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定めの勇者よ
「新たな勇者が生まれた」
黄金の仮面の奥でほくそ笑むこの世界最高の魔導士。
『神聖皇帝』
男か女か、人か獣かすらわからぬ正体不明の人物である。
「我が最高傑作、真の、真の勇者だ」
照らされる光源は安物の獣脂ではなく、香油が用いられている。
獣脂が焦げる不愉快な香りの代わりに漂う甘ったるい香り。
「魔族を皆殺しにし、あのにっくきディーヌスレイトを葬る真の勇者が生まれたのだ」
くすくすと仮面の奥で彼、もしくは彼女は笑う。
「『無能』。『戦士』に『忍者』。
『魔導士』に『僧侶』。思えば永き試行錯誤の日々。
プロトタイプ共を超える真の勇者。魔族を皆殺しにする切り札」
彼、もしくは彼女はこれから始まる殺戮と嗚咽を夢想し、甘美な快感に酔いしれる。
「『勇者よ。目覚めなさい』『勇者よ。立ち上がれ』か」
伝説は始まる。しかしその伝説の結幕は神聖皇帝自らも予想していなかった方向へ向かっていくのである。




