表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。貴様が勇者ヒサシか……
40/86

いつか。きっと

「勇者様だっ!」

「ヒサシ様ッ!」

「久様は御存命だッ!」


 湧き上がる群集に久さんはニコリと微笑み、腕を上げました。

 その笑みは。優しいのに。明るいのに。私には泣いているようにみえました。


「俺はここにいるッ! 魔王も魔将も俺の敵では無いっ! むしろ従えて見せるッ!」


 ちょっと。かっこいいですよね。ね。たっちぃ。


 たっちいの声が聞こえません。どうなっているのでしょうか。


『お前にはもうチート能力がない』


 ちぃと。能力。あの不思議な力が私にも僅かながらあったのでしょう。

 そういえば、この世界の人たち、日本語に良く似た言葉を話していますよね。

 なれましたが不思議です。


「俺の横を見ろッ! あの魔将サラマンダー。魔将シルフィード。そしてあの悪魔と言われた魔女……」


 むか。


 ぎろり。にらんであげます。


「み、み、『水のウンディーネ』がいるッ! 俺たちは負けていないぞッ!」


 慌てふためく久さん。ちょっと可愛いです。


「うオオオオおオオおオオオオオオおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ」


 穢れなき婦女子に酷いことをしようとしていたのに、調子のいい人たちです。

 この世界の魔法は私の例に漏れず、傷ついた心すら治してしまいますが。

 ひょっとしたらそれは逆に抜本的な解決を成していない気もするのです。


「勝手に従者にされているのですけど?」


 私が苦笑すると、シルフィードさんとサラマンダーさんも呆れています。

 風の。火の。苦労ばかりかけますね。


「本当に、本当に調子の良いヤツだ」

「でも嫌いじゃないでしょ。サラマンダーさん」


 そういって火のに笑うと、風のが意地悪な事を言います。


「ヤツはノームの仇だぞ」


 知っています。でも。ノームだって久さんを嫌っていませんでした。

 闘わざるを得ないから。大切な人を護る為に。お互い闘ったんです。

 凄く。恨んでいますよ。本当は。でも理解できるんです。赦してあげられるんです。


「今の私には『ニコポ』という力は無くなっていると思うのですが」


 どうして二人は最後に私を助けに来てくださったのか。

 会議の時の二人は火のも風のもちょっと辛辣でした。恐らくあのときから衰えはじめていたのでしょう。


「お前は命の恩人だからな」


 風のはそういいました。


「魔王様の心の友は我らの友。魔王様を護りし四天王の絆は。水の。お前の功績だ」


 火の。泣いちゃうじゃないですか。莫迦。


「この証文を見ろっ! 魔王直々の署名だッ!」


 火のと風のが持ってきてくれた証文を群集にかざす久さん。


「人と魔族。1000年にわたる抗争は終わりを告げるッ! 魔族が占領する『魔都』こと『聖都』は『神聖皇帝』を受け入れるッ!」


 皆の声が止まりました。


「俺は、客人となり、『水のウンディーネ』を娶り、復興および神聖なる神殿建設の指揮を執り、君たち農奴の解放を魔都、いや、新たな『聖都』にて保障する」


 ん? 何故か凄く変な事を久さんがおっしゃった気がしますが。

 たっちぃ。たっちぃ。久さんなんかいいました? ……無視ですかそうですか。


 呆然とする群集に朗々とした久さんの声が響きます。チート能力って凄いですね。


「君たちは、労働者、技術者となり、『聖都』の復興に従事するが、一切の虐待は俺が許さん! 俺たちは自由人となり、新たな『聖都』の建築に従事する。魔王をはじめとする王政、貴族制度は廃止とする!

 我らに必要なのは自由でも、安穏とした束縛でもない。最初から始まる。『ゼロ』だっ!

自らで考え、自らで富を生み出し、自らで生きて死ぬッ! ゼロなんだっ!」


「俺とともに、新たな国を作り、世界を作る『勇者』はいないかっ! いたら手を上げろッ!」


 小さな手が。上がります。『子供たち』の一人です。久さんにナデナデしてもらって、嬉しそうです。


 ゆっくりと、おじさんが手をあげます。続いて、若い兵士さんが。年老いた奴隷の人が。

 娼婦のお姉さんが。騎士のお兄さんが。貴族や、王族の人までもが。


「今から、俺たちは自由人だ。リーダーは公正な選挙で決める。立候補したいやつは名乗れッ!」



 久さん。カッコイイですね。月光仮面さんみたいです。

 大喜びする人間軍残党の皆さんと、監視を行っていた魔族軍の皆さんは早くも酒盛りを始めています。


 誰かが、近づいてきました。ええ。だれかとは言いません。解りますから。


「俺は『憎むな 殺すな 許しましょう』じゃねぇ」


 本当。あの中心からいつのまに抜け出したのでしょうね。


「武田さんの声、今は俺しか届かないみたいだな」


 そうなんですか。残念です。たっちぃ。なんて言ってるのかな。


 久さんは熱狂する皆を避けるように私を連れ出しました。


「俺は魔族が憎いし、殺したい。そして許す気なんて欠片も無い」


 だが。必要なことだから。

 解ってます。私も。だから。ノーム。

 私たちは皆から離れ、天幕の元で『輪』と天の川を眺めます。

 でぇと(デート)。じゃないですよ? 恥ずかしい。


 綺麗な星と。輪と。天の川。そして。月。ふと、思いついたことを口にしてみます。


「月光仮面さんの頭の飾りって満月じゃないですよね」

「ん? そうだな。気にしたことなかった。カッコイイし」


「どうして。カッコイイか解ったんです」


 酒を呑み、騒ぎあう人間や魔族を見ながら、私は彼に告げました。


「とおちゃんが言ってました。人は正義を目指すと同時に、悪い事も覚える」


 でも。


「月がいつか満月になるように、雨空が晴れるように」


 いつか満たされ、晴れるように。

 大切なものを。いつかつかむ心を持つ。悪と善の間で人間は。成り立つのだと。


「月って素敵ですよね」

「ん?」


 太陽さんの照り返しなだけなのに。魔族を苦しめる太陽の光のはずなのに。


「欠けていても世界中の全てを、昼も夜も照らし続けてくれる」


 太陽より弱弱よわよわしくて、欠けて傷ついていても。いつか丸くなるその光で。


「久さんもなれますよ。月光仮面さんに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ