私たちは『悪魔』です
「何をしている」
~おい。お前ら。ちょっと待て~
たっちぃの声は『勇者』や『魔王』『魔将たち』以外には聞こえない。それでも、たっちぃこと武田彰子はその言葉を放った。
魔族の人々が人間の女性を女性型の鉄の棺に閉じ込めている。
それは棘と剣を内蔵し、少しづつ閉じて、手から、足から、腰から、瞳を貫き。最後に心臓と喉を貫き、その足元からは新鮮な生き血が流れる構造を持つ。
「勝利の血を飲もうと」
「ウンディーネ様もどうですか」
無邪気に笑う魔族の男女を無視した由紀子は、彼らを振り切り、『霧雨』を『鋼鉄の処女』の錠前に振り下ろした。
「捕虜の虐待は禁止したはずだ」
由紀子が睨みつける。
犠牲者は二目と見れぬ姿。
おそらく人間の軍についていった娼婦なのだろう。
「其の女、処女ではないようで、血が不味いんですよねぇ」
「せめて、もう少し泣き喚いてくれないと楽しみが」
口々に勝手なことを言い出す魔族たちにたっちぃが怒りの声をあげる。
たっちぃの怒りの声は、何故か人々に届いた。
~ お前ら、こんなことをしてみろ。ノームとウンディーネの意思をないがしろにするヤツは呪い殺すぞ ~
もちろん。たっちぃこと武田彰子にそのような力は無い。
先ほどまでで血を杯に入れてはしゃいでいた魔族たちは『水のウンディーネ』こと由紀子から後ずさる。
~ わかったら、何処か行け。おっと、この子の傷を治してから行けよ ~
逃げるように去っていく魔族たちをみて、由紀子はへなへなと崩れ落ちた。
おそらく農奴の娘だったのだろう。
間引きで殺すか、女衒に売るか。どちらが幸せかわからない。
少なくとも、彼女の両親は彼女に生きていて欲しかったのだろう。そのように由紀子は考えることにするしかない。
「ここは」
その少女が愛らしい瞳を開くと、同年代と思しき女性が微笑んでいる。
いや、微笑みながら泣いている。
それほど美しい少女ではない。だが、愛らしい人だ。
少女は戸惑った。この白く綺麗な手足はなんだ。
末端の兵士たちの奴隷として抱かれ、粗末に扱われ、逃げられないように片足の腱を切られていたはずだ。
目と耳はあの恐ろしい棺を閉じられると同時に潰されたはずが。見える。聞こえる。
人前をはばからず彼女は慌てたように自分のスカートをめくって確かめた。
「前より、綺麗になってる」
彼女の女性の証は、鋼鉄の拷問器具によって破壊され、内蔵を穿り出されたはずだ。
彼女の主人たちは。魔族たちになぶり殺しにされた。
もう少し、もう少し。早く死にたかった。
「申し訳無いことをした」
女性は謝り、自らの身分を明かした。『水のウンディーネ』だと。
「このっ……。このっ……このッ! 悪魔ッ!!」
憎悪を込めて殴りかかる少女に、されるままにされる魔将『水のウンディーネ』。
残虐非道にして無慈悲とよばれた魔将は、幼い子供の拳を避けることなく、ただ自らの身体で受け止めていた。