おかえり
彰子視点
FINAL FANTASY Ⅴより
53.ファイナルファンタジー FFPR Ver.
作曲:植松 伸夫 / 編曲:椎葉 大翼
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「かくして勇者は天より舞い降りた」
蝉の声が遠く聞こえる中、武田彰子は神社の境内で垢まみれの文庫本を読む。
頁は黄色を越えて赤茶色になり、カバーは既になく、表紙の印刷は赤くなったその本を。
「その者の声。戦場に朗々と響き」
さわさわと風が吹き、夏の香りが私の鼻をくすぐる。
何処からか田畑の香りがして苦笑い。今年は豊作になるはずだ。
「その瞳は未来を見つめ」
天を焦がす夏の太陽の光は入道雲にぶちあたって、私を焼くには至らない。
雲は夕方には夕立を降らすはずだ。今日は傘を忘れてしまった。
「その微笑みは頑なる心を溶かし」
それでも夏の暑さは私を爽やかな気持ちにさせてくれる。
夏の熱さは命を燃やし、未来を感じさせてくれる。
「正義の剣をふるい、悪しき炎に立ち向かう」
私は、夏が好きだ。熱くて優しく、強い夏が好きだ。
「その雄姿は人々の心を奮い立たせ」
「嘆くものあれば共に涙を流し、共に歌を歌い。共に歩まんとする」
私は立ち上がり、風に身体を任せる。
夏の光が雲間から差しこみ、きらきらと輝く御稲荷様の祠が現れた。
「そのものは。勇者。人々に勇気を与えるもの」
祠の扉が開き。神鏡が輝く。
「おかえりなさい」
白い輝きは集結し、鏡の中で空に向けて浮かぶ小さな少女の像を結ぶ。
「勇者よ。目覚めよ。汝らは全て勇者なり」
私の腕の中、小さな勇者はまどろみから醒めたように目を開く。
「たっ……ちぃ……」
「おはよう。由紀子」
おかえり。由紀子。子栗鼠のようなまるい瞳が大きく開き彼女の唇が驚きを告げる。
私は彼女の。大きく優しい心を秘めた。小さく華奢な身体を抱きしめる。
「おかえり。私の由紀子」
私に勇気を与えてくれる。小さな小さな。大きな子供。
「たっちぃ?」
彼女の誰何に私は応える。
「なぁに?」
「私のふろふき饅頭」
……。
「分けてくれるって言ってたあんぱん」
「ナンノコトダネ」
彼女の頬は月の様に丸くなり、瞳は輝きを湛え。
「絶交ッ? 絶交だからッ! もう話してあげないっ」
「その台詞、何度目だ」
夏の光の中、私たちは歩き出す。
「明日、かってやるよ。何個でも。飽きるまで」
「ほんとっ? わぁいっ!」
「だから、泣くな」
「うんっ!」
ふふ。
「いこうか」
「うん。なんで寝てたんだろう。私。疲れてたのかな」
……さぁ。ね。
彼女の子栗鼠を思わせる瞳の先が私の手に握られた書にとまる。
「なにこれ。何も書いて無い。ボロボロ。落丁本かな」
「みたいだな」
パラパラと頁をめくる少女。物語は。また白紙に戻る。
それは とても ちいさなちいさな おんなのこ と おとこのこ の
とても おおきく やさしい あい と ゆうき の おとぎばなし 。
太陽の光が輝き、空の斧を掲げた金の髪の女性が。魔王の剣を持った半身の女神が微笑む。
炎が踊り、風が囁き。水が世界をかけめぐり。大地が君を満たしてくれる。
「あんぱん。何個買ってくれるのっ」
彼女はキラキラと輝く瞳で私をみつめ。私は親友に言葉を伝える。
「俺だって小遣い少ないんだ。遠慮してくれよ」
「しないもんッ」
勇者よ。目覚めなさい。
大精霊はいつでも貴女を。
貴方を。あなたたちを見守っている。




