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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。四天王の真髄に恐れおののくがよい。ヤツこそ四天王『風のシルフィード』
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六芒星都市(りくぼうせいとし)の戦い。開戦前

「結界に綻びはない。だと」

「ええ。軍規を破って物理的に出入りしている者はいましたが」


「物理的?」


「星型城壁を夜闇に乗じて降りたり登ったりして『遊んで』いる馬鹿者共ですね」


 星型城壁。通常の城壁は直角かつ四角形に近い構造をしているが、魔都の城壁はわざと上りやすそうな傾斜壁と星を思わせる凹みがついている。


「其の馬鹿者を処罰……いや。まて」


 既存の城壁は魔導攻撃を高価な魔法石で防御し、物理攻撃を跳ね返していたが、この城壁は土嚢を積み上げることで素早く修繕が可能で、傾斜によって衝撃を包み込むことが出来る。


「あんなもの、昇り降りして遊べるものか」


 さらに、壁を登っていくと徐々に直角に近づくことで登りづらくすることが出来、通常の城壁が『身を乗り出して』反撃しなければいけなかったのに、こちらは弓や石で一方的に反撃が可能だ。

 こちらからお湯や焼けた油を流すとき、一網打尽に出来るのも利点が高い。

 そして、星の形を思わせる凹みは、敵の攻撃地点を限定すると同時にこちらの攻撃を集中させる効果がある。

 いいこと尽くめなのだ。


 星型城壁といえど城壁の高さは相応にある。

 あれを昇り降りできるなど信じられないと首をひねる由紀子に魔族の青年は苦笑い。


「入って来い」


 青年が背後の扉に語り掛けた。

 扉の裏に誰かがいるなど由紀子ですら気配を感じることができなかった。


「はい」

「わかったの」

「にゅ」

「ごめんなさい」


 ぞろぞろぞろ。

 入ってきた『軍規違反者』を見て目を見張る由紀子。

 泣きはらした小柄で愛くるしい顔立ち。小さな手足。

 それは子供。否、幼児たちであった。


「子供は逃がせと言ったはずだ!」


「ふえええん」

「ごめんなさい。ウンディーネ様」


 皆、泣いている。


「どうして残っている! 貴様らッ」

「うえええん」


 青年は苦笑する。


「ウンディーネ様の御前ぞ。いいかげんに泣き止め」


 襟を正して青年はウンディーネである由紀子に語り掛ける。


「エルフの亜種でして、幼児の姿で成長が止まり、魔法が使えなくなる代償に優れた五感と身体能力を誇ります」


 聞けば、大人顔負けの戦闘能力を発揮し、鋭い予知能力と忍びの者の能力を持つらしい。


「軍規違反を犯したので金槌で頭を軽く殴っておきました」

「死ぬではないか」


 幼児の頭蓋骨は柔らかい。

 いや、大人でもやってはいけない。脳に損傷が起きる。

 『子供たち』が泣き止まない理由を平然と説明する青年に顔をしかめる由紀子。


「金槌が逆に壊れる程度には彼らは頑丈です」

「まさか」


「びええええん!」


 今は将軍である由紀子だが、元は女学生。

 田舎の女学生は幼少時代より子供の世話にたけている。


「あ~。解ったから泣き止め。しかし解せぬな。脱走しているのに戻ってくるとは」


 呆れる由紀子。よく見れば全員たんこぶを押さえている。



「敵を探っていました」

「僕も」

「あたしも」


 幼児たちは一斉に襟を正して鋭い眼で報告を開始した。


「報告。敵は『漆黒の森』を伐採。外海から魔都に向けて大量の板を敷き詰め、油を差しております」

「報告。敵のほとんどは農奴出身。個々の戦闘力は低いのですが、更に長い槍を用意し、石を補充」

「報告。敵の本隊が『魔都』に迫っています」


 きびきびと訓練された兵隊のように無駄のない説明を述べていく彼らは先ほどの子供めいた仕草はない。


「板?」

「石も。です。道路にしては溝があります」


 なんだそれは?

 彼らの世話役をやっているらしい魔族の青年が呟く。


「すごいの。でかいの。ぜったいあれ怖いの」

「落ち着け。ウンディーネ様の前だぞ」


 必死でその脅威を説明する幼児だが、意味がほとんど解らない。


「この者達はある種の予知能力を持っており、脅威を肌で感じることが出来るらしいのです」


 由紀子は呻いた。


「とにかく、槍は脅威だな」


 魔族は個人の武勇を重視するので組織的な戦いを苦手とする。

 また、大柄な種族小柄な種族共に、なぜか自分の身長を超える武器の使用を嫌う傾向がある。


「太鼓は持っていたか?」

「持っていました」


 由紀子は息を吸う。

 真剣に告げる。


「その太鼓を壊せ」

「はい」


「槍がどうかしたのですか? ウンディーネ様」

「如何な達人とは言え、同時に振り下ろされる棒の面攻撃は防げぬ」


 太鼓に合わせて只槍を上下させるだけの単純な戦法だが、個別攻撃を是とする魔族には恐ろしい効果をもたらす。

 散々煮え湯を飲まされてきたが、更に伸びるとは。


「突かないのですか?」

「刃などはオマケだ」


 そもそも、農奴に槍の扱いを期待してはいけない。


「敵の数は?」

「たくさん」


 由紀子は頭を抱えたくなった。それは報告といえない。


「あのね。ウンディーネ様。地面が人間の兵隊さんで埋まるくらい」


 莫迦な。魔族の青年が一笑。

 魔族と違って数を誇る人間だが、その数では補給など追いつかない。


「補充面は充実しているようです。ごはん一杯食べさせてもらったもん」「……」


 娼婦に聖職者、葬儀屋に農夫に炭鉱労働者と階層は様々。さながら一つの巨大都市が移動しているかのようだと彼は報告する。



「此方の食料は」

「『コメ』がまだまだあります。あれは良いモノですね」


 あれがなければもう飢えていたと青年は呟く。

 ついでに漏れたつぶやき。


「酒もなかなかです」

「聞いただけで2年で実用化できるの?!」


 思わず素がでた由紀子に。


「鬼族とドワーフにかかれば、酒の生成など」


 そうだった。あいつらは酒ばかり呑んでいる。


「餓鬼族や犬頭鬼の兵は」

「損耗が激しく、いまだ補充中」


「屍兵と魔導兵を」

「ほぼ不眠不休で増産していますが、間に合いません」


 兵站のほとんどを担っていたノームが討たれ、義娘がその代行を行わねばならない。

 すごい勢いで小学生の時に独学で覚えた算盤を叩く由紀子たち。

 兵站は算盤で行う戦である。



「敵が来ました」


 報告を受け、城壁に赴く魔将三名。


 朝日とともに姿を現す蠢く黒い影の塊。

 粘菌のように蠢き、大地を覆い尽くし、飲み込むそのすべてが人間である。


「壮観だな」


 敵でなければな。と由美子は呟く。


「これから戦いか」

「ククク……楽しみだ」


 バカ二人は相変わらず危機感がない。


 『魔都』の周囲を埋め尽くす、人間の群れ。


「アレが、勇者の軍隊か」

「フフフ。我が風は無敵よ」

「ククク。我が炎で燃え尽きるのだな」


「何度も何度も言うが」


 振り返り再三同僚たちに自重を促す由紀子。


「解った。水の。自重する」

「面倒だが、致し方ない」


「本当に、本当に、ちょっとは二人とも考えてよ」

「面目ない」

「いやはや、敵を見るとついつい血が滾って」


 お前には血はない。サラマンダー。


 一歩前に出た男が朗々とした声を魔法で増幅させ、降伏を促す。


 曰く、魔王の心臓。

 曰く、全員の奴隷化。

 曰く、領地や資源の譲渡。


「話にならん」「早く闘いたい」「ククク……風の。競争だ」


 魔将三名の意見は珍しく一致した。


「ではこちらの特使を送り、交渉決裂を持って明朝、夜明けと共に開戦とする」


 三人の魔将は首肯しあう。

 夜になれば戦争中断など、人間相手の戦にも決まりと慣例法が存在する。

 いきなり開戦はしないのだ。


「死ぬなよ。風の。炎の」


 由紀子の瞳を正面から受け止めた風と炎の魔将。

 誰に向かって言っていると彼らは不敵にほほ笑む。


「お前もだ。水の」

「炎の。お前は俺の好敵手。人間如きに遅れを取るな」

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