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プロローグ 実は私が最弱です
「ノーム様が勇者に殺されました」
何処かの世界の何処かの魔王の居城。
息も絶え絶えに報告をするは魔族の青年。
フハハハ。
唐突に哄笑がその部屋に満ちる。
「サラマンダー様?」
悲嘆に暮れる青年は礼すら忘れて『四天王』の一角、『サラマンダー』を睨んだ。
「ヤツは四天王の中では最弱」
「人間如きに敗れるとは、まさに恥さらしよの」
「……」
業火によって身体を覆う迷惑なヤツと常に暴風を纏うことで女官たちに嫌われている男は笑いあう。
紅一点の女性だけは辛そうに視線を逸らし、拳を握り締めた。
「大儀であった。下がってよいぞ」
尊大に言い放つ炎の塊に頭を下げ、噴飯やるせない表情を一瞬浮かべた青年はその部屋を退去する。
「困ったことになった」
楽しそうに笑いあう炎と風に気取られぬよう、女性は呟いた。
「次。ひょっとして私?」
ひょっとしなくても。お前である。