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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ほう。我が名を知りたいか。ククク。我こそ四天王『炎のサラマンダー』
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『神聖皇帝』は神の名において『魔都』での略奪を3日間認める。女も富も奴隷も全て君達のものだ

 少しさかのぼる。


「ウンディーネ様」

「なんだ」


 由紀子は嫌そうに呟いた。攻防戦が始まって2ヶ月近く。


「貴君はもてるようだな。水の」


 サラマンダーが冗談まじりの皮肉を放つ。



『今なら女子供には悪いようにはしないぞ 久』


 大きな垂れ幕にて降伏を促す。人間軍。



「正式な使者が来たらこう言え」

「はい」


 由紀子は何とかニコリと笑ってみせた。


「私は既に成人しているとッ」

「は、はい」


 伝令役の魔族の青年は『あのときのウンディーネ様はメッチャクチャ怒っていた』とのちに語ったという。



 ちなみに、『魔都』には以前オズワルドの襲撃で殺された看護婦たちを除いて女性はいない。

 『子供たち』ならまだいるが、厳密には成人している。そして彼女、彼らの志気は。高い。

 精神力を高め、失った魔力をよみがえらせ、傷を治す歌声も聞こえる。『子供たち』の歌だ。

 彼らは直接的な魔法は使えないが呪曲を得意とする者が多く、あの歌声は精鋭やリーダーを『ツェーレ』との戦いで喪ってなお溢れる彼らの志気の高さを物語っている。要するに。


「『アレ』は、多分水ののことだな」


 シルフィードはそう述べると苦笑い。


「水のは子供にしか見えないからな」


 由紀子はますます嫌そうな顔をした。


「いい加減にしてくれ。しつこい男は嫌いだ」


~ 惚れられているんじゃね? 由紀子 ~


「うげ。最悪じゃ」


 思わず火のや風のがいる前で手を振って厭々をしてしまう由紀子。


 確かにハンサムだけど。小柄なのはさておき。

 とか一瞬思ってしまった由紀子は口元をしかめた。

 元工員の丁稚だけあって体つきも鍛えられていて。


~ 鼻筋が高くて目がキリッとしててショーン・コネリーに似ているな ~


「ええい。たっちぃは五月蝿いッ!」


 顔を赤らめて抗議する由紀子。

 ちなみに、『大精霊タッチィ』こと武田彰子は由紀子の表層心理を読める。


「大精霊殿。ふざけている場合では無いぞ」


 サラマンダーはクククと笑う。


「さぁ来い。俺の炎が貴様たちを呼んでいるぞ」


 無謀なる炎の将軍が笑う先には。


「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」……。


「凄い数だな。『遍在』を使って調べてみたが一六万だ。水の」


 女子供を逃がしたのは不味かったな。風のがそう呟いた。

 第四軍団の残存を含めた彼ら6万の民の艱難辛苦を想い由紀子は苦悩したが、結局そうした。

 魔族の女性は魔法が使えるし、身体能力もけして男に劣らない。


「今の魔都は総人口4万だからな」


 残った市民を含める。


 ほとんどが戦闘要員の魔族とはいえ、純粋な兵士として戦う人員は少ない。


「アレが突っ込んできたらもう打つ手はないな」


 城壁はボロボロで交代要員は市民も含めての昼夜連続。

 血を提供してくれた捕虜達は行動不能。

 『子供たち』のささやかな歌の力で僅かな傷や魔力を回復させている始末だ。


「ああ。それから『赤十字軍』の活動に勇者から感謝状が来てたぞ」

「オズワルドのような莫迦を二度と出すなと伝えておけ」


 前線で『戦う』赤十字軍の彼女たちは少なからず被害を受けた。


「無理だな」


 炎のは莫迦だが、ある程度はモノを知っている。


『勇者』は人間軍の頭だが、心臓は別にある」

「?」


 風のが補足する。彼は莫迦だが、『遍在』や同族の精霊たちの情報収集能力が高い。


「かつてこの世界の人間を宗教的に統合していた国家があってな。衰退しているが今でも形式上は国王たちを任命している。勇者とて王の一人にすぎん」

「そういえばノームがそんなことを言っていたな」


 強さがそのまま権力に繋がる魔族と違い、人間達は権威を重んじる。権威は歴史ともいえる。


「『神聖皇帝』だな。常に仮面を被り、性別すらわからぬという」


「うむ。今代の神聖皇帝は素性が解らぬ。ただ魔族に対しては実に強硬派だな」

「だな」


 書状を見ながらウンザリとした表情を浮かべる由紀子。


「魔王様の心臓。都市の財産、民の奴隷化。資源の譲渡」


 ため息をつく由紀子。


「まだあるぞ。『魔将・ウンディーネは和平の使者として勇者の国に嫁ぐ』」


 クククとサラマンダーが笑う。


「な、なんだそれは?! え。えええええっ?」


 由紀子は新たに加わった一項目を見て度肝を抜かれた。


~ ひゅ~? 久さん だ い た ん(大胆) ~


「魔王さまには親族がいないからな」

「魔王様の信任厚く、民も水のを支持している」


~ ああ。確かにアリかも。人質なら由紀子が適任だよね。炎のと風のは逃げられるし ~


「ぜったい」


 ふるえる声で由紀子は呟く。完全に地が出ている。


「絶対。絶対。ぜったい嫌」


~ いや、このまま留まってオズワルドに犯されて串刺しにされるか回されるかして最後は火あぶりよりいいんじゃね? ~


「聞こえているぞ。大精霊殿」


 風のが呆れて呟く。


~ あはは。冗談冗談 ~


「民の意思を問うか」


火のはあえてそう呟いた。


「奴隷となっても生きたい者は逃がす」


 風のの提案に首を縦に振る由紀子。


「俺と、風のは魔王さまと共に」

「待て」


 由紀子はあでやかに笑ってみせた。


「我ら、四天王は常に魔王さまと共にあるものだろ」


 三人はニヤリと笑いあった。


 結論として人間の奴隷となって生きる道を選んだものは少なかった。

 魔族は誇り高い。闘わずして人間の奴隷となった彼らを非難する声も大きかったが、由紀子がとりなした。


「生きていれば、魔族の血は絶えない。

彼らは敢えて屈辱を受け入れ、何世代も続く地獄の戦いを続ける選択をしたのだ。わかってやってほしい」


 そういって涙を流して頭を下げる由紀子に魔族たちは黙って仲間たちの安否を願った。


「我らの誇りと魔王さまのために残るものよ」


 炎ののが叫ぶ。


「我らの闘いは魔族一万年の神話になると心得よッ!」


『我らの闘いは神話になる』『我らの闘いは希望となる』『我らの闘いは誇りとなる』『我らの闘いは神話になる』『我らの闘いは希望となる』『我らの闘いは誇りとなる』……。


「夜が明ける。皆のもの配置につけっ!」


 由紀子が叫ぶ。

 太陽が昇りだす。

 魔族にとっては力を奪い、人にとっては活力を与える。

 最も偉大で恐ろしい星。太陽。


「愚かなる魔王と魔将共は我らの慈愛溢れる提案を受け入れず、一部の賢明な魔族を除き『魔都』と運命を共にすることを選んだ」


 朝焼けの中、仮面の人物が朗々とした声で演説を行う。


「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」……。


 仮面の人物。『神聖皇帝』は手を一振りしただけで人間達の喚声かんせいを止めた。


「正義は我らに在り。神聖皇帝は神の名において『魔都』での略奪を3日間認める。女も富も奴隷も全て君達のものだ」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


 狂喜する一六万の人間達。久は其の様子に舌打ちをする。


「勝手なことを決めやがって」


 久は基本的に女子供を苛める人間を嫌う。貧乏人同士の奪い合いなど論外だ。


「由紀子さん。君は莫迦だ。生き残る最後のチャンスだったのにな」



「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」「魔族の王の心臓を我らが手に」「神は欲っしたもう」「魔族に死を」……。

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