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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。ヤツこそは四天王が一角。『水のウンディーネ』
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回想。1967年8月。鳥取県のとある神社にて

「はぁ。由紀子のヤツ。ほんとだらず(ばか)だわ」


 たっちぃこと武田たけだ彰子しょうこはそういってこの時代の日本人女性にしては長身の身体をすくめてみせた。

 豊かな双峰が大きく揺れる。彰子に合う下着は田舎にはない。



「あ~あ。どうしようかねぇ」


 神社の裏の境内の適度なところで寝転がる。


 大きく括れを見せる白くなめらかな腹部が、長身を収めきれない制服から意図せずはみ出てしまう。

 はしたないが誰も見ていないはず。大きくあくびとともにその身を伸ばす長身の少女。

 雑木林には風が吹き、彰子の頬や制服から覘く大きく括れた腰回りを撫でる。



 鳥取は水はけのよい盆地と大山だいせんをはじめとする山で囲まれた県だ。

 県内全域を豪雪地帯とするが、夏場は転じて恐ろしく暑い。

 鳥取砂丘をはじめとして水はけが良すぎる土地は古くは『鳥取に嫁にやるな。潰される』と悪口を言われたほどだったそうである。

 転じて戦後は砂丘でも農業を営める国内有数の緑化技術を有するようになった。


 遠くから近くから虫や鳥の声。田舎特有の『夏の香り』。青い空に白い雲。

 酷暑でなければ彰子は昼寝を楽しんでいたであろう。


「いい天気だ」


 彰子はそういって笑うが。



~ こっちは大雨よッ! たっちぃッ?! ~


 何処からともなく響く親友の声に苦笑い。



「お前、今なにやってるの?」


~ 勇者軍の迎撃よっ! ノームさんの殿ッ! ~


「おお」


 彰子は寝転んだままパチパチと拍手した。神社の日陰に寝転んだ彰子の瞳にうつる大きな入道雲。


「骨は拾えない。残念だがお前のフロフキ饅頭は頂いた」


~ ダメ! ダメ! 絶対だめ! それはたっちぃの鞄に預けただけだからねッ! 食べたら絶交!  ~


「おお。怖い怖い」


 起き上がった彰子はひとりニッコリと笑い、フロフキ饅頭を食べだした。


「あ~。美味い美味い」


~ 食べてるッ?! 食べてるッ?! ひょっとして食べてるぅっ?! 私の今月のお小遣いをッ?! ~



 ちなみにこの時代。物の価値が異なる。

 具体的に言うとサラリーマンの平均月給が82650円。


 男女雇用機会均等法前の時代。女性であるこの二人ならば更に下がる。ほとんどの女性は中卒で当たり前の時代。中卒初任給はなんと4000円(住み込み奉公)。

 味噌1キログラムが121円37銭。醤油が1リットル114円。砂糖一キログラム125円。珈琲77円也。


「うん。あんぱん美味い美味い」


~ 分けてくれるって言ったのにッ! 分けてくれるって言ったのにッ! ~


 この『あんぱん』は甘みのある蒸しパンで餡を包んだ巨大なフロフキ饅頭といった感じの代物で現在でも鳥取県内で販売している。


「姿が見えないと思ったら」


 御伽噺おとぎばなしの国にいます。などと言われて流石の彰子も耳を疑った。



 この時代、ファンタジー小説の概念はほとんど無い。名作『指輪物語』の翻訳版の初版は1972年。

 よって、「御伽噺」といわれれば想像するのは日本の御伽噺である。間違っても西洋風ではない。



「魔王軍? 織田信長にでも会ったのか?」


 必然的に、日本で魔王なる呼称を使った男の話題になるが。


「すっごく綺麗な女の人だよ」

だらず(ばか)。信長は男だ。楽市楽座だ」


 如何に読書家の彰子といえど、『魔王』なる概念はない。ついでに言うと『勇者』も理解できない。



 彰子の想像する親友の状況。


『和風の城の天守閣の上。女装した魔王信長が親友たちに激を飛ばす。

その信長を討ちして止まんと襲い掛る大日本帝国軍の勇者達。

親友は英霊に対して鬼や妖怪を率いて迎撃中』


 だいたい。あってる。



 ~ あってない! あってないからっ?! ~


「じゃ、どういう状況? というか異世界ってなんだよ? 神隠しで仙人の世界にでもいったのか」


~ グリム童話とかアンデルセン童話みたいな感じ? ~


「ほう。じゃ、お前の貞操は残念なことになるな。あるいは海の泡と消える」


~ 不吉なこといわないでッ?! みんな紳士だしッ! あと泡とか真面目に冗談にならないからっ! ~


 あんぱんを唇から一時外して大きく寝転がって伸びをする彰子。

 青い空に広がる入道雲を見上げ、異なる空を見上げる友に声をかけ続ける。



「しっかし、如何な国の神でも悪魔でも交信してその力を借りれるってのに」


~ ううううううううううううううううううう ~


「なぜ、私を選んだんだ」


 ホント。だらずだわ。彰子は苦笑いした。


 いや。それだけ頼ってくれているのは。本当に、本当に嬉しいのだが。



 かつて魔王から直々に『一人、もしくは一柱だけならば如何なる世界の如何なる存在にも言葉を伝えることが出来る能力』を貰った由紀子が真っ先に取った行動は。


『たっちぃ~~~~~~~~! 助けてぇええええええええええええッッ』


 と。叫ぶことだった。


 そんな由紀子に彼女の主君。『魔王ディーヌスレイト』は半眼で呟いた。


「その、『たっちぃ』なる存在、われは知らぬのだが」


 神か。

 魔神か。

 妖精か。

 精霊か。



 問う魔王に由紀子は答えた。


「女子高生です」

「バカヤロウ。やり直しは効かぬのだぞ」

※ あんぱんについて。

 作中で由紀子達が食べているあんパン。遠藤製パン所の玄米蒸しあんパンですが、詳しく当時の話を改めて聞いたところ。


「そんな豪華なあんパンが20円で食えるか」


 と、母から御叱りを受けましたがこのままとします。

 なけなしの20円でよくあんパン食ってたというからいつも土産で買ってくるほうかと思ったのですが甘かったようです。餡だけに。


 ちなみに、フロフキ饅頭が5円。

 高校の授業費が一月900円。その他の学校の必要費用が月900円の計1800円です。

 由紀子のバイト料が月1000円少々。うち900円が授業料。

 由紀子のお小遣いは日給制で一日5円で、貯金が一月100円。

 由紀子の実質のお小遣いは月150円となります。

 あんぱんはとてもとても大事なのです。

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