた。


「今、子供が」

「もう助からん」


 波にのまれ、消えていく腕に必死で手を伸ばすも、博志が強く手を引いて邪魔をする。

 助からんってなんだよ。俺たちは。『勇者』なんだろッ?!

 押し寄せる津波が町を砕いていく。港を破壊し、家々を、人々を飲み込み、そして。


「津波なのに火事ッ?!」

「津波の後は大火災が起きるッ!」


 博志の言葉に俺が続ける。


 俺たちの努力も空しく、水に子供が飲まれ、炎に老人が焼かれ、風に城は耐えられず。

砕けた船の欠片が屋敷を。家々を砕き、人々を飲み込む。


「なんだこれは」


 あたり一面は突如起きた暴風により、壊滅状態となっていた。

 溢れた水は都市を覆い。瓦礫の上に死体が浮遊している。その多くは原型すら留めていない。


「俺。俺」


 幼子の手を取った。助けられると思った。

 その幼子の頭に風で飛んできた瓦礫が突き刺さるまでは。


 博志は首をゆっくりと左右に振る。


「『四天王』『風のシルフィード』の仕業だな。運が悪かった」

「『四天王』? 仏さまがこんなひどいことを?」


 俺の言葉に博志は苦笑い。


「魔王ディーヌスレイト直属の将達だ。四つの自然現象を意のままに操る」

「なんだよそれ」


 博志は朗々とした声で語る。


「第一軍団魔将。水軍。魔王軍親衛隊。騎士団を擁する。

 "『水の』ウンディーネ”。


 第二軍団魔将。犯罪者によって構成された凶暴かつ残虐なる懲罰部隊。

 臆病者は味方をも殺す督戦隊。勇猛果敢なる突撃部隊を率い、拷問。処刑も担当する。

 "『炎の』サラマンダー"。


 第三軍団魔将。諜報。謀略、拙速を是とする部隊運営。謎に包まれた男。

 "『風の』"シルフィード。


 第四軍団魔将。補給。陣地構築。防衛。

 占領地に対する厚い内政は別の意味で人類の脅威とされる男。

 "『土の』ノーム"……この四人とされるが」


「お前、話長いよ。一言で言えよ」


 俺は職人だ。長い話は嫌いだ。


「久の時代なら。伊勢湾台風と原爆と関東大震災が一編に来たっていったら。わかるか?」

「わかんねぇよ」


 酷すぎて余計想像できなくなった。

 俺たちが戦う敵は魔王の部下ですら神の如く強力だという事実。


 1959年の伊勢湾台風なら。

 伊勢湾台風の酷さなら。多分俺のほうが博志より詳しい。

 おふくろたちが逃げる暇も無くあっという間に発生して酷いことになったって言っていた。

 熟練の漁師たちですら発生に気付かない間に押し寄せ、日本中を水に浸し、風で吹き飛ばしたとんでもない台風だ。アメ公ども曰く最大風速秒間90メートル。 一瞬で溢れた水は人々を飲み込み、必死で屋根を壊して逃げようとする人間を悉く食い尽くして行った。らしい。この。この惨状のように。



「魔将どもの姿を見たヤツはいない。何故だかわかるか」

「後ろに引っ込んでるからじゃねぇのか」


 思わず皮肉が飛び出る。俺たちを矢面にして煽っていた連中をおもいだしたからだが。


 しかし博志はまったく違うことを言ってのけた。


「ヤツらは常に最前線で戦う。そして、奴らを見た者は皆死ぬ。いや、姿すら見ることもできない」


 特に。『風のシルフィード』に関しては。と彼は続けた。


「同時に複数の戦場で『出現した』とされることは。珍しくないそうだ」


 水が溢れた都市は疫病が蔓延する。

 俺たちが援軍を求めにきた隣国は。滅んだ。

伊勢湾台風の被害。

犠牲者5,098人(死者4,697人・行方不明者401人) 


うち愛知県で3,351人(うち名古屋市1,909人)、三重県1,211人と、

紀伊半島東岸の2県に集中。負傷者38,921人。


全壊家屋36,135棟・半壊家屋113,052棟、流失家屋4,703棟、床上浸水157,858棟、船舶被害13,759隻。

当時の被害額を現在の金額に換算して一兆五千億相当。

日本が戦後に経験した自然災害の中では阪神淡路大震災が起きるまでは最大の災害であった。


(ウィキペディア日本語版より)

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