いつの間にか土地を契約していたようです。
「そりぇで……ここはどこ?」
お腹もいっぱいになり少し落ち着くと、私は目の前に佇む狐に話しかけた。
「ふむ……少しは落ち着いたようだな。」
狐の尻尾が嬉しそうに揺れる。
「では、ここがどこか説明しようか。ここはな……」
狐は一旦そこで区切ると、誇らしげな顔で見下ろした。
「お前が契約した土地だ!」
「……」
け、け、契約!?!?
私はその言葉に一瞬息を止めた。
(いや待って、私契約した記憶なんてないんだけど!?)
二人の間に沈黙が流れる。
しかし、狐はそのまま話を続けた。
「そして、お前のスキルでもある。」
スキル?
この土地が?
あるのは狐と桜の木だけど!?
正直、狐の話に頭が追いついていない。
「ふ、ふみゅ……」
もう少し滑舌よく話せればいいが……
(見た目に引きずられていて上手く話せないんだよな……)
「反応はそれだけか?もっと嬉しがると思ったんだがな……」
狐は褒めてもらえるとでも思っているのか、尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「……」
(嬉しがるって……この状況で嬉しがれる人がいるなら教えて欲しい)
いつ契約したのか、ここはどこなのか、スキルが土地ってどういうことなのか――
聞きたいことが次から次に浮かんでくる。
だが――
(この狐……あまり頭良くなさそうなんだよな)
まとめて聞いても分からなくなりそうだ。
(聞くならやっぱりこれか……)
私は一番気になった言葉を狐に投げた。
「けーやくはいちゅしたにょ?」
「……は?」
狐の声が一段低くなる。
揺れていた尻尾が動きを止めた。
(分かりやすいな……)
「ちびなた。きおくあいみゃい……」
記憶はばっちりあるけど、ここはこの身体を有効活用させてもらう。
「ふむ。それもそうか。我もお前が小さくなるとは思っていなかったからな。」
どうやら、狐は私の言葉をそのまま信じてくれたようだ。
(……ちょろい……)
私は狐の前にちょこんと座り、じーっと狐が話すのを待つ。
狐は軽く咳払いをした。
「ゴホンッ……契約についてだったな。」
こくりとうなずく。
「お前は覚えていないと言うが、我の住まう土地が売りに出されていたのだ。」
住まう土地が売りに出されていた……
「場所は出雲近く。ここまで聞いて何か思い出さないか?」
出雲……といえば祖母の家の近くだ。
しかし私は東京の会社員だ。
いつかは自分で家を買って、大型犬と一緒に悠々自適な生活を送る――
そんな夢もあったが……
それは夢のまた夢だ。
私はふるふると首を横に振った。
「ふむぅ……そうか……では話を続けよう。」
(ってか……)
「ちょちょまっちぇ!!」
話が普通すぎて、思わず聞き流していたが……
この狐。
「いま、いじゅもゆーた?」
私が大きな声をあげると思っていなかったのか、驚いた顔をする。
「あ、あぁ。出雲だ。」
……出雲?
私は思わず目を見開いた。
そもそも、ここは異世界のはず。
初めに召喚された時だって「異世界人」と言っていた。
なのに……出雲?
一体どういうことだろうか。
「このしぇかいにもいじゅもがありゅ?」
「……いや、それは知らんぞ。」
(いや、なんでお前が知らないんだよ!)
「……は?」
幼女とも言えない低い声が自分から出る。
狐もそれに驚いた顔をしたあと、何かを思い出したかのように顔を真っ青にした。
「い、いや……やめてくれ。もうぶん回されるのはこりごりだ!」
ぶん回される……?
(あぁ……ポシェットの時のことか……)
紐がないし、自分の身体よりも大きいのだからできるわけないのに。
私は深くため息を吐いた。
「……はぁ……」
「ひっ……ほ、本当に何も知らないのだ。我も気づいたらポシェットになっていたからな……。」
これ以上聞いても埒が明かないと思った私は話を元に戻した。
「しょれで、けーやくのはなちは?」
「あ、あぁ……契約だな。我の住む場所は自然豊かな綺麗な土地だった。それを一人の男が管理していたんだ。」
「しかし、管理していた男が亡くなってな。縁者も居なかったからか、仕方なく売りに出すことになった。それが管理していた男からの遺言でもあったらしい。」
「僻地だったからか、土地は広いが、なかなか買い手が見つからなかった。そんな時……」
狐は、私を見据える。
「お前が現れたのだ。」
(現れた記憶ないけどね……)
「ネットとやらから書き込みがあったそうだぞ。」
「良かったら、売って欲しいと……な。」
こんな大事なこと……忘れるだろうか。
野菜を買うのとはわけが違うのだ。
一生ものの買い物だし、土地の場所も見ていないのに、ネットで見ただけで買うとか……
(ないだろ……)
「それから、トントン拍子に話が進み、契約も問題なく終えた。これが契約書とやらだ。」
狐は契約書とやらを私に出してくる。
確かに署名欄は私の筆跡だ。
……間違いなく。
(いや、全く記憶ないんだけど……)
そのとき――
とある男の言葉が頭の奥から浮かび上がった。
『あいつ家が欲しいって言っててさ、相当な金額貯めてるんだよな。もうすぐ頭金も払えそうだって言ってたし、ローンの審査も通ったって喜んでたんだぜ。』
あの時は色々なことが起きて忘れていたが、勇太がローンの審査通ったと莉々香に言っていた。
(もしかして……)
(いない間に勇太が勝手に買ったとか……)
「やりとりはネットだけにゃにょ?」
こんな大金が動くのにネットだけの取引とか危ないだろう……。
狐はあまり理解していないようだが……
「ふむ。一時的に管理してた人は売れればいいと言う考えだったようだからな。箱の中だけでやり取りしていたようだ。」
箱の中=パソコンの中、ということか……
「前金が払われたと喜んでいたから嘘でないと思ったんだろう。」
「ちにゃみにそのいちじてちにかんりしてたにょは?」
「む……?そんな奴が気になるのか……?」
狐はこてんと首を傾げて考える。
「あぁ……そういえば名前を聞いたな。」
狐は思い出すように目を細めた。
「裏山勇太とか言っていたかな。」
(やっぱり……)
「確か前の管理者とはゲームで知り合って親友だったそうだ。なんでも貰い手がいないから、何かあった時はその男に譲るんだと言っていたぞ。」
裏山勇太……
正真正銘、あの男と同じ名前だ。
その瞬間――
バラバラだった話が、全部一本に繋がった。




