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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。跪(ひざまづ)くがよい。あのお方こそ我らが主。魔王様だっ!
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『神聖皇帝』の正体

「和平の使者が派遣されてきた。だと」

「は。久にはまだ知らせていませんが」


 仮面の人物は言い捨てた。


「首を斬って送り返せ」

「は? 使者は子供ですよ」


 

「お前の目は節穴か」


 仮面の人物は言い放つ。『ツェーレ』を討った連中の一人だと。


「な、『涙のツェーレ』を討ったあの妖精族の一人ですか」

「他にいるか」


 報告をした男は不死身のツェーレが討たれた事実をいまだ受け入れることが出来ていない。

 それどころか、神の化身と呼ばれた『僧侶ヴィンド』『戦士エアデ』そして。


「『炎のフランメ』が死んでいました」


 各国の名だたる『勇者』達が次々と倒されていく。


「よきことだ。大地に魔力が蘇っていくのが解る」

「しかし」


 フランメは、久に命を捧げていたのだ。

 久は勤めて明るく振舞っていたが、あの軽薄に見える男は見た目以上に物事を深く考えている恐ろしい男だ。

 『身代わりの命の炎』。その意味は深い。


「久め。私を疑っているな」

「そのようで。殺しますか」


 いや、まだだ。仮面の人物は仮面の奥で微笑む。


「魔族と和平。其の選択だけは、私にも久にも、ありえん」


 それだけが、我らの絆と仮面の人物は笑う。


 小国だが貿易と文化の主要都市でもある都市国家で王としてなりあがった男と、古きよき文化を伝える神聖皇帝である彼または彼女。二人の共通点はそれだけ。



「因果律を司る妖精の首から漏れる血。ふふふ。甘美よの」


 男とも女ともわからぬ声で仮面の人物は笑った。



『ナニコレ』


 由紀子。サラマンダーとシルフィード。魔王ディーヌスレイトは『ソレ』を見て首をひねった。


「木だな」

「ククク。切り株だ」

「どう見ても切り株」


 炎魔将サラマンダーは彼にしては知的な表情を見せた。


「『これが我らの答えだ』。か。高度な駆け引きだな」


 送付された手紙を見乍ら彼は明らかに呆れていた。


 空蝉の術(身代わりの術)。『子供達』が得意とする『手品』の一つである。

 では切り落とされたはずの首の持ち主は何処にいるかと言うと。


「お茶美味しいです~♪」

「人の天幕に勝手に侵入しやがって」


 勇者・久の天幕にいた。


「お前、二重スパイのつもりか? 魔族の使者の癖に俺の天幕に勝手に入り込みやがって」

「二重に酸っぱいの? このおちゃ美味しいよ?」


 『子供』はそういって首を傾げてみせる。

 絶対違う。

 『(魔族の癖に可愛い)』と『ニコポ』を持つ久ですら思ったがここでは触れない。

 彼はショタでもホモでも無い。というか、彼の時代にショタコンという言葉は無い。


「首を跳ねられそうになったので咄嗟に服の中に首を入れましたッ」

「いや、普通無理」


 ツッコミどころが死ぬほどあるが、久の時代にツッコムという言葉はまだ一般的ではない。

 漫才そのものはあるし、大阪に住んでいる久だが、漫才ブームは1980年以降だ。

 そしてまだ田舎を出てきて間も無かった久は大阪の人間のノリについていけない生真面目さを持っていた。


「で、切り株を代わりに持って帰ってもらって胴体始末。どうだい? なのの」「意味が解らん」


 繰り返すが勇者は変なところで生真面目であった。


「ところで、フランメが死んだ」

「あのお姉ちゃん死んだんだ。綺麗な人だったな」


 俺に命を捧げるとか、適当こきやがって。久の拳が震える。

 まさか、本当に『命を捧げる』魔法を使っていたとは。


「ツェーレも死んだ」

「リーダーたちと相打ちだったね」


「エアデやヴィントも死んだ」

「うんうん。あることないことないことあること」


「『勇者』が四人も死んだ」

「僕らもいっぱい死んだ」



「十六万もの人間が死んだ」


 由紀子の取った戦術。


 壁の存在。『扉』たちの奮戦。

 サラマンダーの力で可燃物もなく激しく燃え上がる主要道路。

 略奪の暴徒と化して指揮系統からはずれ、迷宮化した都市内部に深くもぐりこんだ人間軍。

 風魔将の風を操る力と遍在能力の駆使。あらゆる要素が加わってのものだが、

 モデルとなった大阪大空襲や東京大空襲を遥かに上回る計画的且つ残虐非道な手口であり、同時に中国軍の行った自滅戦術、清野作戦を大規模にし、なおかつ魔王城だけ燃えないように手を配り、生き残った人間軍に『踏み絵』を強いる恐るべきものだった。


 この世界の闘いは逆らうものは皆殺しにし、従うものは奴隷か、魔族ならば生き血にする。

 戦闘は主に投石、剣の戦いによって決し、戦闘だけで死ぬ死者は意外と少ない。

 この世界において数千人を越える死者が出ることはまず無かった。

 しかし今回の戦役は歴史に残るほどの死者を出した。


「十六万は多すぎる」


 由紀子は、この世界の歴史に残る大虐殺者になった。


「そうだね。でも他に手はなかったと思うの」


 総攻撃を耐える力は魔族軍にはなかった。

 それを知った上での人間軍の全軍突撃。『魔都』はどの道滅ぶ運命だった。


「だから、俺の妻になれと言ったのに」


 久の考えていた『平和的な解決』は、魔王・ディーヌスレイトを捕縛。『魔都』を解体。

 『魔都』の魔族は『勇者』と『神聖皇帝』の直属の奴隷として虐待を厳禁とし、

 魔族のもう一人の中心的人物『水のウンディーネ』を『勇者』の妻として迎え入れる。

 そのうえで民主的な魔族連合議会を導入するというものであった。


 ちなみに、繰り返すが久はロリコンではない。


 どちらかと言うと長身巨乳クビレしっかりの魔族の女性のほうが好みにストライクである。

 でも手は出さない。流石童貞王。


「へ、へんたいだ~!」

「ちがうっ! 子供に興味はないっ! 由紀子さんとの結婚は政治的な判断だっ?!」


 其の割には顔が赤いぞ。久。


 『おそわれるぅ』とふざける『子供』とじゃれる勇者。久。お前本当に王か。



「それより。知りたいことがあるんだけど」

「ん?」


「『神聖皇帝』さんってどんなひと? 勇者さんしか会ったことが無いって」


 『使者』はいきなり核心をついてきた。


「『魔族を皆殺しにする』。その目的の上では同志だが」


 久は呻いた。あの仮面の下は、久ですら見たことが無い。


……。

 ……。


「魔将どもとディーヌスレイトが来るか」


 仮面の人物は笑った。和平? ありえぬ。と。


「ディーヌスレイト。完全なる魔王よ」


 その真鍮の仮面を、テーブルに置く。

 ゆっくりと用意された浴槽に向かい、歩き出す。人払いは済んでいる。

 バサリ。豪奢なローブの下は全裸。


 暗がりの中、其の容姿が浮かび上がる。『左半分』は枯れ木のような老人。


「貴様の魔玉を穿り出し、私の壊れた魔玉と入れ替えてやる」


 その人物。いや、女の『右半分』は白く、滑らかで柔らかく。美しく。

 その酷薄な表情を除き、その顔立ちは『魔王』ディーヌスレイトに酷似していた。

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