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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。四天王の真髄に恐れおののくがよい。ヤツこそ四天王『風のシルフィード』
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勇者来訪

「ノーム。由美子。たっちぃ」


~ あたしは、由美子は。あんたを見守ってるよ ~


 ごめん。ごめん。ごめん。ごめんなさい。


『我ら決死!』


 逃げてきて、御免なさい。生きていて。ごめんなさい。


~ そういうことは言っちゃダメ ~


「由美子」


 ボロボロと瞳から熱いものが流れる。

 私は大切な友達を守れなかった。

 大切な部下を見捨てた。

 敵ながら私を慕ってくれた捕虜の皆さんを盾にして逃げてきた。


~ 由紀子。お客さん ~


「何者だ」


 誰何する。影のように姿を現す。少年。

 その少年のお顔を私はよく存じておりました。


「貴様ッ!」

「おっと。『霧雨』を収めてくれないかな。由紀子さん」


 少年はヒラヒラと手を振って見せた。

その男はこの魔王城には絶対にいない、いてはいけない男。


「今は夜だ。休戦休戦」

~ 女の部屋に夜這いとはいい度胸だね ~


「違う。武田さん。今日はお詫びを言いに来たんだよ」


 照れたような顔を赤らめる彼。『勇者』武田久。


「美味い。この茶は最高だな」

「魔茶だ」


 お茶の香りと無言に耐えきれなかったのは私のほうでした。


「武田。貴様は」

「1967年。8月。山口県熊毛郡上関町の小さな島だ」

~ へぇ。あたしたちは鳥取。鳥取県は由良。わかる? ~


 堂々と城内に侵入してきた勇者の言葉に違和感を感じた私は思わず問いかけてしまいました。

 

「1967年? 何だそれは。何故年代まで言わねばならないんだ?」


 しかし彼は答えず、美味しそうに私の握ったおにぎりを。


「しょっぱ?! このお握りしょっぱいぞっ?」

「篭城用だからな」


 思ったより、『勇者』は子供っぽいみたいです。


「『アイツ』は2010年らしい。死因はトラックに跳ねられての轢死」

~ …… ~


「『俺』は喧嘩の逆恨みで死んだんだろうな。現場にいたら頭に衝撃を受けて、気がついたら『王城』にいた」


 意味不明。呆然とする私を見て彼は苦笑します。

 苦笑する癖がついてしまうのは敵も同じのようです。


「『王城』って意味わかんないよな」


 確かに。殿様ならわかりますけど。

 でも。


「『魔王城』よりマシでしょ」

「違いない」


 私達は乾いた笑いを浮かべあいました。


「『アイツ』は詳しかったんだが」

「『アレ』の話はやめて」


 ガイアさん。悔しかったろうに。

 切なかったろうに。苦しかったろうに。


 武田はため息をつく。


「『アイツ』も『勇者』らしいぜ」

「……」


「嘘。あの岩手が」

「えあでだ。まぁ呼びにくいな」


 あの怪力と残忍性。

 何より悪逆そのものの態度。


「『勇者』って鬼? バケモノ?」


 魔王さまに聞いても良くわから無かったけど。


「俺は月光仮面らへんだと思ってたよ」

「月光仮面は蹴り一発で軍隊をふっとばしたりしないわよ」


「『憎むな。殺すな。赦しましょう』だしな」


 首肯。アイツは。殺すことを楽しんでいました。


「『召喚』っていうからてっきり裁判所に出頭要請を」

「あ。すっごく解る」


 『召喚』なんてされたというから、親戚や家族が村に住めなくなるんじゃないかと本気で思いました。


「魔法で無理やり浚うことを言うみたいだぜ」

「考えてみれば酷いわよね。私なんていきなり妖怪さん達のど真ん中よ」


「まだいいじゃないか。鬼畜米英のど真ん中と俺は思ったぞ」

「あはは」


 真面目に答える武田さんに思わず笑ってしまう私達。


「あ、でも鳥取なら普通に妖怪みたことあるんじゃないか?」


 なにそれひどいです。


「タヌキくらいしかいないわ」

「あ、でも俺の島には一尺あるナメクジとか、40尺ある蛇ならいるらしいぜ。御袋がみた」


「それ、妖怪より怖いですッ!?」


 というか、おばかなサラマンダーさんより、30センチのナメクジさんのほうが不気味です。



「いやぁ、前に喧嘩でガードレールにヤクザをぶつけちゃって。あ。ガードレールって知ってる?」

「知らないわ」


 聞いたことはあるかもですが。


~ あたしも ~


「こーんな白くて、大きくて薄い鉄板でさ、自動車の事故から人間を守るんだッ!」


身振り手振りでガードレールを説明する武田に驚く私達。


「おお」

~ おー! ~


「信号機見たことあるか」

「あるある! すごいよね! 誰も何も言っていないのに赤くなると人がピタッと!」


「すっげーよな。大阪すげえぇっておもった!!」


 勇者は大阪に行ったことがあるらしい。


「あたしも行って見たいなっ!」

「歓迎するぜッ!」


 そこでうなだれて見せる彼。

 

「生きていれば。な」

「私ってやっぱり死んだの?」


 視線を落とす私達を安らぎに導く魔薔薇のお茶の香。由美子のお茶。

~ とりあえず、あたしが見た限り、由紀子が足を踏み抜いたって言う古井戸とかそれを塞ぐ腐った板はなかったな ~


「『勇者』ってなんだろうな。『アイツ』曰く、神が土下座してたからお詫びと言うことで『ちーと』能力を貰ったらしい」

「ちょっと能力。ねぇ」


「ちょっとどころじゃないよな」


 色々とありえないほど、『アレ』は強かった。

 あと神様が土下座? ちょっと可笑しいよね。


「蚊を叩いて土下座するようなもんだよなって言ったらアイツ凄く怒ってたぞ」「ぷ」


 そう思うと、アレも人間だったのかもしれない。


「『ちーと』って言うのは、いかさまって意味らしいんだ」

「悪いことじゃないの」


「意味わからないよな。勇者じゃないのかって」

~ そうだ。そうだ。イカサマは良くない。だから先月の花札で巻き上げた饅頭返せ ~


 き、気付いていたかッ?! 流石たっちぃ。

 内心慌てる私に重要なことを勇者は告げました。

 

「そうそう。お前の副官だが」

「!」


 私の視線の意味に気付いた彼は一度言葉を切ります。


「安心しろ。死体を穢すようなことはさせない」


 久さんはそういって微笑みました。


「西の城壁の前に目印がある。そこを掘れ」


 彼はそういうと、姿を消しました。


「あと、面白いことをやってるから、期待してくれ♪」


 え?


「またな~♪」

「そ、それはどういうことだっ?!」


 転移術なのか。

 姿を消した勇者の残滓はお茶の香りのみ。


「……」

~ …… ~


「誰かいるか」

「は」


 正気を取り戻した私は人を呼びます。


「城内の結界を確認。綻びを調べなおせ」

「承知」


 もし、久さんがその気なら、魔王様の寝所にも忍び込めたはず。


 魔族の肌を焼く太陽の光でも、人間にとってはなくてはならないもの。


 朝。『水のウンディーネ』になる時間。


 由美子の遺した心を癒す魔法の薔薇の香りを惜しみつつ、私は、私達は自室を出ました。


 戦争は、まだ続いていますから。

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