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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
終章。あはは。あの子の名前が知りたいって? あの子は由紀子。私の大切な。親友さ
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久。チート能力喪失

「ここは」


 何処だろう。久は頭を振った。

 目の前で憎き魔王と、憎みあい暗闘を繰り広げながらも協力してきた宿敵にして盟友が、お互いの魔玉をくり貫きあい、握りつぶしあって滅んだ後。


「俺は。落ちたはずだ」


 そう。魔力の源は『命』。人々の命。『勇者』や『魔王』が死ぬことで満たされる。


「なんだこれは」


 久は見た。圧倒的に大きな青い青い丸いもの。そしてそれを取り巻く美しい『輪』を。

 アポロ計画が本格的に始動するのは1968年以降。NHKがラジオ契約を廃止し、カラー放送契約を行うのもまた1968年から。

 即ち『青い星と黒い宇宙空間と輝く星々』は久の知識にはないものである。


 だが、久は知った。直感で知った。


「これは。あの国? いや、由紀子さんや皆がいるところ?」



「その通りです。勇者・武田久よ」


 涼やかな声が久の脳裏に浮かぶ。


「お前は。ディーヌスレイトじゃねぇのか」


 見覚えは無い。金色の髪を除き由紀子に似ていると久は思ったが。


 『金色の髪を持つ何か』が傍に存在している。

 久が認知できるのはここまでであった。


「貴方が眺めているのは私の箱庭」


 ぞくり。



「姿を見せろ」

「人間如きが、神を知覚できると思っているのですか。エアテやヴィンド、ツェーレのように」


 ぞわっ。久の身体に鳥肌が立つ。


「それとも。このような姿がお好みでしょうか」


 久の目の前に老人が現れた。何故か土下座している。


「すまぬ。間違って君を殺してしまったのじゃ。香緒里君ッ!」


 久は知らないが、彼はツェーレこと、古崎香緒里が自信を失い、自宅から出なくなった原因である老人に酷似している。



「なんだ。この爺さん」


 久は目を丸くさせる。まったくもって意味が解らない。


「うふふ」


 女性の声は愉しそうだ。

 老人は消え去り、今度は美貌の女性が現れた。


「昌一。勇者昌一。目覚めなさい。餅を喉に詰まらせて死んだつまらない人生はゲームの世界の出来事です」


 好みとしては久のそれに近いが、胸は控え目で形が整っている。


「さぁ。貴方がゲームだと思っていた世界こそが真実の世界なのです。今こそ魔王の魔手より世界を救うのです。仲間たちと共にッ!」


 女性は朗々と告げ、愉しそうな笑みを浮かべる。


「『しおいち』ではなく『昌一』になってますので安心してください」


 呟く女性に久は苛々とする。

 ヴィントのプレイしていたTVゲームの登録名は四文字制限でひらがなのみなどという知識は久にはない。



「おい。誰だか知らんがいい加減茶番はやめろ。というか、俺たちは魔王を滅ぼしたんじゃないのか」


 久の答え代わりか、小さな女の子が出てきた。年齢は三歳くらいだろうか。


「ごめんなちゃい。河嶋さん。ぼく。ぼく」


 いきなり大声で泣き出し、鼻水を流しながら土下座する幼女を久は呆然と見ている。


「お、おい、泣き止め」


 久は子供が好きだ。だが。


「ごめんなちゃいいいいいいっ! ぼくが間違えておにいちゃんを死なせてしまったんですぅぅうっ!」


 そう叫ぶ子供の泣き顔に、邪悪な意図が見える。計り知れないほどの邪悪さを。


「お詫びに。力を授けます」


 今度は紳士風の青年。


「おにいじゃんは死んじゃったから元の世界に戻れないのぉ」


 また、幼女。


「代わりに、生まれたての世界での再出発を提案します。ええ。炎のように美しい身体と強い肉体、魔法の力を授けましょう。これは私のお詫びの印です」



「ナニが。お詫びだ? 何処が。お詫びだ?」


 久は、静かな怒りをその『人形』たちに。その『人形』を操る『何か』に告げる。


『異世界で、勇者となるのです』


 なめんな。久は呟いた。


「笑っただけで女が勝手に惚れ、指一本で人が死に、不平不満を言うモノも懐柔してしまう力。自分の生まれ育った国でもなんでもないところで『尊敬』しかされず。自分の力でもない力を振るって暴虐の限りを尽くす連中を、何故招く必要があるんだ」


 1967年を生きる久には。ゲームやライトノベルと言う概念がない。


「『勇者』だからかしら」


 姿の見えない。金色の髪の邪悪は微笑んだ。


「ヒサシ。貴方と由紀子は違うみたいだけど」


 その金の髪の邪悪の哄笑が、星を見下ろすその不思議な空間に『響く』。


「愉しかったわッ! 『チート能力』を振るい、好き勝手に、思うままに生きる連中の生き様ッ! 恋人のいる娘を寝取り、怒り狂う恋人を罪人に仕立て上げて返り討ちにしッ! 王や貴族の子に生まれて付け焼刃の内政を行うッ 無理や無茶があってもちゃんと成功するの。 だって私の『加護』があるだからっ! 全部成功するわッ! 当然ねッ!」


「おい」


 久は。震えていた。同じ。日本から殺されて連れてこられた仲間達の。真実。


「豚の糞があるのにっ! 堆肥にもなっていない人糞をばら撒いて国が発展したとか言ってるのッ! 私の加護のおかげっ! ぜーんぶっ! ぜーんぶっ!」


 ゲタゲタと笑う。女の声に。久の拳が握り締められる。口元が激しく痙攣し。腕に鳥肌が立つ。


「黙れ」

「愉しいッ! 愉しいわッ! 調子に載せて、載せて載せて、『勇者』になっていく道化共ッ?! その道化から『チート』を奪って、なんでもない小物に殺される。あの、あの絶望の顔っ?!

久ッ 由紀子ッ 貴方たちに、貴女達に見せてあげたいくらいよッ! いやっ 見るべきッ 最高に。最高に。面白いのよ。素敵だからっ」


 久の脳裏に。由紀子の脳裏に。


 エアデの。ヴィンドの。ツェーレの。フランメの。否。

 今までの『勇者』や『魔王』たちの絶望と嘆き、神への呪詛が蘇る。


「……」


 久の拳が。強く握り締められた。その拳は。空手で鍛え抜かれたゴツゴツとしたタコがある。

 その掌には。職人としてつけた火傷の痕が。タコが。傷がある。


「久。貴方は私を恨み、呪い。嘆き悲しみながら死ぬの。貴方にはチート能力も魔力ももう無いわ。ただの丁稚奉公のガキよ♪」


 『金色の髪』がいる方向に空手の構えを見せる久に哄笑が響く。


「『神』がお前たち如きを踏み潰したからと言って謝罪をすると思うのっ?

蚊を叩き潰し、毛虫を踏み潰した人間が謝罪をするのっ?! お詫びに力と転生をつけるっ?!

そんなはちゃめちゃな理由を信じちゃうのっ?! 自分の行動を照らしあわして考えられないのっ? 愚か! 愚かなる子供たちっ!」

「うっせんだよ。ブス」


 かかってこい。久は拳を構える。


 息吹と共に足場の無いはずの空間に四股立ちで構え、鋭い瞳で『そこ』を睨む。


「『あの壊れた魔玉』は、貴方を完全な勇者にすると張り切っていたわね♪」


 久にその金色の髪の悪意は告げる。


「あなたの正体は。『完全』ではなくて、『限界』なの」


 哄笑は告げる。所詮壊れた魔玉の見たはかない夢よねと。


「完全になれないくせに、完全を夢見た愚かな壊れた玩具♪

完全で、素敵な、私の操り人形♪ 二人とも私の。おもちゃ。

最後に私に逆らうつもりなら」


 砕いて。あ げ る。


 青い丸い『世界』に突き刺さっていく、赤い炎。隕石雨。津波がおき、地震が町や村や人々、魔物や動物を飲み込んでいく。


 

「行きなさい。私の可愛い子供たち♪」


 白い翼を持つ男女が武器を持って『魔王城』に向けて飛びたっていく。魔族を、人間を見境なく。殺していく。



「絶望しなさい。久」


 哄笑を上げるその存在に。


「貴方は。『勇者』は。『魔王』は。『命』は私の ご は ん ♪」


 嘲り、罵る存在に。


「するわけないじゃん」


 久はニヤリと笑った。あの下には。アイツがいる。

 あの炎につつまれる『世界』の下。絶望に抗い続けた『勇者』がいる。

 だから、くじけない。絶望しない。やるべき事を。やれる事を。久は投げない。


 だから、久は。頭をその存在に下げて見せた。感謝を込めて。


「何故、感謝するのかしら? あなたの口から聞きたいわぁ」


 愉しそうに笑う『金色の髪』。

 

 全ての力を失い。もとの小さな少年に戻った男はニコリと笑った。


 「全てに。さ」


 天変地異が今まで久たちが守ろうとした世界を砕いてゆき、魔族や人間を天使たちが殺していく様子を見て尚。久は絶望しない。『金色の髪』が眉を顰めたような。気がした。


「てめえの与えた力なんか。ノシつけて返してやるぜ。これで思う存分。てめぇを俺だけの力で殴り飛ばせるからなぁ」


 星の見守るその空間で。久はその存在に手招きをして見せた。

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