勇者と聖女。そして、気付かれない私。
「おぉぉぉ~ついに成功したぞ!!」
「や、やっとだ……」
「しかも男と女……二人だ!」
聞いたことのない男たちの声が耳に届いた。
(……誰?)
瞼の奥で揺れていた光が、ゆっくりと弱まっていく。
私は、ゆっくりと目を開けた。
すると、そこは――
先ほどまでいたはずの自分の部屋ではなく、ロウソクが数本灯された、薄暗い石造りの部屋だった。
辺りを見渡すが、ロウソクの灯りしかないためかよく見えない。
そんな中、聞き覚えのある声がした。
「きゃっ……なにぃ……?」
「……な、なんだ!?」
莉里香と勇太の声だ。
二人の声がする方へ視線を向けると、そこには莉里香と勇太が呆然と立ち尽くしていた。
(……ふっ……笑っちゃいけないのはわかるけど……)
「ひ、ひぃ……こ、こいつら裸だぞ!!」
知らぬ男の声が石造りの部屋の中に木霊する。
「いかがわしい……」
蔑むような声が続く。
(ふふっ……滑稽ね……)
どうやら、その言葉は勇太たちにも届いたらしい。
二人は自分たちの今の状態を確認した。
「きゃ、きゃぁぁぁ~」
「な、なんだこれぇぇ~」
慌てて莉里香はその場にしゃがみ込み、勇太は前を隠した。
(隠れてないけどね……いい気味ね)
先ほどまでの鬱々とした気持ちはなくなり、胸の中がすっとする。
目の前で起きているドラマのようなワンシーンを見ていると、暗闇に慣れてきた目が、部屋の中を捉える。
(見たところ、十人くらいはいるかな。)
真っ黒いローブを深く被っていることもあり、顔は見えない。
すると、
カン、カン
杖をついたローブの人物が近づいて来た。
「な、なに……!?」
「一応聖女と勇者じゃ……丁重に扱うのじゃぞ。」
少し高い、しゃがれた声。
(女性だったのね)
どうやら、この老婆が指揮権を持っているようだ。
「し、しかし……」
「いいから……とりあえずやることはやったのじゃ。文句は出まいよ。」
「わかりました……」
老婆の声に言い返すことができないのか、ローブを着た者たちは勇太たちに近づいていくと、そのまま腕を掴んだ。
「な、なんだ!?は、離せよ!何するんだ!」
「きゃぁぁぁ~助けてぇぇ……」
(……これは最近流行りの転移……てきなやつなのかしら)
転移の割には二人に対する態度が少し気になるところだ。
それに……
(誰も私に気づいていない……よね)
今まで話している中に、自分の存在が一切入っていないことに気づく。
私は意を決して声を出した。
「あ、あにょ!!」
(……あれ?舌が上手く回らない?)
この場にいた人たちにも声が届いたのか……ふと私の方を見る。
「なんじゃ。もう一人おったのか……ってお前さん……」
老婆は私を見て目を見開き、じっと私を見つめた。
(それにしても……ここにいる人たち、やけに大きいわね)
首を傾げて目の前にいる老婆を見据える。
そして、次の瞬間――
「あの二人の……子供か……?」
「「えっ!?」」
「はぁ??」
子供という言葉に、私だけではなく勇太や莉里香も反応する。
「俺たちに子供はいねえよ。ってか離してくれよ。」
「そ、そうよ!こんな男の子供なんてこっちから願い下げだわ!それより……私あなたの方がぁ……タイプだわぁ……」
「はぁ?俺だってお前のような女願い下げだ。」
先ほどまで仲良さそうに話していたはずなのに、どうやら人は環境が変わると本性が出るらしい。
莉里香はローブの男に甘い声を出しながら媚びを売り、勇太はギャンギャン吠えている。
「うるしゃ……」
小さい声で呟くと、老婆に届いていたのか、老婆は「ブフッ」と笑った。
老婆と視線を合わせようと見上げれば、ローブの奥がひらりと見える。
(老婆かと思ったけど……違う……?)
ローブの下から見えたのは、綺麗な琥珀の瞳を持つ若い女性だった。
女性はウインクすると、そのまま勇太たちをみる。
「よい……二人の子供でないと言うなら連れていく必要はないじゃろ。」
カーン
持っていた杖で床を叩く。
すると、床に陣が浮き上がり、輝きを増し始めた。
「聖女の血も引いておらぬ子供などいらん。」
(いや、子供じゃないんですけど!?どう見ても大人なんですけど!?)
「この子供は儂が捨ててくる。お前さんらはそいつらを連れて適性検査を受けさせるのじゃ。」
「そ、そんな……」
「いいな?すぐ戻る。先に進めておくのじゃぞ。」
そして――
陣の上にいた私と老婆は、気がつくと森の中のような場所に立っていた。
先ほどまでの石畳の冷たさは消え、木々の匂いと草花がサワサワと揺れる静かな風の音が聞こえる。
しばらくすると、頭の上に手が置かれた。
その手が不器用に頭を撫でる。
「目を開けていいぞ。」
頭の上から聞こえるのは、老婆の声とはかけ離れた少し高めの男の声だった。
「あ、ありぇ……?」
あまりの変わり様に目を大きく見開く。
「ははは……驚くのも無理はない。」
男は私に目線を合わせるように、その場に膝をついた。
(膝をつかないなんて……どんだけ大きいのよ。これでも百五十五センチはあるはずなんだけど!?)
「どうやら君は自分の状態に気づいていないようだな。」
「じょうきょ……?」
首を横に倒すと、いつもより頭が重い。
それに声が高く、話しにくいように感じる。
「ふむ……まぁいい。取り敢えず君はこの国にいてはならない。時期を見たら俺から会いに行く。それまでこれを持っていなさい」
そう言って手に持たされたのは、男の目と同じ色をした琥珀色の丸い玉。
「びーだま?」
「びーだま?とは何か知らないが……これは俺にとって大切なものだ。これを持っていればどこにいるかすぐわかる。」
(とりあえず持っていればいいのね)
こくりとうなずく。
「この森を真っ直ぐ行きなさい。抜けると街があるから」
それだけ言うと、男の周りが光り出した。
「ま、まぶし……」
咄嗟に目を閉じる。
そして光が落ち着いた時、目を開けると、男の姿はなく、私一人が森の中に佇んでいた。




