悪魔の都
『魔都』は魔王城を中心にした一筆書きの六芒星の形をした都市である。
我々の世界で言う『クロウリーの六芒星』に酷似している。
「もう、防壁は持たないな」
由紀子です。もう無理だとおもいます。
「久め。何処が只の丁稚工員だ」
悪態をつく私に。
「あの男の工作技術は計り知れないな」
「あんな兵器は見たことが無い」
大きな大きな塔が見えます。
簡単に組めて、ちょっとやそっとでは壊せず、はしごをこちらに渡せると同時に、作業員たちを守り、堀を埋める工事を安全に行えるという優れものです。
壊しても壊しても部品を合わせてすぐに組みなおされてしまいます。
「普通、道具や兵器は一人、其の部隊専用のものだろ」
「まったく同じものを作るならば、修理も整備も大幅に簡易化できる」
「ネジって凄いな。皆同じ形だ」
「頑固なドワーフをよく説き伏せたものです」
こちらは失敗しましたが、あちらはどうやって作ったのでしょう。
「確かに、あいつらの武具や装備はあっさり修理が完了して出てくるな」
今更気がついたのですか。火の。
「あの兜は鉄傘といって、矢や雨を避けることができる私達の国に伝わる形式の兜です」
「あれは本気で厄介だ。小さな盾を頭に載せているようなものだな」
「人間は体力に劣るが、盾とあの兜を装備しての密集は可也の防御力になる」
「鍋にもなるんですよ」
「一つ欲しいな」
「まったくだ」
こちらも兜を鍋にする者がいますが、あちらのほうが機能的です。
「どうする」
「やはり。アレか」
そうですね。そうするべきでしょう。
私は風のの転移術でとある場所に向かいました。
「扉よ」
「水魔将様。私は打ち砕かれる最後まで戦い抜く所存でございます」
「お前に、任務を授ける」
「ええ。私は最後まで」
『扉』さんは意思を持つ『ごおれむ』さんの仲間になります。とてもとても強くて頼りになる人です。
「敵が攻め込もうとする、一瞬の隙より早く、敵を通せ」
「なっ……」
私は笑います。
「私を信じろ。悪いようにはしない」
~ ひっかかってくれるかなあ ~
たっちぃ。この話をしたのは貴女ですよ。貴女。
「一六万の大軍、それも今から略奪を行うといってる連中に門を開くとは」
風のが呆れています。
「ククク。連中、戸惑っているぞ。ははは、もっと酒を呑めっ!」
ドンチャン騒ぎを始めている私達を人間軍は呆然と眺めています。
「畏れるなっ!」
久さんの叱咤が聞こえます。
「これは『空城の計』だっ!」
あはは。ばれましたか。
「伏兵がいると思い込ませ、撤退を促す戦術だが」
この兵力差で通じるものかと続きます。
「魔将たちは城壁の上ッ! 討つのみっッ! 続けッ!」
一六万の兵……兵だけではありませんね。略奪者ですね。沢山入ってきます。私達の都に。
喜びも悲しみもみんな詰まった、私達の大事な都に。
「おいっ! 赤十字のッ! 脱げッ! 踊れっ!」
「風魔将様。治療帯の優先順位を下げますよ」
敵も味方を区別していると助かる命も助かりません。
加えて身分を問わず、傷の具合を見て優先順位を設けることで効率的に治癒を行うことが出来ます。
簡単な傷や戦意喪失、魔力減退なら『子供たち』の歌を広場で聞くだけで治りますので。
「風の。いい趣味ですね」
「こ、これはノリだ。俺は酒も飲めないし、食べ物も食べられ」
くす。
「俺の踊りと歌を聴け~~~~~~~~~!」
脱がないで下さい。火の。誰が得するのですか。
というか、その服は身体の一部ではなかったのですか。
~ 思わず見ちゃったんだな。由紀子 ~
ち、ちがいます。見えただけです。恥ずかしい……。
「見つけたぞっ! 由紀子っ!」
『私』は久さんに微笑んで見せます。
「俺の妻になれば、助かる。来い。下では懲罰部隊が暴れている」
「うふふ」
『私』は『よおぐると』の器を手に彼に微笑んで見せます。
『サラマンダー』や『シルフィード』に囲まれているのにこの余裕。さすが勇者と言うべきでしょう。
「こい。由紀子」
彼の手が、『私』の腕をすり抜けました。
「な、『三稜鏡』?!」
残念でした。いろいろな意味で。久さん。
轟音と共に彼の足元が崩れていきます。
「『遅延魔法』っ?!」
ええ。フランメさんの『隕石雨』の『効果』を少し遅らせました。
普通なら、ぜったいやっちゃいけない悪手の補修法ですが。
「見事に、ひっかかってくれたわね」
私は笑います。
~ 計は二重三重でかけるもんだ ~
たっちぃ。よくやった。
「やるぞ。火を放て」
「いいのか」
風の。私だって辛いんです。
この町で、ノームと出逢い、魔王さまと出逢い。
皆と笑って。泣いて。
「風の。いい事を教えてやる」
サラマンダーさんが笑います。
「『炎』は『破壊』のほかに『再生』を司る」
一筆書きの六芒星の形の都。私達の『魔都』。
十六万の敵を飲み込み、今も輝く都。
「守備隊がいないと思ってやりたい放題だな」
「皆、魔王城に避難済みだ」
封鎖を繰り返し、迷路と化した『魔都』は十六万の敵を飲み込んでいきます。
彼らは戦力分散され、各個撃破を受けていきます。
そして。
「行くぞ。炎の」
「ああ。風の」
暴風と炎が、十六万の命を燃やしていきました。