魔都燃ゆる
「死ね。『水のウンディーネ』」
無数の『火球爆裂』が私に飛んできます。
「!」
「惜しいな」
~ ひゅう。間一髪 ~
私の持つ盾が自ら爆発し、『火球爆裂』を中和します。
「使用者の素養から最も適切な姿を取る『ギガス・マキナ』の盾。
『水の羽衣』『大地の鎧』を持つ私をこの程度の術で破れると思うたか」
~ 道具頼りだねぇ ~
うっさい。はったりは重要です。
『霧雨』を右手に持ちます。
正直、日本刀そっくりなこの剣を片手で持つのは違和感があるのですが。
軽く。振ります。
周囲を霧雨が覆います。
「四天王最強と呼ばれる私を討てるなら、かかって来い」
~ うわ。すごいはったり ~
心臓がっ! 心臓が破裂しそうです! なれないはったりなんてするもんじゃないですっ?! たっちぃ!?
「『勇者』に挑むとはおばかさん」
「勝算がある闘いは愚かとは言いませんよ」
~ はったりすげぇ ~
「そこまでだ」
暴風を纏いニコニコと笑う男の所為で私達二人は敵味方そろってスカートを押さえる羽目に陥りました。
「風の?」
「ふふ。巧くひきつけたつもりだったようだが。貴様に水のは討たせん」
「『遍在』と言ってな。私は複数の実体を持つのだ」
あああっ?! 莫迦ッ! 莫迦ッ! 種明かしを堂々とっ?!
「助けに来たぞ」
私は風のの頭を思いっきり『霧雨』で殴りつけました。
驚いたことにフランメさんも杖で殴ります。
「この、変態ッ!」
「女の敵ッ!?」
倒れた風のを見て、私達は思わず握手。
「……」
「……」
~ え~と。お前ら ~
「ふんっ?!」
「はっ?!」
プイとお互い背を向け合います。
~ 戦闘中に莫迦やってるんじゃないよ。まったく ~
「おまえのかーちゃんでーべーそっ!」
「我に『親』はいないっ 」
「すみませんでした。軽率でしたサラマンダーさん」
久さんとおばかなやり取りをしながら、サラマンダーさんも戻ってきます。
「魔将三名を相手にするつもりかしら。勇者さん」
『霧雨』を構えながらフランメさんを威嚇します。
「そうね。今日は引くわ」
彼女はニコリと笑うと消え去りました。
「あのクソ餓鬼めっ」
そこらじゅうに当り散らすサラマンダーさんを冷たい目で見る私達。
「それどころじゃないだろう」
「風の。早く海に援軍をやらねば」
「援軍不要。我に手あり」
「!」「!」「ッ?!」
『風の囁き』の通信が入ります。
~ なにするつもりなんだよ。ゾンビマスターさん ~
「サクラ。サクラ」
……。
……。
「この木が好きなんですか。ウンディーネ様は」
「桜と言う。華やかな花を一瞬だけ咲かせて鮮やかに散る。残った強い幹は、緑を称え、命を燃やし、そして厳しい冬に備えるのだ」
春の訪れまで。
「笑わないで欲しいのですが」「くすくす。笑っていませんよ」
「腐った死体が恋なんて可笑しいと言ったではありませんか」
「そうでしたっけ」
噴きだす私とたっちぃの声に彼は不貞腐れたようにします。
「臭いといわれるのですが」
「明礬風呂はどうかしら」
「溶けてしまいます」
~ ぞんびますたーさん。男は心意気だよ ~
「む~。大精霊殿の意見、しかと聞き入れました」
「『自爆魔法』で当たって砕けてきます」
「まちなさい」
~ まて ~
本当に砕けてどうするのですか。大迷惑です。やめてください。
……。
……。
青い海の中に暗い闇が広がる。地獄の死者どもを引きずり込む闇。そして暴風。
「やめろっ! やめてくれ! ゾンビマスター!!」
円月湾の入り口に侵入してきた敵の艦の後ろから白い壁が現れました。
「あれは」
「津波だ。恐らく『爆裂岩』の同時起動」
つまり、セイレーンさんたちが。
散った。
魔都を津波が襲いました。
三重の防壁はなんとか津波に耐えましたが、魔都に少なからず被害が出ているようです。
「早く消火の用意を」
「消火だと?! 津波だぞ」
「津波の後は大火が出るのだっ!」
「急げ。風のッ! 炎のッ! 猶予は無いぞっ!」
私達は知りました。
『子供達』の活躍を。ゾンビマスターさんたちの挺身を。
そして私達は心に刻みます。
『お前達のくれた時を。かけがえのない時間を。我ら三魔将は無駄にはしない』