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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。四天王の真髄に恐れおののくがよい。ヤツこそ四天王『風のシルフィード』
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子供の喧嘩

『莫迦』『阿呆』『間抜け』『お前の母ちゃんデベソ』

『このドクサレ包茎』『淫売すら目をそらすブサメン』『素人童貞』


 目を覆いたい。

 子供の喧嘩じゃないんですから。

 というか、後半。一瞬目を疑いました。なんて下品。


~ 私は気が効いた洒落だと思うけどなぁ ~


 由紀子です。

 只今、石を投げ合っています。

 もう一度言います。


 石 を 投 げ 合 っ て い ま す 。


 大切なことなので二回言わなければならないとはサラマンダーさんが教えてくださいました。


 石には上記の悪口が書いてあります。

 魔族のお母さんたちや子供たちが色々洒落を聞かせて書いた呪いの言葉です。

 少しでも敵にダメージを与えられるようにとの配慮だそうですが。


「えいっ!」

「えいっ!」


 城壁から石を投げあう姿は、子供の喧嘩ですか?

~ まぁ、魔族はほとんどの人が弓使えるけど、それだって全員じゃないしなぁ ~


 とはいえ、城壁から石を投げれば落下の力も相俟って兜すら凹む威力です。侮れません。

 まして投石器を用いれば人間の子供ですら戦力になるほどです。

 聖書物語のだびで王さんのお話をご存じの方も多いと思うのです。

 そういえば神父様元気かな。


「『石礫』!!!」


 第四軍団魔導工作兵の生き残りの皆さんが大量の石つぶてを敵にぶつける魔法を指定対象無しで放ちます。


 本来大量の石が足元から飛び出し、敵個人を襲う魔法らしいのですが。


「うわ~~」

「ぐは」


 城壁に取り付いた人間軍に容赦なく降り注ぎます。


「狙って撃つなッ! 同時に、面を意識して投げろッ!」

「了解!」


「せーのっ」

「てぇい!」


 あの子たちの石は的確に敵の大将格を攻撃します。凄い命中率。

 

 星型城壁の利点ですが受け手であるこちら側の一斉射撃は星のくぼみにいる敵に密集するのに対して、攻め手である敵の攻撃は城壁の上にいる私達をバラバラに狙わざるを得なくなることが挙げられます。

 魔族の兵、特に怪力の種族の多くは猫背で肩を大きく上げられず、ゆえに的確に石を投げるのは苦手であり、大柄な体を旧来の垂直型城壁から乗り出した上で密集して上から下を攻撃するのは兵の損耗の観点から危険だとかつて由美子が申しておりました。


 既存の城壁であっても上から物を投げる優位は崩れません。


 例えば接近戦では人間どもの行う投槍器による投槍は易々と鉄の盾をも貫きますが、空気抵抗と重力でほぼ無効化できます。




「土をッ! 土をもっと生み出せッ!」

「はいっ!」


 土を作っては城壁を補強する第四軍団魔導工作兵の皆さん。

 既存の城壁は高価な魔石を用いますが新型城壁は土で魔法の衝撃そのものを殺します。

 なだらかな坂から登るにつれて垂直に近くなる構造は此方の射線を確保しつつ敵の射線を妨害し、敵味方の魔法攻撃で崩れる土は敵の登坂を防いでくれます。


「落ち着けッ! この城壁は垂直型ではないので頭を乗り出す必要はないッ! 丁寧に撃つぞッ!」

「心得ている。エルフだけが弓の使い手ではないと知れ」


 エルフさんやダークエルフさんが一斉に弓を放ちます。

 空に向かって同時に打ち出された矢は、雨のように人間たちの軍に襲い掛かります。


 数は少ないのですが、ドワーフさんの(いしゆみ)も的確に敵を討ちます。

 星型城壁の真価を発揮し、的確な狙撃で敵を落としていきます。


「排泄物をッ!」

「はいッ!」


 うううう。ごめんなさい。

 でも都市が汚れるのは良くないのです。


 今のは見ませんでした。見ませんよ?


~ 正直、ドン引き ~

 たっちぃ。黙れ。



「風のッ!」

おうッ!」


 魔都から強風が吹き、海のゾンビマスターさんを支援。

 同時にこちらの矢や石の飛距離を増し、威力を高め、あちらの攻撃を弱めます。

 サラマンダーさんの炎が、風に煽られて次々と敵の大型兵器を焼き払っていきます。


 サラマンダーさんの火炎がある限り敵の大型兵器が近づくことはできません。

 シルフィードさんの風がある限り海軍が破れることはありません。



『ばーか』

『臆病者』

『今代の魔将は腰抜け』


 城壁の向こう、安全圏から敵の娼婦や芸人がはやし立てだしました。


「許さんッ!」

「安っぽい挑発に乗るなッ! 炎のッ!」


 地形や水、風の流れを操る魔将を討たれればこちらは一気に不利になります。


~ 炎さん。ほんと単純 ~


「大精霊殿ッ?! 貴女まで言うのですかッ」


 炎の。怒っちゃ損です。相手は女子供なんですよ。

 そこに、また敵軍から挑発の声。


「今代の風将はスカートめくりの変態だ~」「へ、へんたいだー!」「変態がいるぞ~」「やーいやーい。ロリコンめ~」


「ゆるさーん!」

「否定はしませんが、シルフィードさん。おちついて」


 火のより少しは理性のある彼ですが、今日の彼は一段と熱い模様です。


「今、否定しないと言ったなっ?! 水のッ?!」

「今はソレどころでは」


「どうせ俺はモテ無い男だよッ! 天然セクハラ男と女官に思われているよっ!?」


 あ。自覚あったんだ。

 ~ 正直意外だねぇ ~


「大精霊殿ッ?!!」


 あ。いまさらですが補足です。

 たっちぃは敵味方から大精霊だと思われています。

 本当は女子高生なんだけどなぁ。


「まぁ。近づくだけで家が燃えるだの、歩く危険物だの言われるよりマシじゃないかしら」

「ほう。水の。貴様とはゆっくり色々話さなければならぬようだな」


 私の隣でニコニコ笑うサラマンダーさんを見て『い、いたの?』と誤魔化し笑い。


~ めっちゃいるよ。由紀子 ~


 おほほ。笑ってごまかす私と冷たい笑みを浮かべる炎の魔将。


~ おーい。三人とも。もうすぐ正午だぞ ~ 


 ドンドンドンドン。人間軍の太鼓が鳴り響きます。



「さっさと降りろッ! 莫迦ッ!」

「ここまで昇って諦められるかッ?!」


「メシなんだから帰れッ!」

「いやいや、ここから降りたらおれ死ぬし」


「『風爆』」

「あ~れ~~~~~!!」



 御堀に落ちる人間軍の勇敢な戦士たちよ。あなたたちのことは忘れません。

 正午と三時の御茶の時間は戦争はお休みですが、城壁越えなどが起きた場合はその限りではありません。

 取敢えず今日の正午はなんとか乗り切りました。


「お茶にしましょう」

「風が茶を飲めるかッ?!」

「炎が茶を飲んだらどうなるかわかるかっ?!」


 はぁ。もう。香りだけでも楽しみましょう。二人とも。

 うっ?! このお握り、しょっぱいっ?!


「疲れを取るには、塩とお茶なのの」


 『駆け抜けるもの』エルフさんの亜種の一人がそういって御茶を飲んでいます。

 ここ、将軍の休憩場所なんだけどなぁ。

 どうやって入り込んだんでしょう。


「子供、ここを何処と心得る」

「子供じゃないもん」


 見た目は幼児ですしね。

 でもそういう問題じゃないでしょう。


 たしなめようとした私たちに彼は一瞬でかわいらしい子供の顔から軍人の表情をみせました。


「報告。敵軍、坑道部隊による地雷攻撃を敢行せんと地下を進軍中。現在十二箇所にて迎撃、坑道を破壊しました」


 押し黙る私たちに彼は言葉を続けます。


「敵にも鉱山技術者やドワーフがいるようです」

「おのれ」


「水の。壁に隠れてチマチマするのは飽きた。そろそろ」

「だから自重してよ」


 本当に、本当に二人とも、少しは考えてよね? 約束だからね?


~ まぁ、二人は我慢強いほうだと思うよ。由紀子 ~


「うむ。最前線が俺を呼んでいる」

「やはり、戦場は俺の炎を熱くさせる」


 はぁ。もう。二人とも。

 ノームみたいに突出するのはダメって言ってるでしょう。

 ノームは望んで突出したわけではなく、致し方なくだけど。


「みんな、耳がいいから、地面に壷を差し込んで、音を聞いているの! だからもうだいじょぶなのの!」


 そういえばエルフさんやダークエルフさんって耳が良いですね。この子達も。


~ 由紀子。大人が聞こえない音も子供は聞き分けられるらしいよ ~


 へぇ。たっちぃ。博学。


「其の調子で、やってくれ」

「えへへ」


 頭を撫でてやるとその子は喜び、去っていきました。


「ウンディーネ様に頭撫でられた~!」

「いいなぁ!」

「僕も僕も」

「ぼくもぼくも」「わたしもわたしも」「あ。いいな」


「……」


~ あら。可愛い ~


 期待に燃える幼児の姿をした妖精たち。その数百超。

 キラキラとした瞳で私を見ています。

 本当にどうやってもぐりこんだのでしょう。



「さて。そろそろ時間だ。俺は子供の相手は苦手でな」

「戦場が俺を待っている。行くぞ風の」


 ちょ? ちょっと? 二人とも?!

 飛び出した炎のと風のを追おうとする私を、小さな手が掴みました。


 キラキラとした目で私を見る。子供たち。


「僕も撫でて」

「私も」


「たっちぃ~~! 助けてっ~~?!」

~ うわ。可愛い。羨ましい ~


 その日は三時の太鼓まで私は子供たちの相手をする羽目になりました。

 弟で慣れているけど、慣れているけど。今は戦争中なんですよっ?!!


~ 物凄く可愛がってたじゃない ~

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