どうやらこの狐……ただの狐ではなかったようです。
「んにゅ……」
「起きたか……」
「……うわぁぁ~!!」
目を開けると、狐の顔がドアップで、思わず悲鳴を上げてしまった。
「先ほどから失礼なやつだな。これでも我は高貴な血を受け継ぐ狐なのだぞ。そんな我を枕にしよって。」
頭の辺りが暖かく柔らかい物に包まれていると思ったら、狐のおかげだったらしい。
高貴とかなんとかは……
(うん、聞かなかったことにしよう)
「あ、あーと。きちゅね。」
「ふ、ふむ。悪くないぞ。」
狐の毛を撫でながら感謝を伝えると、嬉しいのかゆらゆらと尻尾を揺らす。
(ふふっ。狐も気持ちいいところは犬と一緒なのね。)
それからしばらく狐のモフモフを堪能していると、ふとあることに気づいた。
「きちゅね。にゃまえにゃいにょ?」
「む……?名か……?遥か昔に名前を呼ばれた記憶はあるが、今は特に呼ばれることもないな。」
「ほぇ~」
(ずっと狐って呼ぶのは不便よね……)
ここの土地に住んでいるということは、この狐とずっと一緒にいることになるような気がする。
「む?なんだ?なにか、おかしいか?」
狐にとって名はそこまで重要なことではないのだろう。
首を傾げる狐を見て、私はフルフルと首を横に振った。
(狐一号とか狐二号とかは可哀想だもんね。)
「にゃまえ、ちゅけてい?」
幼女らしくこてんと首を傾げると、狐はプイッと顔を逆側に向ける。
そして――
「いいぞ……」
そっぽを向いたまま小さい声で呟いた。
だが、尻尾はわずかに揺れている。
(本当は嬉しいのね……)
ちょっとツンデレな狐に、私の頬も自然と緩んだ。
(可愛いところあるじゃん)
それから私は短い腕を必死に伸ばし、顎に手を当てる。
「う~ん……」
狐の名前を考え始めた。
そして、考えること数分――
捻りに捻って考えた名前を口に出すと……
「こんちゃ!!」
「却下だ!!」
速攻却下された。
「にゃ、にゃんで!?」
「何でも何もないだろ!?あれだけ考えて出た名前がそれか。お前センスないぞ!?」
(セ、センスだとぉぉぉ~!?)
私は頬をぷくっと膨らませた。
確かに、実家にいた猫に「にゃんこ」とか「ネコ」とか付けようとして怒られたことはあるけども……
ちなみに、ハムスターは――
“ハム”と“ベーコン”だった。
(名前のせいか仲悪かったのよね。同じ加工品なのに……)
「もっとかっこいい名前にしてくれ。」
(コンちゃんだってかっこいいじゃない)
「かっこいいにゃまえ……」
白い狐だから、シロとか……ハクとか……
(安直すぎてつまらないわね)
「そうだ。高貴な感じで頼む。」
高貴……?
(って、なによ!!)
どんどん注文が増えていく狐をひと睨みすると、口を閉ざした。
「ん~……」
白銀の綺麗な毛並み。
目は満月のように綺麗な黄色。
はくや?
(なんか変だな……あっ……)
「びゃくやは?」
噛まないようにゆっくり伝えると、狐は気に入ったのかゆっくり立ち上がった。
「ふむ、白夜か。それにしよう。我のことは今日から白夜と呼べ!」
チリン……チリン……
白夜の鈴が静かに鳴ると同時に、私と白夜の足元から淡い光が広がる。
そして、目の前に半透明なボードが姿を現した。
【契約】
聖獣:白夜(千三百歳)
契約者:伏見茉莉花(三十三歳)
「にゃ、にゃにこれ!?」
「ふむ……どうやら契約が成立したようだな。」
《っていうか、聖獣だったの!?》
《ふむ……この世界ではそう呼ぶらしいな。》
「……?」
「……?」
二人は顔を見合わせ、同じ方向に首を傾げた。
そして……
「にゃぁぁぁぁあああ~!?こ、こえにゃぁぁぁ……」
「わぁぁぁあああ~!?ど、どういうことだぁぁぁ……」
二人の叫び声が響き渡った。
「ま、まて……。まりか!」
《お前、今口動かしてない……よな?》
「うごかしてにゃい!!」
普通に話すと舌っ足らずな言葉になるのだから、自分でもすぐにわかる。
「わぁぁぁぁ~お前、我の心を読んだのか!?」
《心なんか読めるわけないじゃない……何言ってんのこいつ》
「こいつとはなんだ!!我には白夜という名前があるのだぞ!!」
「にゃぁぁぁぁ!ここりょよまりぇたぁぁぁ~!」
「それはこっちのセリフだぁぁぁ~!」
混乱しすぎると一周まわって冷静になるなんて言うが、そんなことはなく。
今は目の前の非現実的な状況に、二人して大声を上げるしかなかった。
やがて、少しだけ落ち着きを取り戻した頃――
どちらからともなく視線を合わせた。
「一旦落ち着こう。今の状態を整理したい。」
「しゃんしぇ!」
白夜の言葉に手を挙げて答える。
「ふむ。まずは我から茉莉花に問いかける。聞こえたら答えてくれ。」
「あい!!」
《まりか、聞こえるか》
イヤフォンから流れるような白夜の声。
まるで頭の中に直接話しかけられているみたいだ。
「きこえりゅ!」
「……そうか。」
《お前、口を閉じて答えてみろ》
《白夜、聞こえる?》
「……」
白夜はじーっと見つめると小さく息を吐いた。
《……あぁ、聞こえる》
やはり、心の中の声が全て白夜に筒抜けのようだ。
「これはいったい……?」
「直接頭に話し掛けていると言った方がいいかもな……」
「ぷらいばちーにゃい……」
「それはこっちのセリフだ!!」
白夜は空気を変えようとゴホンッ咳払いをした。
「ゴホンッ……だが、一つだけわかったことがある。」
「わかっちゃこと?」
「あぁ、どうやら全部が全部茉莉花に筒抜けではないようだ。お互いにな……」
「どゆこと?」
「相手に伝えたいと思わない限りは伝わらないようだということだ。」
(なるほどね。インカムのようなものってことかな)
確かに、私が自問自答している時は、白夜はなんの反応も示さなかった。
恐らくそれはインカムをオフにしていると言う状態だからなのだろう。
《全部が聞こえないなら安心ね。それにこっちで話した方が私も助かるわ。》
「ふむ……そうだな。どこにいても聞き取れるかは分からんが……それは追々やっていくとしよう。」
「そうちまちょ。そりぇよりも……」
「あぁ、そうだな。話を戻そうか……」
色々なことが次から次に起こり……中々進まないスキルについて話を始めることにした。




