お腹ぺこぺこなのに目の前のゼリーが食べられません……
「どうちよ~……おなかすいたにょに、かえれにゃい……」
「ふっ……スキルが使えないと言うよりは腹の方が大事か」
「あたりまえにょ。」
何を当たり前なことを聞いてくるのだと首を傾げれば、またも盛大に腹の虫が鳴った。
ぐぅぅ~
「ふっ。お前の腹の虫はうるさくて構わんな。」
「うるしゃ!!」
そんなの言われなくても自分が一番わかっている。
(止められるものなら止めたいわよ)
それにしても不思議だ。
最近は昼ごはんを抜くことが多かったから体が慣れてきていたはず。
(子供だからなのかな……それとも違う理由が……?)
今考えても仕方がないか……。
ぐぅぅ~
鳴き止まないお腹を擦る。
「くくっ……それよりも先に進んだ方が良いのではないか?先に進めば、木の実などがあるかもしれぬ。」
「そうだにぇ……」
白夜に言い返す気力の無くなった私は、ぴょんと岩から飛び降りた。
「あぁ。それと、スライムがいた場所になにか落ちている。あれは拾っておいたほうがいいんじゃないか?」
焦げ付いた地面の先を見ると、スライムと同じ色のぷるりとした半透明の塊が落ちていた。
「こりぇ……じぇりーみたい。」
自然と涎が出てくる。
「食べれりゅ……」
「やめておけ!!」
私の言葉を遮るように、白夜の声が強く響いた。
声の大きさに思わず肩がびくりと動く。
「魔物の残滓だ。何が起きるか分からぬぞ?」
「でみょ……」
お腹を押さえながら、じっとそれを見つめる。
ぷるり、と揺れる半透明の塊。
色は青色で、まるでソーダ味のようだ。
(どう見ても、おいしそうなんだけど……)
「……ダメだ。」
白夜は小さくため息を吐いた。
「それが何か分からぬ以上、食べるのは禁止だ。」
「だが、軽々しく捨てるものでもない。他に使い道があるのかもしれぬ。拾っておけ……」
拾っておく……
と言われてもどこに収納しておけばいいのだろうか。
「でみょ……」
美味しそうなゼリーが食べれないと聞かされて、言葉の最後が少しずつ小さくなっていく。
「でも……なんだ?」
「どうやってもちゅの……?」
私は首を傾げてじーっと白夜を見つめた。
白夜も同じように、落ちている塊を見る。
「……む。」
少しだけ考えてから一言。
「た、たしかに……どうやって持つのだ……」
目を細めて言い放った。
……
二人の間を風の音が静かに流れていく。
まるで時が止まったみたいだった。
白夜も何度か口を開きかけては、言葉が思い浮かばないのか、口をぱくぱくするだけだった。
それからしばらくして――
私はふるふると首を横に振った。
「は、ぁ……やれやれだじぇ。」
「あ?」
私の言葉に、白夜の声が低くなる。
「もっと、かんがえてかりゃ、はなちて。」
「むっ……」
三歳児の幼女に、このゼリーを持って歩くのは無理がある。
「やっぱり……たべりゅちか……」
「それだけはやめておけ!!」
「でみょ……」
「そ、そうだ!もしかしたら物くらいなら、我が家に送ることが出来るかもしれぬぞ!?」
「た、たちかに……」
何が理由でスキルが使えないのか分からないが、人を送るより……物のほうが楽な気はする。
(スキルだから、なにか消費していたりするのかな……)
私は白夜に言われた通り、試しにがま口を開いた。
そっと、ゼリーを掬い上げる。
ぷるり、と揺れるそれを見て――
一瞬だけ迷う。
(……ほんとに、入るの?)
そのまま、思い切ってがま口の中へ放り込んだ。
……
「にゃ、にゃにもおきにゃい……」
それどころか、ゼリーが逆流して――
ポシェット全体がスライムまみれとなっていた。
「つ、冷たい……」
ゼリーの感触が白夜にも伝わるのか、顔が真っ青になっていく。
(やっぱり無理だったんじゃ)
「ま、まり……すまぬがこれを取ってはくれぬか。冷たくて死にそうだ。ゾワゾワする。」
「ぽしぇっとのくしぇに……しぬとかあるにょ……?」
「う、うるさい……お前もスライムを被って見ればわかる。早く取ってくれー!!」
試しに入れてみろと言ったり、取れと言ったり忙しいやつだ。
私は小さく溜息を吐いた。
「はぁ……しかたにゃいにゃ……」
諦めて、ポシェットを逆さまにしようとしたその時、
パァーっと、がま口部分が光った。
そして、次の瞬間――
ゼリーが、音もなく消えた。
「つ、冷たくない……冷たくないぞ!?」
「き、きえた……?」
私は思わず、がま口を覗き込んだ。
「しぇいこう……ちた?」
目をパチパチと動かすと、もう一度がま口を見た。
「にゃ、にゃい……びゃくにゃ!しぇいこう……にょ!!」
刹那、身体の中からふっと何かが抜けるような感覚が広がった。
(これ……さっきと似てる……)
ぐぅぅ~
「お、おにゃかがしゅいてちからがでにゃい……」
お腹に手を当ててギュッと体を丸める。
本当に……もう限界だ……
ポシェットの中にも入れない。
先に進めばいつかは街に着くかもしれないが……
(いつ着くかもわからないし、着く前に死んじゃうのが目に見えてるわ。)
私は獣道へ目を向けた。
「むりにゃ……」
立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
視界がじわりと滲み、世界がゆっくりと遠ざかっていく。
このまま、ここで――
(案外短い異世界生活だったわね……)
そう思った、その時だった。
「おい、お前まだこんなところにいたのか?」
「あ、あにゃたは……」
「だれ?」
「いや、会ったことあるだろ?」
その声に、記憶の奥がかすかに揺れる。
しかし、思い出せるのはこんなイケメンではなく、ローブを深く被ったお婆さんだけだった。
「わかんにゃい……」
その言葉を最後に、視界が闇に沈んだ。




