井戸に落ちたら、御伽噺の国
はじめまして。
私の名前は西尾由紀子と申します。
鳥取県立由良育英高等学校三年生。満十七歳。
将来は紡績工場間違いなし。夢とか、結婚とか言われてもちょっとわからない。みんな紡績工場にいくか、見合いで結婚するし。
小説のような恋愛結婚には憧れるけど、これがなかなか。田舎ってそういう噂は格好の娯楽。
お父さんは病気だし、お母さんは変わり者。お姉ちゃんと違って高校に行かせて貰っただけ感謝しないと。
お母さんは元々どこかのお姫様の子孫だかで、ボケが酷い。いや、賢いのは間違いないんだけど、娘の弁当を私が学校に行ってから作り出すとか普通。
米軍の寄生虫をやっつける粉をかけるとかいう話も「うちの子にはいない」と受けさせない。
貧乏の癖にどこからか山羊乳や牛乳を貰ってきては娘に飲ませている。なんでも元気になるらしい。
まぁそんなことはどうでもいいのだ。
ある日、私は友人の武田彰子と雑木林で遊んでいたところ、こともあろうに隠されていた古井戸に気がつかず、そこに落ちた。
「たっちぃ! 助けてぇええっ??!」
自分で言うのも嫌だけど短い手足をバタバタ。
「あれ? 由紀子? 何処だ」
たっちは男の子から「ガイナ(でかい)」の渾名で呼ばれている。
彼女は外人さんみたいに背が高い。
顔立ちも凄く綺麗。そして外人さん並みに。胸。
風船が二つ入っている。そう思っていたことが私にもありました。
「たっちぃ……ここ」
苔のついた古井戸にはとっかかるところがなく、私は兄さんや弟たちほど泳ぎに関しては得意とは言えず。
ううう。こんな形でしんじゃうなんて。
せめてたっちぃに預けたフロフキ饅頭を食べてから死にたかった……。
ぶくぶく。
……。
……。
「ふむ。童。大丈夫かな」
気づくとなんかカッコイイ小父さまがいました。きっと極楽の人なのでしょう。
「あ。その、三途の川を渡るお金、さっきフロフキ饅頭に使ってしまって」「は?」
小首をかしげる小父さま。何処となくお父さんに似ています。
「ここは魔王軍ノーム砦なのだが、おぬし、何故に我が砦の井戸で泳いでおった? 親は何処だ?」
まおーじょう? のーむとりで?
私のいたところは鳥取県東伯郡だったと思うのですけど。というか由良だし。
お台場でも遊ぶことはあるけど、「のーむとりで」ってなんだろ。
「お父さんは病気で、お母さんは今頃御弁当を作っているとおもいます」
ホント、あのお母さんは手間がかかる。弟はほとんど私が育てているようなものだ。
「ふむ」
渋いおじさんは自らの顎を掴むと私をじろじろ。な、なんですか? 乙女の身体をっ??!
「子供が井戸で遊んでいた。我らの眷属だったら死んでいる。井戸の責任者に言っておけ」
そういってオジサマは私に服を投げて寄越しました。
「着ろ」
へ??!
「着ろって。乙女の肌を見るつもりなのですかっ?!」
夫になる人でも、嫌ですよ。それ。
「乙女? 子供だろう?」
「私は17歳です」
「子供ではないか」
オジサマはそういって微笑んだ。
「せめて、そういう台詞はあと500年ほど生きて色気をつけてからいってほしいな」
はい?!!!