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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。跪(ひざまづ)くがよい。あのお方こそ我らが主。魔王様だっ!
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和平条約。締結へ

「皆奴隷は必須だろうな」

「戦費の請求もな」


 火のと風のが楽しそうに笑っています。今回の戦役。最大の戦果を挙げたのはこの二人です。


「奴隷はやりすぎだ。人間どもは高度な技術を持つ」


 二人は私を睨むと、条約の文章を吟味しなおします。


「なら、毎日百の良質な『血袋』を用意させるのはどうだろうか」

「良い提案だ」


~ どこがだよ ~


 絶対ダメです。皆殺しと同じじゃないですか。


「水のよ。お前は甘い」

「まぁ我らは『甘い』の意を実は知らぬのだがな」


 炎のと風の。くだらない冗談を言わないで下さい。


「勝ったのは我ら。ヤツらの処遇を決めるのは当然だろう」


 風のが呆れたように言います。


「ククク……皆殺しだ。甘美甘美」


火のっ?! ダメですよっ?!


「畏れながらウンディーネ様」

「なんだ?」


 その魔族の人はニヤリと笑ってこういいました。


「人間相手だから、手加減ですか?」


 ……。


「それは」


 どういう意味ですか。


「いえ、お仲間にお優しいと。十六万も焼き払わせておいて」

「……」


~ おい。てめぇ。前線に出て、その台詞吐け ~


「大精霊殿がお怒りのようだ」


 風のが叱責してくれて、その魔族の人は頭を下げて退出していきました。


「少なくとも、勇者、もしくは神聖皇帝をこちらで丁重に扱う必要性はあるな」


 ついでに毒を盛ることも考えるべきだが。と炎のが余計なことをいいます。


「全焼した『魔都』の復興には、奴隷と人柱と『血袋』はいくらあっても足りぬ」


 風のが呆れながら炎のに告げます。その旗印を簡単に殺してどうすると。


「毎年百の良質な『血袋』を請求。現在生き残っている人間軍の後方支援部隊は全員奴隷の焼印をつけて、都市復興に従事させるべきだ」

「賠償金もたっぷり取るべきだ。ヤツらの略奪。強盗行為は目に余る」


 ダメです。ダメです。


「水の」


 サラマンダーさんが私を睨みました。


「な、なんだ」

「魔将の義務を果たさぬものは『水のウンディーネ』を名乗る資格は無い。出て行け」

「……」


~ おい。サラマンダーさん。そりゃないぜ ~


「『炎のサラマンダー』」

「はっ。魔王様」


 遠くで魔王様とサラマンダーさんの声が聞こえます。



「由紀子。お前の意見を聞こう」

「おい。水の。何を座っている。魔王様の御前ぞ」


 風のに急かされ、無理やり立たされ……というか、宙に浮かんでいるのですが。私。


「風のの。変態」

「……」


 私を持ち上げる風が止みました。

 風のがいじけているのを炎のが慰めています。

 意外とあの二人、仲良いんですよね。二人とも否定しますけど。


~ 二人とも。男色かな ~


「違う」

「違うぞ。大精霊殿」


 言い争うたっちぃと二人を無視して、魔王さまと向き合います。

 お仕事中の魔王様は。厳しくて怖い雰囲気を放っています。



「人間どもは十六万の民を失いました」

「ご苦労だった。此度の四天王の働き、見事である」


 私たちは膝をつきます。我ら四天王は魔王様直属。魔王様の言葉は絶対なのです。


「『土のノーム』は、まだ空席にしておいてほしいのですが」

「第四軍団の復活には、まだ時が必要だな」


 魔王さまは頷いてみせます。


「違います。畏れながら義父の意志は、まだ残っているからです」

「ほう」


 ノームはいいました。殺し殺しあう関係は、いつかお互いを破滅に追いやると。

 だから、由紀子おまえが将になり、魔王様を補佐しろと。


「赤十字軍の活躍、尊い犠牲は大きく」

「あれは今回の戦乱で敵を殺さずして多大な戦果を挙げた」


「バルラーン絶対防壁の死闘では第一軍団の勇者達が」

「手厚く、遺族への保障を約束する」


「魔竜山脈の撤退戦では」

「第四軍団の主力とノームを失った」


 そうです。その気になれば、ノームは。ノームはもっと闘えたはずなんです。


「義父は、殺しすぎるな。捕虜を虐待するな。殺すより挫くことを考えろと教えてくれました」


 私は、その言葉を最後まで守れませんでした。だって。私も。醜い『人間』ですから。人間の穢さや、愚かさ、凶暴性を知っていますから。

 それを、皆に晒すなんて。いえ。詭弁ですね。私に向けられるのが。怖かったんです。


「何故だ」

「戦いになれば皆奴隷にし、殺すのが常ぞ」


「私の祖国は先の大戦で兵士のみで二百三十万の死者を出し、一般人も婦女子を含めて八十万が犠牲になりました」

「……」

「……」


 二人が冗談だと思うのは。理解できます。


「生産力の低いわが国は、小さな工場や個人宅で兵器を作っていると吹聴されて、各地を空襲で都市ごと焼き払われました」

「原子爆弾という爆弾で、10万の都市が二つ消滅しました」

「戦争が終わると、植民地の皆さんが助けてくれましたが、仲間と思っていた一部の人たちは私達に」

「それでも。私たちは奴隷になっていません。未来は明るく。微笑みあう国になると信じています」



「……」

「……莫迦らしい。ノームの爺の戯言だ」


 炎の。これは重要なのです。


「今は勝ちました。でも忘れないでください。今回の勝利は、ノームの遺産によるものだと。彼の残した兵法にあるものだと」

「臆病な爺による人間の猿真似だ」

「其の通り」


 だったら、誇りをもってただ正面からぶつかるだけで、私たちは死んでいました。

 その事を告げると二人は口をへの字にしながらも頷いてくれます。


「今日は勝ちました。ですが人間の寿命は短く、繁殖力は我らをしのぎます。

今は十六万ですみました。次は百万。いえ。千万の兵を持って我らを滅ぼしにかかるでしょう。そして、その恨みの力は、今回より遥かに強い」


 嫌そうに炎のは頷いてくれました。風のは仕方なさそうに肩をすくめて見せます。


「私は、この勝利を機に、人間達との完全な和平を提案します。つまり。奴隷を作らない。『血袋』をはじめとする虐待を禁止する。正統な報酬を持って彼らを雇い、『魔都』の復興を担当させ、場合によっては『魔都』の住民として移住する事を許容する体制を」


「ありえん」

「所詮女か」


 風のと炎のがあきれ返りました。


 氷のような一言が私達の背筋を凍らせました。


「私も。女なのだが」


 忘れていないかと魔王様。二人の顔が引きつりました。

 ああああああ。触れてはいけないことを。


「そろそろ。新任の風と炎の魔将を創りなおそうかなあ」


「お、お戯れを」

「あははは。魔王様。魔王様にもいい男が」


 あ、爆弾に着火させた。流石、火の。


「ククク。貴様らの主の名を言ってみろ」


 ガタン。魔王様が玉座から立ち上がります。


~ でーさん。おちつけっ! おちつくんだっ! 胸が小さくても希望は大きくッ! ~


 爆弾は連鎖爆発しました。

 たっちぃ……のっだぁらぁあずぁあっ?!


「私が。魔王」

「退避ッ! 退避ッ!」


 震える二人を『霧雨』の防護壁で守ります。


「ディーヌスレイトだァああぁっッ」


 条約の文は私達の意向を受け、驚くほど人間達に『優しい』内容になりました。

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