ノーム。私は負けました
「ノーム」
そのお墓には遺骨は入っていません。魔王廟の『勇士の間』に私はいます。
由紀子です。見ないで下さい。触らないで下さい。話しかけないで下さい。
~ んなこと言われてもね。由紀子 ~
たっちぃ。ごめんね。
清浄な空気。静かな空間。私はその冷たい墓石に抱きつきました。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ 私、この戦いに負けましたッ」
十六万の人々を焼き払い、返り討ちにし、久さんたちが率いる人間軍はほぼ瓦解。
周囲を囲むのは第四軍団の生き残りと第一軍団決死隊の生き残り。女の人たち。
この状況で今回の戦役は終わろうとしています。
~ いまいち、『負けた』って意味が解らないんだが ~
「魔族は寿命が長く、子供をあまり作らないの。でも人間は何世代も子供を作る。次は恨みを持った人たちの子どもたちが何倍にもなって来るわ。その時、私はこの世にいない」
~ …… ~
「十六万の友軍を焼き殺された人間達は家族に、友人に語り継ぐでしょう。魔族の残忍さ。残虐さを」
~ 連中のほうがひでぇ事してたんだぞ。由紀子に責はない ~
「『勝つ』だけなら、由美子は死ななかったッ! 人間達の血を啜って、肉を喰らって! 死体を不死者にして進めば良いだけッ! それに加えて四天王の力の真価をもってすれば万の軍を打ち破れるッ」
ノームは、恨みの連鎖を断たねばこの戦は永遠に終わらない。そういい遺したのに。
「私は、私はっ!」
~ おちつけ、由紀子。あたしだって由紀子が犯されて輪姦された挙句に殺されるのは嫌だ ~
「でも、それが『平和的』だったのです」
死を持って奮戦し、魔族の伝説になる。
女子供四万と生き残りの第四軍団の皆は流浪の民になりますが彼らは私達の勇気とノームの言葉を語り継ぐでしょう。
「なのに。私は」
この世界の戦ではありえない死者を敵方に出し、恨みの連鎖を更に深めました。
この戦いが終わった場合、如何に人間達に有利な条件で和平を結んでも彼らはこの恨みを忘れないでしょう。
そして、魔族の中にも人間達を奴隷にし、血を補給させる『血袋』にすべきだという声は小さくなく。
いや、今回の大勝利を受けて、人間達に逆襲すべきだという意見も。あります。
~ あいつら、結局ナマの戦場見て無いからじゃね ~
でも、声の大きい愚者は声の小さな賢者に勝るのです。時として。
「ごめんなさいノーム。私は、私は。最後の最後で。皆が捧げてくれた命で繋いだ私の命を捨てる機会を……。卑しい私情で、失いました」
魔王廟に私の嗚咽が漏れてます。
「ノーム。ごめんなさい。ごめんなさい。
お義父ちゃん。私は、私は」
酷い。ことを。しました。