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ククク。ヤツは四天王の中では最弱……。  作者: 鴉野 兄貴
ククク。四天王の力の一端。見たいか。ヤツこそ『土のノーム』よ
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Girl Meets Boy(がーる みーつ ぼーい)

―― 地獄のような戦場で。私たちは出逢いました ――


「なんだ? 頭を下げて? 何をやっている?」

「それは、義父ちちと、義母ははの大事な品です」

~ 由紀子の恩人なんだ。返してやってくれよ ~


「返してください」


 由紀子は頭をさげてエアデに頼み込んだ。

 その瞳には暖かい涙が浮かんでいた。


―― 地獄のような戦場で。俺たちは出逢いました ――


「ははは。なんだその打ち込みは? 素人まるだしだ!」

「五月蝿いッ! 五月蝿いッ!」

~ あたんねぇ?! コイツつええっ ~


「無駄なんだよッ! この『大地の鎧』に通じるものかッ!」


 由紀子の剣、『霧雨』は深々とエアデの頭に刺さる。

~ やった。命中だッ! 鬼だか妖怪だかしらねぇが、これで終わりだっ ~


 が。

 ボロボロとエアデの頭が崩れ、元の姿に戻る。

 『大地の鎧』の加護だ。


 轟音と共に、由紀子の周囲が崩れ、壊れていく。


「『皆殺しの斧』。実にいい武器だなぁ」

「返し……て。ください」


 呻く由紀子にエアデは厭らしい笑みを浮かべてみせる。


「ガイアだったっけ? あの女は実にいい具合だったなぁ。こう胸が凄くて」

「……!」

~ な ~


「死んだノームの前でヒィヒィ言わせるのが、最高だったぜ」


 由紀子の肌が泡立ち、手足が震える。恐怖と絶望を怒りに変え、由紀子は斬りかかった。


「キサマァ!」

~ ただじゃおかねぇ! ~


 『霧雨』。岩をも紙のように切り裂く剣。だが、剣は素人同然の由紀子が握ったとて、ノームの力を司る『大地の鎧』を打ち破るに至らない。


 だが、由紀子は諦めない。

 思うままに頭上から切る。切り上げる。振り回す。叩きつける。頭上から切る。切り上げる。振り回す。叩きつける。突き込む。


「あははは? その程度か。最強の将軍と言うが、ジジイのほうが強かったな」

「く……っそ……かえ……せ」


 義父を。義母を。返せ。


 人の肉が武器として天を舞い地を砕き、血が血を洗い。

 恨みが全てを覆い尽くし、悪意のみが残る戦場で。


 彼らは出会った。


「聞いてないぞ。エアデ」


 由紀子の身を護る『水の羽衣』に手をかけるエアデの手が止まった。


「ヒサシ……?」

「婦女に、捕虜に、味方である人間にお前は何をしている」


 静かな怒りに燃える少年。その目を見て、由紀子は、たっちぃは知った。

 黒い髪、黒い瞳。小柄な身体。同年代ほどの、鋭い視線。

~ あいつ。日本人だ ~


「エアデ」

「なんだ? ヒサシ」


「その鎧を脱げ。そして斧をその娘に返せ。土下座して、割腹しろ」

「な?」


 炎に包まれた防壁の上、黒髪の少年を熱風が揺らす。


「聴こえなかったか? 貴様、それでも日本男子か」


 少年の冷たく燃える瞳がエアデを射抜く。


「ば、莫迦いうな。せっかく転生してチートでハーレムな生活を」

「一度。死んだ身なのに。哀れだな」


 少年はエアデに告げた。


「馬鹿は死なねば治らぬというが、死んでも治らんようだ」

「ひっ?」


 その剣をエアデに向ける。その切っ先は魔族の真っ青な血で染まっていた。


 少年の怒りが本物であると悟ったエアデは急いで鎧を脱ぎだす。放り投げられた『皆殺しの斧』が地響きを上げて城壁に刺さった。


 先ほどの怒りの瞳とうわはらに戦場に似合わぬ優しい笑みを見せた少年は由紀子に告げた。


「これで、いいか。君。婦女子に暴力を振るう不届きものは我らで処断する」「……」


 由紀子がなにか言う間もなく、駆け寄ってきた娘がエアデの首に短剣を突きつけた。


 由紀子の瞳が見開かれる。

 それは義母の最後を告げられたときよりある種の衝撃であった。魔族を憎む人間はいる。人間を餌としか思わぬ魔族もいる。しかし。


「同じ、人間なのに」


 絶叫する間もなく、果てたエアデを娘は忌々しそうに蹴った。


「獣すら、この者と同類と呼ばれることを嫌うだろうな」


 少年は自嘲した。


「俺と同じだ」


 少年は異形の呪紋を全身に刻んだ娘に問いかけた。


「貴女は?」

「水のうんでーね。と人は言うわ」


 由紀子は素直に答える。


 少年は目を細め、娘は短剣を構えた。それを制する少年。


「ほう? 大精霊。『タイチイ』の加護を受けた魔将か」

~ 武田彰子だッ! ~


「失礼。彰子さんか」


 頭を下げる少年に絶句する『二人』。


「私は、勇者と呼ばれている。『武田 久』」


 人間軍の指導者。魔族の宿敵。その彼は由紀子に人間的な、とても穏やかな笑みを浮かべてみせた。


「助けてもらって、感謝します」


 由紀子は素直に頭を下げる。そんな少女に少年は無言で一組の武具を指し示してみせる。


「いらないのか」

「いえ」


 義父の遺品『大地の鎧』。


 義母の装備『ギガス・マキナ』。人間達の中では『皆殺しの斧』とされる武器。


 由紀子は変わり果てた二人の力の残滓を愛しそうに抱きしめた。斧と鎧が琥珀の色を持つ光となり、由紀子を包んでいく。


 ~ わぁ ~

「へぇ。きれいだ」


 少年は歳相応の可愛らしい反応を示した。

 琥珀の光は、由紀子を包み、彼女に新たな力と技を授ける。


『土の力。汝に』

『大地の力。汝に』


~ この声は! ノームのおじさん? ガイアのおねえちゃん。 どこ? ~


「魔将は、その力を他者に譲れるというが」


 権力争いにかまけ、その力の存在は長く忘れられていた。

 感慨に浸る暇も無く、由紀子は久に告げる。


「今日のところは借りにしておく」

「次に会うときは剣で返してくれてかまわない」


 久の言葉を尻目に、由紀子とたっちぃは傷を負って動けぬニンフを担ぎ、夜の闇の中に紛れて城壁から飛び降りた。


「また、戦場で会おう。生き残れよ。『水のウンディーネ』」


 少年は去りゆく由紀子に踵を返し、転移術で消え去った。

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