異世界人は勇者と聖女と相場が決まっているようです。
「シャンティア団長。どこに行っていたんですか。」
「セナか……なに……ちょっと散歩をしてきただけじゃ……それよりも、あの二人はどうじゃった?」
幼子を森の中に置いて、俺は急いでフランシア国へと戻った。
(しかし……あの幼子は変な魔力を感じたな……)
「はぁ……いつまでその話し方をするつもりですかぁ。二人の時はいつも通りに話してくださいよぉ。」
セナは溜め息をつきながら、一枚の報告書を差し出した。
セナ・ニャードラ。
魔道士団副団長であり、フランシア国で唯一、俺の正体を知っている人物だ。
「団長が仰った通り、男は勇者の適性、女は聖女の適性がありましたよぉ」
「二人ともジタバタと暴れて大変だったんですからねぇ……」
「そうか……」
報告書に視線を向ける。
―――――
ユータ・ウラヤマ
勇者適性あり
リリカ・カラスマ
聖女として認定する
―――――
「いや、これだけか?」
俺は記載されている内容を思わず二度見した。
それもそのはずだ……
報告書には、たった四行しか書かれていない。
しかも、勇者と聖女として認めたことしか書かれていないのだから……
「……これだけとは?」
セナはこの書類に違和感を覚えていないのか、首を傾げる。
「いや、普通もっと色々あるだろ?属性の適性を見るとか……」
「そうですかねぇ。でも異世界から来たら勇者、聖女と相場が決まってますしねぇ~」
語尾を伸ばしながら適当に話すセナ。
まるで、それ以外の答えはないのだと信じて疑わない口ぶりだ。
その姿は逆に違和感すら覚える。
(この国では……“初めから決まっていること”なのか)
「異世界召喚か……」
「はい。もうすぐ魔災が起きますからね。」
セナはニヤリと笑った。
(なんだか……楽しそうだな……)
この世界では数百年に一度、大きな災厄が訪れると言われている。
普段は人の手で対処できる程度の脅威だ。
だが周期的に、魔物が異常なほど増殖する時期がある。
それが――
“魔災”と呼ばれる現象だ。
「まさか、節目の歳に生まれることができるなんて、親に感謝しかありませんよ。」
セナの緊張感のない言葉。
人族の寿命は長くて百年と言われている。
そのため、“魔災”のある時代に生きているかは分からないのだ。
「魔族とは一体どんな種族なんでしょうねぇ。団長は会ったことがありますか?」
セナはかけていた眼鏡を持ち上げた。
(……好奇心が勝っていると言ったところか)
魔災の時代には、必ず“魔族”が現れると言われている。
それを統率するのが魔王だ。
「俺もまだ魔族に会ったことはないな……」
「そうですか……」
あからさまに肩を落とすセナを横目に、俺は深く息を吐いた。
そして、話を戻す。
「異世界から来たから勇者と聖女だというのは安直すぎやしないか?」
「そうですか? でも本にはそうやって書いてありましたから。」
「いや、あの時もう一人いただろ?」
「もう一人……ですか?」
セナは首を傾げて、少し考える。
「いましたっけ……?二人しか見えなかったですけどねぇ……それに、異世界召喚は勇者と聖女、二名だけのはずですから。」
先ほどと同じように例外はないというような言葉。
「はず、ね……」
所々違和感のあるセナの言葉に、俺は口を閉ざした。
(じゃあ、あの子供は……一体なんだったんだ?)
「団長も一応聖女様と勇者様に会っておいてくださいねぇ。」
書類を渡しに来ただけなのか、セナはそのまま別の方へ歩いていった。
***
「んぅ……」
「起きたか……」
「あしゃ……?」
「あぁ、朝だ。」
覚醒していない頭をゆっくり起こす。
「全く、何度か声をかけたんだが、起きる気配もなかったぞ。」
「ふみゅ……」
「女がこんな所で寝るなんて危ないじゃないか」
「もしゅこし……ねちゃい……」
「って、寝るな!朝だと言っているだろうが!!」
眠たい目を擦りながら、なんとか隙間から這い出る。
その時――
「えっ……こえ……?」
声……?
森の中で、誰かの声がした。
しかし――
何度周囲を見渡しても、人はおろか動物すらいなかった。
「んぅ~……」
こてんと首をかしげる。
「だぁ~かぁ~らぁ!ここだと言っているだろうが!何度言えばわかるんだ!」
先ほどよりも声が少しずつ大きくなっている。
私は恐る恐る、声のする方を見た。
するとそこには――
狐のポシェットが、ふてくされたようにこちらを見ていた。
「みぇ、みぇ、めがぁぁぁ……う、う、うごぉぉぉぉ!!」
言葉にならない声が、森の中に木霊する。
その声に驚くように、木に止まっていた鳥たちがバサバサと飛んで行った。
「お前……本当に失礼なやつだな!」
「しゅ、すみゃみゃしぇん……」
「言えてないぞ。」
「うぅ……」
口をパクパクさせるが、うまく言葉が出てこない。
それからしばらくして――
何とか気持ちを落ち着けた私は、気づくとポシェットの前で正座をさせられていた。
「昨日から何度も話しかけているというのに、寝てしまうし、寝たお前は重たいし、挙句の果てに化け物扱いされるし……本当に最悪だ。」
狐の形をしたポシェット曰く、昨夜から何度も話しかけていたらしいのだが、眠さと空腹でいっぱいいっぱいだったこともあり、何も覚えていなかった。
(狐の形をしたポシェットって……長いな。もう狐さんでいいか。)
「おい、聞いてるのか。お前に話してるんだぞ。」
ポシェットをなんて呼ぶか考えていれば、それが顔に出ていたのか、目を細めてこちらを見てくる。
その時――
ぐぅぅぅ~~
返事をするかのごとく、盛大に腹の虫が声を上げた。
「えへへ……」
顎を下げて上目遣いで見上げる。
首を斜め三十度に倒す。
これで大体の大人は落ちる。
「ぐっ……」
(ふふ……知ってるのよ。姪っ子たちに何度もこの顔で騙されてきたんだから!)
狐は一瞬動きを止めた。
それからゆっくり深呼吸をする。
「はぁ……仕方ない。お前のスキルについて教えてやろう。」
「スチル……」
「いや、違う。スキルだ。」




