懲罰部隊。天より来襲
「今日は敵の攻撃が大人しいな」
「何か企んでいるんだろうな」
「ククク。皆殺しだ」
津波騒ぎを収拾した三人だが、戦闘は続行中である。
「円月湾の三重防壁により、魔都への浸水は最低限に抑えられた」
「火災は事前に俺が計画的に燃やしたのでなんとかなったな」
「風を操る俺の力も忘れるな」
「二人とも、感謝する」
由紀子の言葉に二人の魔将は笑う。
「塩水で米が」
「それは辛いな」
倉庫は港湾区域に集中している。
「ところで。それはなんだ? 水の」
由紀子の手元には潰した炊き豆を蜂蜜で味付けしたもの。
我々の世界で言う餡に近いもので包んだ米の塊がある。
「おはぎを作ってみたのだが。もち米の無いこの国ではうまくいかんな」
隠し味の塩も足りないらしい。
由紀子がそういうと二人は黙って『おはぎ』を眺めた。
「季節の変わり目と、盆……死者が黄泉より戻る日に死者の魂に捧げたり、皆で食べることになっている」
そういって、『おはぎ』を口元に運ぶ由紀子。
「手が汚れぬように桜の葉を塩漬けにしたもので包んでみたが、いるか?」
「我らは食事を必要としない」
「うむ。残念だが、水のだけで食え」
「うむ。すまんな」
ちなみに、由紀子の時代にダイエットの概念はない。
繰り返すが、極度に太りすぎない限り1967年の女学生はダイエットによるストレスとは無縁だ。
「ああ。幸せ~♪」
ビクッ! 二人の魔将は由紀子が漏らした嬌声を聞かなかったことにした。
意外と気の利く連中である。
『重大な案件中により、進入禁止』
由紀子の部屋の前に、謎の立て札が残ることになった。
「戦況はどうなっている」
「膠着状態ですね」
「出撃して、引っ掻き回してやりたいところだ」
「自重せよとウンディーネ様にお叱りを受けたばかりではないですか。サラマンダー様」
部下も呆れるが、サラマンダーはそういう直情な点で多くの魔族に慕われている。
「敵に動きがあるぞ。投石機だな」
手ぬぐい等を改造した即席の投石器などと違い、投石機は巨大な岩を飛ばす兵器に当たる。
「捕虜か?」
「水のが見たら機嫌を悪くするだろうな」
投石機で打ち込まれて弾丸代わりに殺される捕虜にしては、其の表情は明るい。
べちゃ。
魔法で飛距離を強化、おそらく射出の衝撃への防御魔法を付与されていたその男はあっさり都市防壁の血溜まりになった。
「……」
「水のを呼んでこようか」
魔将二人と、防衛部隊が呆れている。
「壁掃除など不要だ。それより」
『ばーか ばーか。ヒサシのばーか』
挑発の布を防壁に垂らさせる炎魔将。地味に自らにはないヘソについての悪口を根に持っていたらしい。
『ばかはそっちだ。単純ばーか』
即座に勇者ヒサシの言と思しき布が開かれる。
『うっせ~。莫迦と言う奴が莫迦なんだよ』
『ばーか。ばーか』
垂れ幕と芸人、娼婦達を使っての挑発を繰り返す両陣営を見ながら、『風のシルフィード』は呟いた。
「いいかげんにしろ。炎の」
ちなみにこれは大将首を引きずり出して一騎打ちに持ち込ませようとする高度な(?)心理戦であって、決して、決して子供の喧嘩ではない。
「何をやっているんだ。二人とも」
由紀子が出てきて、簡単な報告を受けて慌てて城壁に駆け寄る。
肉片と化した人間。それを覆う血に染まった白い布。
「これは?!」
「全員、空からの強襲に備えよ」
「は? ウンディーネ様。お言葉ですが連中には飛行魔法や転移魔法を使えるものはほとんどおりません」
「愚か者?!」
由紀子は映画で知っているが、魔族たちにはこの概念はない。
「これは『空挺部隊』だっ!!」
その時、魔都の上空に白い花がいくつも咲いた。
軍規を犯した犯罪者たちで結成された最も凶暴な者達を投石機と狙撃補助魔法で射出。
落下傘で強襲降下。そのいくばくかは着地に失敗して肉片と化したが。
「迎撃しろッ」
突如空から舞い降りた強襲部隊と、隠れていた城壁突破部隊、新たな坑道部隊。
三つの戦場を作り、久は攻めてきたのだ。