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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。貴様が勇者ヒサシか……
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死闘(久視点)

 『聖剣』は俺が呼べば何処にでも現れるという事は魔族には知られていなかったらしい。

 魔王城に侵入した俺は、まばらな兵士たちや魔物を撒きつつ、魔王を討つべく歩みだした。


 不思議だ。寒気がする。

 大切な人を。何人も失った。

 諸悪の根源の魔王をやっと討てるのに。何処か躊躇う心がある。

 そうだ。あとに残された皆だ。

 俺亡き後、神聖皇帝と彼らはどうなるのだろうか。

 魔族軍にはまだ六万もの戦力があり、俺たちの生き残る術は降伏し奴隷になるしかない。

 それでも勇者も神聖皇帝も敗れたとなると、もう人類の希望はなく。

 人間は魔族の血袋として絞られて、食われ、犯され。戯れに殺され。運の良い者は奴隷になるだろう。


「魔王を討てば。魔族は勢力を失う」


 神聖皇帝のヤツはそういったが、真偽の程は確かめようが無い。

 魔王が倒されれば俺たち『勇者』はお払い箱だしな。俺の国の皆はどうなるんだろう。

 短い間だった。もっとやりたいことがあった。俺を勝手に呼び出したクソみたいな国だが。


 ……いい国にしたかった。


 ああ、この先は暑い。しかし。怖気がする。


「なぁ。サラマンダー」

「きたか。久」


 熱気の源の男は、音もなく石で出来た部屋の中央から現れた。

 口げんかもいっぱいした魔将。

 憎むべき敵だがもし同じ立場なら親友になっていただろう。


「久。まさかお前相手にサラマンダーだけで闘うと思っているのか?」



 窓の無いはずの部屋に暴風が吹き荒れる。

 風は青い光となって集約し、人の姿を取る。

 貴様は。まさかありえない。


「魔将。二人だと?!」


 腕を組みクククと笑うサラマンダーと顎に指を添えてにやりと笑うシルフィード。


「その通り」

「人払いしてよかった。思う存分暴れられるぞ」


 これは。危ない。サラマンダーだけなら勝てなくはないが、仲が悪いはずのシルフィードも出てくるとは。


「お前ら、仲が悪いんじゃねぇのか?」

「我らは魔王様の創造物。魔王様が滅べば我らも滅ぶ」

「ククク……魔王様LOVEよ」


 おい。おい。お前そういう冗談の才能もあったのか。サラマンダー。恐ろしいヤツだ。そして奴らの炎が、風が一気に膨れ上がる。


「では行くぞ」

「いや、その前に心の準備が必要だ。あと身体の準備と準備運動と腹筋背筋。ラジヲ体操も重要だ」


 俺の冗談は全力で無視された。流石魔将シルフィード。恐ろしいヤツだ。

 本当に。本当に。ノームのときといい、オマエラといい気持ちのいい『敵』だった。本気で憎みあい。闘って。殺しあって。それも。今日で終わり。

 終わりなんだな。


……。

 ……。


「はぁ。はぁ」


 銘刀『風鳴』を左手に、炭化して取れた右腕を庇いつつ歩く。

 あちこちシルフィードの風でやられて。動き難い。耳も。聞こえない。

 息は。二人と戦っている間に熱で肺を少なからず傷つけた。らしい。


 

 それでも。


「ディーヌスレイトぉぉぉぉッ」


 そいつは。月を眺めながら本を読んでいた。

 いや、月だけではなく、星や『輪』を見ていたのかもしれないが。

 夜明け前。ほのかな空の藍と星たちの輝きが。美しい。

 今の俺に『美しい』と感じる感性があるのが驚きで。少しだけだが、笑うことができた。

 ヤツは。いや。その娘はこちらを振り向き微笑んだ。


「きたか」

「貴様を。殺すううううっ」


 俺の声を聴いて彼女は詩集のページを閉じてため息。


「困ったな。私は本当は死にたいのだ。だが。殺されてやることは出来ない」


 なにを今更。

 女を殺したり、傷つけるのは俺の性に合わないが。コイツだけは。コイツだけは。

 俺は剣術は苦手だ。だが、自分を壊しながら敵を討つことは。出来る。

 フランメがいたら俺に『SEKKYOU』という矛盾した説教をはなつであろう。

 エアデがいたら俺を馬鹿にしただろう。

 ツェーレがいたら俺にどんな傷も治す不思議な薬を塗っただろう。

 ヴィントがいれば奇跡とやらで俺を癒せたかも知れない。

 だが。今はいない。


 俺の剣をかわしながら何事か訴えるディーヌスレイト。だが、聞く必要は無い。

 そうだ。俺たちは殺しあうために。この場にいるのだから。


 気がつけば夜が明けようとしている。


 しゅるしゅると『風』が彼女の手元に集い、青く透けた大斧の姿を取る。


「知っているかも知れぬが。これが『空の斧スカイアックス』。殺傷力はなく、強い風を吹かせるだけのつまらない力を持つものだ」


 ディーヌスレイトの笑みは底が知れない。微笑んでいるように見えるし、泣いているようにも見える。


「だが、『想い』を『伝える』私が持つ場合」


 ヤツの真価、召喚能力によって異世界の魔王たちの能力が具現化していく。


「『万魔を打ち砕く魔皇の剣』『百八の欲望を司る金剛石の剣』」


 目に見えない百八の剣が俺を襲う。俺は『風鳴』をヤツに投げつけ百八の聖剣を防ぎ。飛ぶ。

 風を引き裂き、炎を貫く飛び込み二段蹴り。俺の切り札だ。


「あっ」


 色気のある声をあげて吹き飛ぶディーヌスレイト。

 この蹴りは腕で防ごうが膝から前蹴りに変わるだけで威力が衰えることは無い。

 ヤツの細腕を粉々に砕いた俺は。呟く。


「来いッ。『聖剣』」


 手元に光が集い、『聖剣』が俺の元にはせ参じる。


「死ね。魔王ッ」


 やっと終わる。やっと眠れる。やっと。仇が討てる。やっと。やっと。


~ なにやってるんだよ。久 ~


!? この声は?!


~ おいこら。でーさんになにするんだ。可哀相だろうが ~


お、お前は?? 彰子さん? 何を言ってるんだ?


~ さっきから、由紀子に声が届かないんだ ~


?????????


~ 頼む。今すぐ由紀子を助けに行ってくれ ~


 何を言っている。魔王を倒せるのは、こいつを殺せるのは今しかないのだぞ。


~ いってくれっ! 久ッ ~


「我らからも頼む」

「旗色が悪いようだ」


 不意に後ろから声をかけられ、振り向く前に解った。

 肌を焼くような熱気と骨を引き裂くような冷たい風。


 て、てめぇらは死んだはずだろう???!


「知らなかったのか」


 目を見開く俺にサラマンダーはニヤリと笑った。


「『遍在』があるのは俺だけではない」


 シルフィードはそういって微笑んだ。


「なかなか、楽しかったぞ。久。俺の一部を素手で滅ぼす人間がいるとは思わなかった」


 サラ。まんだぁ……。

 魔王に加えて魔将二名。どう闘うべきか。

 まず、魔王にトドメを刺す。あとは知ったことではない。


~ やめろおおおおおおおおおおおっ!!!!!!! ~


 手が。止まる。


~ 由紀子とでーさんがどれだけ心を砕いてくれているのか。知っているだろぉっ ~


 知るか。由紀子さんの友達の君の言うことでも。聞かない。


「我らの望みは人間の『皆殺し』なのだが」

「魔王様は人間を含め、この世界の命を愛していらっしゃるらしい」


 奴らはほほえんだ。


「そして、魔王様の意思は。我らの意思」

「久。由紀子を救ってやってくれ」


 アバラが折れて、顎が砕かれたはずの娘は俺の脳裏に『声』を送ってきた。

 しかし、由紀子さんがいる場所に今から。この身体でどうやって?


~ 私とお前が望めば、『勇者』の元に飛べるんだ ~


 ああ。そういうことか。合点したよ。武田さん。君は勇者に力を与える子。だったよね。

 だったら。いつの間にか俺たちが同じ場所にいる不思議な現象も理解できる。

「由紀子さん。……由紀子ッ!!」


 俺の身体はふぅと音もなく幻のようになっていく。

 サラマンダーが笑った。親指を俺に突き出す。面白いので真似した。

 俺は『風鳴』をシルフィードに投げた。ヤツはそれを鞘ごと受け取ってみせる。

 俺は由紀子の『声』を聞くために。『飛ぶ』

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