起きたら三日経っていたようです。
「ん~っ……」
「まりか!目が覚めたか!?」
「ここは……?」
瞼を擦ってゆっくり体を起こした。
(ん?なんだか……)
固い地面で寝ていたはずなのに、やけに柔らかい。
ふわりとした布の感触が身体に触れる。
(どういうこと……?)
違和感に首を傾げながら周囲を見渡すと、緑ばかりだった景色はなくなり――
ゆらゆらと揺れる火の明かりが目に入った。
パチパチと薪の弾ける音が、静かな空間に響いている。
(……外じゃない)
いつの間に、こんな場所に……?
途中まで魔法の話をしていた記憶はあるが、そこから先の記憶がぷつりと切れていた。
「ん~おもいだせにゃ……」
この状況を呑み込めないでいれば、ぎぃ~っという音と共に扉がゆっくりと開く。
「ははは……その顔は、何も覚えていないという顔だな」
「と……と?」
トットールは手に持っていたお盆を近くのテーブルの上に置くと、コポコポとコップの中に水を注いだ。
「あぁ、ととだ。まりかがなかなか起きなかったから、近くの町に来たんだ。」
「にゃかにゃか、おきにゃい?」
「あぁ……三日間寝たままだったぞ?」
三日間!?
白夜を見れば心配そうにこちらを見ている。
どうやら本当らしい。
「しょ、んにゃに……」
「あぁ……恐らく魔力を無理やり使ったことによる弊害だろうな。」
魔力……?
首を傾げると、トットールはポンポンっと軽く頭を叩いてから、話を続けた。
「白夜から話は聞いた。まりかは自分で魔法を使うのではな……」
その時だった――
ぐぅ~~
いつものごとく、私のお腹が大きな音を立てた。
(またぁぁぁ~!?)
恥ずかしさからか顔に熱が集まっていくのを感じる。
そんな私を見て、トットールの肩がふるふると震えた。
「くくくっ……三日間も寝たままだったし仕方ないな……くくっ……」
必死に笑いを堪えているようだが、堪えられていない……。
「先に腹ごしらえをしてから話そうか。」
トットールは私から顔を背けて立ち上がり、私を抱き上げる。
「あ、ありゅけりゅ……」
「三日も寝ていたんだ。それに、俺が連れて行った方が早い」
白夜もトットールと同じ意見なのか、何も言わずポシェットに成り下がっていた。
(いつもは自分から食ってかかるくせに……今日はやけに静かじゃない)
じーっと白夜を見つめると、しらーっと視線をずらされた。
(これは何を言っても無駄ね……)
私は観念して身体をトットールに預けると、そのまま部屋の外へと運ばれていった。
***
部屋を出て階段を降りると、甘くて優しい匂いがふわりと漂ってくる。
「……いいにおい………」
思わず、喉の奥がごくりと鳴った。
さっきまでぼんやりしていた意識がはっきりしていく。
(この匂い……なんだか懐かしい~)
ふと、学生の頃に飲んでいた自動販売機のスープを思い出す。
(コーン、取るの大変だったのよね。)
ぼんやりと匂いに意識を奪われていると――
「あら、トットさん。おはようございます~。娘さん起きたんですね!」
厨房の方から若い女性が顔を出した。
「あぁ。心配をかけたな。」
トットールは近くにあった椅子に私を降ろすと、その隣に腰を降ろした。
「ふふ。あんなに焦っている姿初めて見ましたよ~。」
どうやら二人は前からの知り合いらしい……
きょとんとした顔で二人を交互に見れば、その視線に気づいた女性が声をかけてきた。
「ふふ。もしかしてパパを取られると思った?でも、安心してちょうだい。私とトットは冒険者をしていた時の戦友ってだけだから!」
ウインクをしながら棚に置いてある写真を指さす。
そこには――
二人の……
……
二人の……
……
(えっ!?まさか……)
イケメンエルフが肩を組んで立っていた。
「おと……」
すごいスピードで近づいてくると、私の唇を指で塞ぐ。
「ふふ?私はマチルダっていうの。よろしくね?」
すごい圧が、頭の上からぐいっとのしかかってきた。
これは絶対男の人って聞いてはいけないやつだ。
私は言いかけた言葉をぐっと飲み込むと、きゅるんとした瞳でマチルダを見上げた。
「わたち、まりかっていうにょよ?よりょちくね……まちりゅだしゃ……」
「あら、わかってるじゃなーい。よろしくねぇー。まりかちゃーん。」
すりすりと頬擦りしてくるマチルダに、私は何も言うことができなかった。
(ジョリジョリして痛い……)
「おい、マチルダ。その辺にしておいてやれ。まりかが潰れる。」
トットールは呆れたようにため息を吐くと、マチルダは名残惜しそうな顔をしながら離れた。
(く、苦しかった~)
体内に空気を取り入れようと、空気を吸い込んだ。
「はぁ……はぁ……」
(ほんとに……しぬかとおもった……)
涙目になりながら肩で息をしていると、くすくすと笑う声が聞こえてくる。
「ごめんごめん。でも、元気そうで安心したわ。あなた全然起きないんだもの。」
マチルダは悪びれた様子もなくそう言うと、手を振った。
「ほら、こっちにいらっしゃい。ご飯、用意してあるから」
その言葉に、ぴくりと反応する。
(ごはん……)
視線を向ければ、テーブルの上には湯気の立つスープと焼きたてのパンが並んでいた。
さっきまで感じていた違和感も、不安も――
全てその匂いにかき消されていく。
「……おいしそう……」
小さく呟くと、お腹が返事をするようにきゅるるると鳴った。
「ふふ、正直でよろしい。さぁ、温かいうちに食べなさい?」
マチルダはそれだけ言うと、厨房の方へと戻っていく。
トットールはパンをいくつかお皿に乗せると、私の前に置いた。
「ほら、冷める前に食べろ」
私は差し出されたパンを、そっと手に取ると、ぱくりと口の中に入れる。
ほんのりと温かくて、柔らかい。
「……おいちい……」
じんわりと、身体の奥に何かが戻ってくるような感覚に思わず、頬が緩んだ。
空っぽだった身体に、ゆっくりと力が戻っていく。
(……生きてる……)
そう実感しながら、私は夢中でパンを頬張った。




