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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ほう。我が名を知りたいか。ククク。我こそ四天王『炎のサラマンダー』
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城壁より先に心は崩れる

「急げ。夜が明けるぞ」


 『大地の鎧』と『ギガス・マキナの盾』。

 『霧雨』『水の羽衣』を駆使し、率先して土を生み出し、岩で補強、水を流し、怪我人を清浄な水で洗浄し、疲労を癒す魔将。

 彼女を人間たちは魔女と呼ぶ。今の彼女の名は『水のウンディーネ』。


 彼女の鼓舞を受け、疲労困憊の魔族や捕虜たちは奮起し、城壁の修復を終える。


「また『隕石雨メテオストゥーム』で吹っ飛ばされるんでしょうね」

「言うなよ。ウザい」


 古びた盃に注がれる残り少ない労いの酒。

 魔族の中年のぼやきに捕虜であるはずの人間の青年が文句を言う。

 これではちっとも酔えない。

 一口のキツイ酒を大事に大事に舌の上で転がし、喉にしみわたって胃袋に広がっていくのを待つ。


 キビキビと駆け回り、激を飛ばし、負傷者を労う魔将は人間たちの噂通りの魔女と同一人物にはとても見えない。


「ああ。うちの大将は可愛いよな。襲ってしまいたいわ」

「ロリコン発見」


 由紀子の見た目は、どうみても小学生。長身で出るべきところだけ豊満な魔族から見れば幼女のようなものだ。


「しかし、魔族は粘るよな」

「ウンディーネ様や魔王さまの働きを見ればな」


 魔王は魔王廟にて説法。傷病者の介護、戦没者の遺族への保障などに飛び回り、子供のような小さな身体を押しての由紀子の活躍は魔族軍の志気を大いに高めている。


「『責任は全て私が取る。撃て』か。痺れたね」

「……」


 捕虜の発言に眉をしかめる魔族の男。


「アイツが人間軍にいたらどうなっていただろうな」

「ウンディーネ様はノーム様の養女だ」


「でも、人間だろ」

「くどいぞ」


 男は捕虜の喉下に剣を突きつけた。


「斬られたいか」


 捕虜の表情から血色が消え、先ほどまで親しく話していた魔族の男を睨みつける。

 即座に騒ぎは由紀子に止められたが。二人は不満そうに由紀子を睨んでいた。



「魔王さま」

「なんだ。坊や」


「ウンディーネ様って人間ですよね」

「そうだ」


 戦没者の遺児を訪問していた魔王は、突然の言葉に内心ため息をついた。


「どうして四天王の一角なんですか。僕のお父さんは第一軍団で死にました」

「由紀子。ウンディーネを四天王にしたのはこの私だ。由紀子ではない。指揮のことならばふがいない私を恨んでくれ。そして」


「友達は好きか」


「うん」


 首を縦にふる子供を魔王は優しくなでる。


「あのものは、人間の友達を私達に作ってくれる唯一のものだ」


 慈愛に満ちた笑みで子供を抱こうとする彼女。しかし子供は抗った。


「あんな奴らいらない」


 子供の言葉が魔王の胸を切り刻む。


「お前が食べている米はウンディーネがもたらしたものだ」

「う」


「米だけではない、人間は魔力に劣るが柔軟な思考を持つ。様々な技術は人間の社会が生み出している」


「おはぎ、おいしかったもんね」

「ヨーグルトも美味かった」


 魔王はそういって微笑む。


「最近、あんこを『ヨーグルト』に入れて食べるのが流行っているんですよ。魔王さま」

「私も食べた。米より好きだな」


 『ヨーグルト』は勇者たちの側近をしていた捕虜から聞き出した『乳から作る発酵食品』というなんとも曖昧な話から腐敗と発酵を司る闇魔法によって生み出された新たなる主食である。


「通せ」

「魔王さまのお通りだッ 皆、下がれッ」


 専用の首なし馬車にのり、魔王は呟く。


「いっそ、この心臓を抉り出して、楽になったほうが良いのだろうか」


 彼女の独白は、小さく、切ないものだった。

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