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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
終章。あはは。あの子の名前が知りたいって? あの子は由紀子。私の大切な。親友さ
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『勇者』よ。目覚めなさい

「たっちぃ?」

「よっ 由紀子」


 天使さんたちに囲まれた私たちを救ったのは。私の懐かしい親友でした。


「たっちぃ……」

「話は。後だ」


 彼女は何処からかさす光に対して大きく優しく手を広げ、私を、私達の前に仁王立ちしています。

 うん。私の親友は。かっこいいです。


「とても成績の悪い私のことを、兄さんの妹だからと言って殴りに来た子とは思えない」

「その話を出すなっ!?」


 くす。


 思えばあの呼び出しから頑張って勉強するようになったので感謝していますが。


「由紀子」

「うん」


 わかっています。


「『勇者よ』『勇者達よ』」


 たっちぃの声が。戦場に響き渡ります。


 私は。皆は。見ました。

 私達の前に両手を広げ、輝く黒い髪をたなびかせ。

 堂々と立ち、災いから護ってくれる『大精霊』の姿を。


「『勇者』よ。目覚めなさい」


 尽きたかと思った勇気が、ふたたび。


「精霊は貴方たち心正しき者を目指す命に力を貸し与える」


 星々の輝きが私たちの周りを舞い、散っていった人々と生きる人々の言葉と命を繋いでいきます。


「由紀子。いつも一緒だから」由美子。

「水の」「我らの絆は永遠ぞ」火の。風の。

「由紀子。モフモフ」ダメです。魔王様。神聖皇帝様。

「ウンディーネ様」「ゾンビマスター様ッ 貴方は地獄には連れて行かせません」


「由紀子。頑張ったな」


 私の目の前で背を見せながら微笑みかける人たちの中央には。

 キリリとした瞳、灰色の髪に優しい皺の刻まれた長身の男性。


 ……義父とぉちゃ。


「行くぞ。由紀子」


 剣を手に雄々しく背を伸ばし力強く呟く……ノーム。さま。


「うんっ! 義理とぉちゃん!」


 鼻水と涙が止まりません。でも、私は思いっきり首を縦に振りました。強く。強く。



 しゅるしゅると風が、炎が、水が、大地が私の身体を、魂を包んで行きます。


「我ら四天王」


 私のつぶやきに皆の『声』が続きます。


「その絆、炎より熱く」

「その名は風より世界に轟き」

「水より濃く」

「大地より硬い」


「死が二人を分かつとも、私は貴方と共にいます。ゾンビマスター様」

「水奈子」


 私の右手には『霧雨』。左手には『ギガス・マキナ』。

 足を『風の靴』。背を『炎の外套マント』。水しぶきをあげて身体を包み込むは『水の羽衣』。


 優しいそよ風は暴風の力強さをもって私の脚に。暖かな炎は烈火の怒りをもって正義と再生の力を私の胸に。穏やかな水は渦巻く刃となって私の腕に。力強い大地は勇気となって私を、私たちを包んでいきます。


『我ら精霊は『勇者』と共にあり』


 『大地の鎧』が私の身体を包んで行きます。暖かい。あたたかいです。


退くな」


 私は呟きました。


「我らは『人』と成るッ! 今こそ立ち上がれッ! 『勇者』たちよッ!」


 私の声は戦場に響き渡り、皆は歓声を持って応えてくれました。

 見えます。見えます。私の瞳に。心に。『勇者』達の戦う様が。

 感じます。『勇者』たちの与えてくれる勇気を。優しさを。



『ぐはっ』


 その声に久さんが笑ってみせました。


「遂に姿を現したな。ドブスが」


 不思議な空間の中で、久さんと『女神』が戦っています。


「久」「久さま」「ヒサシ」「久よ」「勇者よ」


 エアデ、フランメ。ツェーレ、ヴィンド、神聖皇帝。

 俺に。力をくれと久さんが呟きます。


 彼の蹴りを受けて屈辱に震える『女神』に久さんは笑ってみせます。


「どうも、魔力切れらしいなぁっ?!」


 彼の両の手に『風』が『想い』がまとわりつき。

 禍々しい目玉を持つ邪聖剣と、輝く金剛石のナイフになっていくのがわかります。


「そ。それは『魔皇剣シトラス・ソード』!」


 うろたえる『女神』に、らしいな。と呟く彼。そして。

 彼の左手に握られた透明の剣。


「これは『百八の煩悩ダイヤモンドソード』って剣らしいぜ」


 ドブス。テメェの負けだと久さんが勝ち誇ります。


「いけいけ」「久様」「俺たちの大将!」

「最後はズバッと決めてくださいよ!」

「久様。お慕いしております」

「ぶっとばせええええっ」「いけっ ヒサシのあんちゃん」

「勇者様」「我らの安寧を御守り下さい」

「命は暖かいのです。ヒサシ様」「久さま」


 たくさんの亡くなった方々の想いが、流れていきます。


「ひさし。勝て」


 これこそが魔王様の。神聖皇帝様の『伝える者(メッセンジャー)』の御力おちから


「行くぞオオおぉっ!」


 力を失い、具現化していく『女神』に斬りかかる久さん。



 絶望に震えていた兵士さんは見ました。

 自らの前に立ちはだかり、『天使』から身を護ってくれた『大精霊』の微笑みを。

 恐怖に脅えていた野兎は聞きました。

 『大精霊』の優しく。力強い励ましを。私の激励を。久さんの闘志の雄たけびを。

 地割れに飲み込まれんとする盲目のお婆さんは嗅ぎました。

 『大精霊』の太陽の光溢れる夏の香りを。

 炎に撒かれた蛞蝓なめくじは。熱風に煽られる鳥たちは。燃え上がる木々は感じました。



 『勇者』よ。目覚めなさい。

 『勇者達』よ。立ち上がりなさい。

 馬さんたちに乗って私達は槍をそろえ一斉に駆け抜けます。

 魔族の戦士さんたちが剣を、杖を取ってそれを護ります。

 燃え上がる木々は大地から水を吸い。身体を張って延焼を止めます。

 虫たちは。鳥達は傷ついた羽を。翼を広げ、『天使』に立ち向かっていきます。

 燃え盛る森の中、熊が爪を振るい。小さなねずみさんが。栗鼠りすさんが。

 狼さんが牙を光らせ、狐たちが警告の声をあげる声を。感じます。

 吹雪に凍える草原で、円陣を組む水牛達に囲まれた小さな獣たちの応援を受け、象が鼻を振るい、ライオンが戦いを挑む姿が。見えます。

 人々は。獣たちは。生ける物は弱きものを護り、共に駆け出します。

 命なきはずの魔生物達も、最後の命を輝かせます。


 砕けたはずの四門さんが最後の力を振り絞り。

 微塵となって消え去った不死者達が奮起し、『私たち』の盾となってくれます。

 その中央には石の剣を振るう男神と、ひれをもった少女の女神が共に微笑んでいます。

 神様に、なったんですね。お幸せに。


 つぎつぎと『天使』が倒され、その白い翼が、黒く染まっていきます。感じます。わかります。


「怯むなッ 精霊の加護は我らにありッ」


 私の声、皆さんに届いています。


「ウンディーネ様に続けッ」

「水の魔女と大精霊の加護を信じろッ」


 皆さんの声、私に届いています。


「ばかな。ばかな。こんなことなど。ありえぬ」


 『女神』だったものは醜く歪んでいく半身を押さえて呻きます。


 久さんは『女神』に魔皇剣を。金剛石の剣を振るいますが。


「無駄だ。貴様たち勇者は、我に傷をつけること叶わぬ」


 あらゆる聖魔を滅ぼす魔王の身から鍛えられた剣も全ての欲望を叶える魔王の剣も『女神』には通じず、『女神』の哄笑が世界に響き渡り。


 それでもあきらめず、剣を振るうひとの為に。みなのために。


「たっちぃ! 飛ばしてッ」

「おうっ!」


 星々の輝き、人々の命と思い、夢と希望と勇気の輝きが粒子となり、私は飛びます。

 あの人の元に、いまだ戦い続ける彼の元に。


「久さんっ!」

「由紀子ッ」


 不思議な星たちの舞う広間で私たちはお互いの顔を再び見ることが叶いました。

 自然と微笑み合います。くちづけも。手も握った事もありません。

 でも、お互いの気持ちは。繋がっています。


「助太刀いたします」


 『霧雨』が。水を。風を。炎を。そして大地を纏います。

 そう。これはもう『霧雨』ではありません。

 人々の想いを天につなげる風の斧。

 魔王様の武器『空の斧スカイアックス』へと変貌していきます。


「想いよッ! 空に届けッ!」


 私は魔王様の斧を空に。星に。輪に。月に。太陽に掲げます。

 久さんの剣が『女神』の身体を切り裂いていきますが血の一滴も出ません。


「無駄だ。無駄だっ! 久。由紀子ッ! 異世界からの勇者である貴様たちには私を倒すことはできんっ!」


 私達二人の剣に正面から貫かれて尚、『女神』は勝ち誇りました。不死身ですか。ありえません。焦る私たち、勝ち誇る女神。


 その時です。


「なら。俺たちが」

「引導を」


 『女神』の胸から突如二本の鉄の剣が飛び出しました。


「ウンディーネ様ッ!」

「久様ッ!」


 幼さを残す凛とした少年の声。優しさと強さを併せ持つ少女の声。この声には聞き覚えが。


「エル……くん?」


 第四軍団と共に去った魔族の少年兵士。


「シズカ? さん?」


 そして、私が救った幼き娼婦。


「お久しぶりです」


 微笑むエル君とシズカさんの二人の背後には、この『世界』の生きとし生けるもの全てが、あたかく。暖かくほほえんでいらっしゃいます。


「ばかな。ばかな。『私』は。女神なのに」


 ふるえる『女神』は呪いの言葉を吐きました。


「ただの剣に、ただの鉄の剣で死ぬはずが無い。『女神』の私は貧弱な人間などには」


 二本の剣を抜こうとしつつ、弱弱しく崩れ落ちる『女神』。そこに。



『人間だろ』


 不思議な声が響きました。

 いつの間にか立っていた大鎌を持った男の子が皮肉げに微笑んでいます。


『忘れてね?』


 大きな鎌を手に、その子はつぶやきます。


『貴様ッ?! 『死神』?』

『ああ。迎えにきてやったぜ』


 しに……がみ?

 手を伸ばす『死神』を名乗る男の子に厭々と首を振る『女神』。


『さ。早くきな』


 『死神』と呼ばれた男の子は凛とした声で告げました。

 『目覚めなさい。勝田 萌子』と。


「いやあああぁぁぁぁっっ」


 その声を聴いて、金色の髪を振り乱し、頭を掻きあげ、老婆のように崩れ落ちて叫ぶ。『女神』。


 え……? かった……もえ……こ?


「どうしてっ! どうして私がこんな目にあうのっ!? 『神様』ッ! 

応えてッ! 応えてッ! 応えろッ! 応えろッ!!!!」


 え。え……。

 泣き叫び、呪いの言葉を吐き、醜く、悲しく取り乱す『女神』。


「『きさま』ああぁぁあああああっっ?!」「きさまぁああっ?!」「きさまあああああああああああああああああああああぁぁぁぁああっっ?!」


 少女のように泣き叫び、老人のように呪詛を吐き。赤子のように泣き叫び。

 呪いと怨嗟と絶望の声をあげながら『女神』だったものは『死神』に腕を引かれこの世界から消滅していきました。

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