表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも魔女は旅を続ける  作者: 妖精⊸ロケット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

Day01: 領主の依頼

魔女見習い、修行中。師匠のことが、憎くて大好き。

「もう!今日のあの旅人、信じらんない!ソフィーがけがを治してあげたのに、『う、うわっ!魔女だ!魔女に呪われる!』って逃げ出して。失礼にもほどがあるでしょ!」


貴船藤乃きふねふじのは、宿屋で悪態をついていた。


「いいのよ、『魔女』ってそういうものだって、いつも言ってるじゃない。あの人の大ケガが、あんな全速力で走れるくらいには治ったんだから、もう、それでいいでしょう?」


「でも、ソフィー!ソフィーを侮辱するなんて、あたし、許せない!」


「グリ。まずはちょっと、落ち着きなさい。ここは宿屋。隣にも人がいるの。迷惑よ」


宥めるように語り掛けるソフィー。


「……わかったわよ。……でも、ソフィーが許しても、あたしが許さないわ」


口を尖らせたまま黙り込む。声は小さくなったが、納得したわけではなかった。


「もう、怒らないの。もう寝ましょう?今日は色々あって、疲れたでしょう?」


「……はぁい」


魔女見習いである藤乃は、師匠の言うことを素直に聞く。

フリルがあしらわれた袴の帯を解き、お気に入りの洋風の寝間着に着替えながら、自分のベッドへ手招くソフィーを振り返った。


「……なに、ソフィー?」


「たまには一緒に寝ましょ」


「な、なんでよ」


「師匠思いの弟子に、師匠からちょっとしたプレゼントよ。こっちに来なさい」


「ま、まったく仕方ないわね……」


少し顔を赤らめながら、ソフィーと一緒のベッドに入る。


「こちらに背中を向けて」


言われたとおり、背中を向ける。


すると……。


「ちょっ、ソフィー!?」


後ろから腕が回され、その身体を優しく抱きしめる。

師匠の体温は心地よく温かくて、なんだか、とてもいい匂いがした。


「今日のことはもういいのよ。すべて、過ぎ去ったことだわ。……でも、ありがとね。わたしの弟子はとびきりの師匠思いで、わたしは、それだけで、十分幸せよ」


「ソフィー……」


ソフィーは、藤乃の髪に軽くキスをする。

それだけで、今日の疲れがすうっとほぐれていった。


「はい、この話はおしまい。このまま寝ましょう。明日も朝は早いわよ」


「……うん」


小さな魔女見習いは、憎くて大好きな師匠のぬくもりの中で、夢の世界へと一緒に旅立つ。



翌朝。そろそろ旅の資金の底が見えてきたソフィーと藤乃は、立ち寄った田舎町の酒場で、何か依頼がないか探る。


店主がため息をつきながら紹介したのは、だれも解決できないまま何年も経つ、いわくつきの依頼だった。

しかも、依頼主は領主。

国中のあらゆる酒場やギルドで仕事を募集させ続けているらしい。


「なんだかすごい怪しい感じがするわ、ソフィー」


「そうねぇ……でも他にめぼしい依頼も無いし。ねえオヤジさん、これはいったいどんな依頼なのかしら?」


「領主の子供をたたき起こす仕事だ。10年以上、一度も起きてないんだとよ」


「……何よ、それ……?」


「さあな、俺も詳しいことは知らん。政治には出来るだけ関わらないようにしている。本当はこの依頼だって扱いたくはないんだ。これを持っていけ」


店主が手にしていたのは、荘厳だが古ぼけた依頼書と地図、そして鍵だった。



早速、地図を頼りに向かった城のような古風な屋敷で藤乃たちが見たのは、手入れされた綺麗な庭園。

今日は春の風が心地よい。庭園は満開の花々で一杯だった。


「さ、行くわよ」


ソフィーは庭園を一瞥すると、そのまま歩き出した。


「すごいわ、綺麗ね。でも、なんだか……不穏というか……変な感じもするわ……?」


自分の家のお屋敷よりもお花に満ちているのではないか、というぐらい広大な庭園に藤乃は驚く。

それなのに、なんだか見ていると、どこか不安になる。なんでかしら?


「ねえ、ソフィー」


ソフィーは立ち止まり、振り返る。


「グリも、ちょっとは分かるようになってきたようね」


「ソフィーは、……何か呪いの気配を感じるの?」


「見て、あのオレンジの花」


「……あの花、知ってるわ。日本でも見たもの。でも……」藤乃は首をかしげる。「おかしいわね。あの花って、冬に咲くはずじゃなかった?」


「あたり」


短い返事だった。でも、その一言が、藤乃にはどこか誇らしかった。


「冬も冬、雪が降るような頃に咲く花が、春の庭で咲いている。ということは?」


「『何か』がおかしい、ってことね」


「そう。じゃ、次」ソフィーの視線が、庭を舞う蝶々へと移る。「虫たちを見て。自由に出入りしているわ。植物には何か働いているけれど、動く生き物には効いていない。つまり——」


「魔法陣ね!絶対そうだわ!あたしたち魔女だけ閉じ込めるやつ!」


「……逆よ」


ソフィーは静かに、でもきっぱりと言った。


「入っても大丈夫、ってことね。たぶん、だけれど」


「た、たぶん……?」


「『絶対』が言える方法があるのなら、最初からそっちを使ってるわよ」


ソフィーはにっこり笑うと、屋敷へと向かって歩き出した。その道のりは、思いのほか長い。……ひょっとすると、遠く離れた日本の故郷にある、あの賑やかな上野公園よりも広いんじゃないかしら。


藤乃が袴の裾からたっぷりの白いフリルを軽やかに弾ませて歩く横で、ソフィーは足首まである黒いスカートを優雅に揺らし、静かに歩みを進めていく。

春の風は心地よいが、晴れた中ずっと歩いていると、さすがに少し汗ばむ。時折木陰で水を飲みながら、二人は進んでいく。


「このお屋敷、ずいぶん立派ね」


屋敷に近づくにつれて、歴史を感じさせる建物であることがわかった。

石の柱を1つ取っても、いったい数百年前のものなのだろう……と思わせる。さすが、領主のお屋敷だ。

きっと、古くからこの地域を治めているのだろう。


「ふう、やっとついたわね」


「長かった……」


二人はやっと、屋敷の前へたどり着く。二階まで届くような、大きな大きな扉だった。そしてふと藤乃は振り向いて、


「あれ……たったこれだけしか歩いてないの……?やっぱり魔女は道が長くなるような魔法陣でも描かれてるんじゃないかしら?」


今度こそは、と藤乃は推理する。ソフィーも振り返ると、


「……それはねぇ。……グリが疲れているから、そう感じるだけね!はははっ!まったく、体力もないんだから。ま、入ったらお昼にしましょう。太陽があんなに高いもの、すっかりお昼時よ」


「むー、また外した……」


藤乃が足元に目を落とすと、自分の影は爪先のすぐ側に、小さく縮こまっていた。


「見習いなら、そんなもんよ。さてと。自称未来の大魔女、マドモワゼル・グリシーヌ・キフネ?借りた鍵は、ちゃんと持ってきたかしら」


「自称は余計よ、ソフィー!ええ、バッグの中に……。はい」


藤乃がソフィーに鍵を手渡すと、ソフィーは何かを確認しながら鍵を開ける。


「何を見ているの?」


「んー?同じよ。何か変な所が、違和感が無いか……無さそうね。さっ、扉を開けるわよ」


藤乃はソフィーと一緒に扉を押し開ける。……思ったより軽かった。中に広がるのは、天井の高い静謐な部屋だった。……涼しい風が吹いてくる。


「中も……んー、大丈夫そうね」


「……なんだか、さっきよりテキトーな感じがするわ……?大丈夫なの?」


「慣れよ、慣れ。ここまでの感じを見る限り、そこまで心配しなくても良さそうってこともあるわね。さ、入りましょ」


中は綺麗で、埃が積もったりもしていなかった。なるほど、たしかに定期的に誰かが掃除しているらしい。こういう所をソフィーは観察しているのかしら、と藤乃は思った。


中の空気は、ひんやりとしていた。悪霊の寒気などではない。古い石とレンガが、外の熱をきちんと遮っているのだろう。


目に広がっているのは、がらんとした空間だった。


店主から貰った依頼書によれば、もとはこの屋敷に領主一家が住んでいたという。


だが今は、生活の痕跡どころか家具の一つも見当たらない。


……ただ、中央にある、どこか古めかしい椅子と、その下の絨毯。


そして。


椅子に座り眠る、女の子を除いては。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ