えっ!?スキルが使えないってどういうこと!?
「ん……んぅ……」
「おい……まり……大丈夫か?」
「ん……ここは?」
重い身体をゆっくり起こす。
なんとか大軍のスライムを倒した所までは覚えているが、そこから先の記憶が曖昧だった。
「お前……スライムと戦った後倒れたんだぞ!?」
火を吹いていた白夜は黒から白に戻り、心配そうな顔でこちらを見ていた。
(なんだろう……ポシェット相手だからか……シュールだな。)
「おい、聞いてるのか?」
私はふらつく頭のまま、ゆっくりと空を見上げた。
すると――
さっきまで昇り始めたばかりだった太陽が、すでに真上にあった。
「……いみゃ、なんじ?」
「……は?」
白夜の眉がピクリと動いた。
「お前、今倒れたばかりなんだぞ?わかってるのか?」
「わかっちぇる。でも、じかんにょほーがだいじ。」
白夜の気持ちも分からなくは無いが、それどころではない。
異世界の時間の進みが、元いた世界と同じかは分からないが、もし同じだとしたら……
(あれから何時間経ってるのよ……)
ぐるぐるとこれからの事を考えていると、自然と言葉が途切れる。
そんな私に気付いてか、白夜は口を開きかけて、そのまま閉じた。
風の音だけがやけに耳に残った。
しかし、そんな空気を切り裂くように――
ぐぅぅ~
腹の虫が音を鳴らした。
「くくっ……お前の腹は緊張感ないな……」
恥ずかしさからか、頬に熱が集まる。
私は白夜から視線を逸らすと一言呟いた。
「うるしゃ……」
「くくっ……仕方ない……飯にするか。」
白夜は私の仕草を見てひとしきり笑うと、機嫌が戻ったのか、声のトーンが元に戻っていた。
(幼女の腹の虫は最強……)
私は自分のお腹を撫でて感謝の気持ちを伝える。
(お腹よ。ありがとう。)
私は、白夜のポシェットのがま口に手を伸ばし、口を開いた。
「……」
「ありぇ……?」
ガチャガチャ……
「やめろ!壊れる……」
「でみょ……」
何度か、開け閉めを繰り返したが――
繋がらない。
「……なんで?」
もう一度……
そう思って、がま口を開くが何も起きなかった。
「どうちて……?」
白夜に視線を向ければ、白夜も分からないのか……
視線を落とす。
「我もわからぬ。」
ぐぅぅ~
無情にも腹の虫だけが鳴り続けた。
***
「あの子供は無事に町に着いただろうか。」
異世界人召喚の儀式を終えて数日――
俺はセナと一緒に聖女と勇者の所へ足を運んでいた。
「団長、何か言いましたぁ?」
「何でもない。それよりも……あの二人の様子はどうじゃ?」
ローブを深く被り、身体を丸める。
変身魔法を自分に使い、顔を老婆に変えた。
「うわっ!また急にやめてくださいよぉ~。」
セナはこちらを見て肩をビクリと揺らす。
「ふぉっふぉっふぉ……すまないのぉ……」
「はぁ……で?あの聖女と勇者のことでしたっけ……。」
嫌そうな顔をするセナを見て、すぐ想像がつく。
(期待はしていなかったが……やはりか……)
「本当にあの人たち最悪ですよ。性格悪いし……女の方は高い宝石ばかりねだりやがりますし、男の方は勇者という肩書きをいいことに、女を侍らせて好き勝手しています。」
やれやれと首を振るセナ。
「異世界人はあんなのばかりなんですかねぇぇ~」
「でも、あの二人が聖女と勇者で間違いないのじゃろ?」
「はい……なんて言ったって……異世界人ですからねぇ~」
俺はこの言葉が妙に引っかかった。
異世界人が全て聖女と勇者でいいのかと……
(聖女と勇者なら、魔族の一体でも倒して欲しいものだがな。)
魔災は既に始まっている。
こんな所で油を売っている時間は無いはずだ。
コツン、コツン
杖をつきながら二人のいる部屋へと向かっていると、突然――
ガシャァァァーン
大きな音が廊下まで鳴り響いた。
「ちょっとぉ~……こんなの着れないわ!私が特別ならもっといいドレス持ってきてよぉぉ~!」
「し、しかし……聖女様は白いドレスと決まって……」
「うるさいわね。私の言うことが聞けないって言うの?こんな所出てってもいいのよ?」
外まで響くその声に、俺は静かに息を吐いた。
(出ていった所で行く所など無いはずだがな。)
聖女や勇者を欲しているのは人間国であるフランシア国だけだ。
(異世界人召喚という魔法に興味があってここに来てはいるが……)
エルフである俺にとってはさほど重要なことではない。
恐らく他の国もそうだろう。
(フランシア国は他種族を嫌っているやつが多いからな……)
俺は外まで響く金切り声に、わずかに眉を寄せた。
(力を持たぬ者ほど、伝承にしがみつく……か)
「団長……入らないのですかぁ?」
セナは部屋の中の様子が気にならないのか、ノックもせずにドアノブに手をかける。
「あぁ……そうじゃの。」
(そろそろ、ここを離れる頃合いだな。)
それに、あの時置いてきた子供のことも気になる。
あの子供にはあの二人とは何か違うものを感じた。
魔力の質か……それ以外にも何かを持っているような――
(よし……ここを離れたら次はあの子を研究対象にしよう。)
俺は最後の仕事として、二人のいる部屋へと入った。
「聖女様、勇者様。もう少し気を沈めていただけないでしょうか。」
「「はぁ?」」
部屋に入り二人に声をかけると、聖女とはかけ離れた顔でこちらを睨んだ。
「おい、ばばぁ。俺に指図するとはいい度胸じゃねえか。俺がいないとこの国は終わりなんだろ?だったらこれの言うことだけ聞けばいいんだよ。早くエルフの姉ちゃん呼んでこいよ!」
「エルフですかのぉ……」
勇者から出てきた“エルフ”と言う言葉に思わず声が低くなる。
(危ない……普段の声が出るところだった。)
それにしてもなぜここでエルフが出てきた……
エルフは人間を嫌っているものが多いから、この国には近づかないはずだ。
「そうだ。ここの王様がエルフを使わせてやるからここにいてくれって泣いて縋ってきたんだよ。」
……
思わず杖を持つ手に、力がこもる。
(あの国王……何かあるのは知っていたが……愚かだな)
「私にはぁ、ドレスと宝石と王子様ね?この国の王子はイケメンじゃないからいやー。りり、イケメンな彼氏が欲しいもーん!」
勇者も勇者だが、聖女も聖女だ。
だが、得られた情報もあった。
(早くこの国を離れた方がいいな。)
「そうですか。国王には話を通しておきましょう。」
一言だけ二人に告げると、俺は静かに踵を返した。




