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通夜

作者: 猫目石

昨年の従兄の葬儀に引き続き、今年も葬式が続いた。

『一度あることは二度ある』という。

さらに『二度あることは三度ある』ともいう。

下手すると三度目の葬儀が近い内にあるかもしれない。

80過ぎの老人が親族にゴロゴロいる。

いつ、誰が死んでもおかしくない。



母の長姉の夫、簡単にいうと血のつながらない伯父の通夜に参列した。

私の母は七人兄妹の末っ子として生をうけた。

現在、生存しているのは母を含めて三人。

長姉、次姉、それに母、全員が女である。



その長姉である伯母の夫、伯父が5月26日に亡くなった。

享年、88歳、日本人男性の平均寿命は79.55歳だから長寿といえる。

昨年の従兄の享年66歳に比べれば22年も長く生きていた計算になる。

おまけに伯父は従兄と同じく癌を患っていた。

手術も繰り返し何度も受けていた。

にも関わらず伯父は従兄よりもズッと長く生き続けていた。



今年に入って一時、伯父は危篤状態におちいって医者から「もうダメだ」といわれたらしい。

それでも奇跡的に息を吹き返し退院して家に戻ったら元気になったそうだ。

そんなしぶとい伯父である。

まだまだ死にはしないだろうと周囲は考えていただろうし私もそう思っていた。

それが呆気なく息を引き取ってしまったのだ。

最後は自分の家で大往生だったらしい。

土曜日の昼頃、母から電話が入り葬祭の連絡がきた。

色々と考慮して月曜日の告別式はパス、日曜日の夜7時からの通夜にのみ参列すると返事した。



さあ、それからが忙しかった。

喪服はどこにしまってあった?

季節的に殆ど夏だが暑いというほどではない。

でも冬用の喪服は使えない。

夏用の喪服か? 

春秋用の黒服?

日時に少し余裕があるから美容院にも予約を入れねば!など。

そんな感じでバタバタと慌ただしく過ごした。



5月27日の日曜日の夕方、父母と待ち合わせて葬儀場へ向かった。

夜7時、親族席について直ぐ通夜が始まった。

伯父も伯母もS学会の信者なので『南無妙法蓮華経』の大合唱である。

実家は浄土真宗なので私は子供の頃からまろやかな語感の『南無阿弥陀仏』に慣れている。

だからなのか、どうしても『南無妙法蓮華経』を奇異に感じてしまう。

何といったらいいのか、妙に音律に荒々しいものを感じるのだ。

もともと日蓮宗の開祖の日蓮自身、非常に戦闘的な坊様だったそうだから無理もないのかもしれないが。



通夜が終わって祭壇で眠っている伯父と対面する。

安らかな死顔だった。

あれにはホッとした。

もし苦痛に満ちた顔だったら、こちらも少なからずショックを受けただろうと思う。

本人も納得して死出の旅路についたのだろう。

そう思わせる死顔だった。

唯、喪主をつとめた伯母が心配だった。



伯母夫婦には子供がいない。

伯父は、昔、織物工場を経営していて羽振りがよかった。

伯母に隠れて結構、遊んでいたと聞く。

だが、隠し子の話は全く聞いたことがない。

伯母も三十代で生理がなくなったという。

双方に問題があったらしい。



喪主の挨拶の途中、気丈な伯母が「一人に・・・」と言葉を詰まらせていた。

無理もない。

七十年近く連れ添ったつれあいに死なれたのだ。

お世辞にも仲睦まじい夫婦とはいえなかった。

それでも半世紀以上、ズッと傍にあった伴侶の死。

どうしようもない寂寥が伯母の胸に去来しただろう。



生前の伯父は決して人好きがするとはいえない人だった。

父母も私もウンザリさせられたことが何度かある。

それでも伯父の冥福を祈ろう。

そして伯母に残された余生が明るく楽しいものでありますように。


       合掌がっしょう








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