かえして下さい。それは大切なものなんです
横殴りの豪雨が私とニンフさんに襲い掛かりました。
良かった。雨ならば。この雨ならば夜まで耐えられる。
~ 雨じゃない。由紀子。警戒しろッ! トンでもないのが来ているっ ~
「見つけたぞ。貴様がウンディーネだな」
振り返った私達の瞳に移った異形の姿。一瞬味方かと思うほどの巨大な体。
それは大きな斧みたいな、血と骨と肉の塊を持った御兄さん。
「我こそ勇者。『戦士』・エアデ」
彼は塊を何気なく振ります。弾丸のように赤いモノが横に吹っ飛んでいき、人を、建物を、物資を砕きました。
「コレは『皆殺しの斧』と言う」
みなごろしの……おの?
綺麗になった斧を持って笑う。『えあて』さん。
彼の身体に味方の剣が、槍が襲い掛かります。
「みんな?! だめっ?!」
しかし、その一撃は簡単に弾かれて。
「きかんな」
~ ばけものかよ 『勇者』って連中の仲間は ~
鬼とか、悪魔だってこんなに頑丈ではないでしょう。でも。でも。それは。
背後から、『えあて』さんの頭をスコップで殴った捕虜の人が叫びます。
「ウンディーネ様ッ! ここは我らがッ!」「逃げてくださいっ!」
えあでさんが笑いました。
「魔族の手に堕ちた淫売の何処が良かったのかな?」
スコップで殴られたえあでさんの頭が土のように崩れ、傷一つないえあでさんの頭が現れます。
まちがい。ありません。あれは。あれは。
「ウンディーネ様は処女だっ!」「愚弄するなっ!」
~ だって、由紀子、子供にしか見えないし ~
捕虜の人たちがえあでさんにかかっていきます。
「だめぇ! みんな逃げてッ!」
~ やめろっ! お前らでは勝てないっ! ~
びしゃ。
また、水の感触。
いえ、赤い水なんて。ありません。
~ 人間かよ。アレ ~
自信ないですね。『勇者』たちはちょっと規格外です。
「子供も、嫌いではない」
えあてさんはそういって厭らしく笑いました。
「遊んでやるから、おいで♪」
あの斧。あの鎧は。間違いありません。大切な。大切な。
「かえして下さい。それは大切なものなんです」
私はえあてさんに頭を下げました。
~ 由紀子。あの斧って、ノームさんの副官の ~
えあてさんの斧は。ガイアさんの斧。
そして、彼を守護する『大地の鎧』は。
「その鎧は。義父の大事な鎧です。かえして下さい」