素材集めは、簡単ではないようです。
「んンォん”~ ォォンオ”!!やるしかにゃーい!!」
「ど、どうした。さっきから……まるでゴリラが叫んでるみたいだぞ?」
「びゃくにゃ、うるしゃい!おにゃにょこにごりりゃはしちゅれーよ!」
私が、両手を大きくあげて雄叫びをすると、白夜がのっそりと立ち上がった。
「む……。そ、それは失礼した。……で?何をやるんだ?」
白夜は私の言葉に首を傾げた。
そして、その後を追うように、私も首を傾げる。
正直言って問題は山積みだ。
いや、むしろ問題以外何もない。
お金稼ぎに、素材集め……
(ローンが増えるのは……なんだか嫌な予感がするのよね。)
幼女の勘がそう告げていた。
(お金を稼ぐにしても、この犬小屋じゃ……ねぇ……)
後ろに佇む小さな犬小屋を見て小さくため息を吐いた。
まずは拠点を作らなければ何も始まらない。
「びゃくにゃ。しょじゃいあちゅめにいくにょ!」
「ふむ、素材集めか。それは楽しそうだな。」
素材集めと聞いて狐の狩りの血が騒ぐのか、頬を赤らめながら嬉しそうに尻尾を振る。
「で、どこに行く?あの山か?それともあっちの山か。」
今いる場所からぐるりと見渡す白夜。
しかし――
次の私の一言で動きを止めた。
「えっ?モチュすライミュいりゅ?」
噛まないようにゆっくり話すが、そう上手くはいかない。
「モシュシュ……?なんだそれは……?」
(いや、全然あってねぇーよ!)
どうやら白夜にもモススライムという発音は難しいらしい。
白夜の返しにため息をつくと、先ほどシステムに言われた素材を地面に書いた。
――――――――――
・モススライムの粘液 0 / 5
・ホーンラビットの毛皮 0 / 3
・スプラウトの木片 0 / 10
――――――――――
(面倒だし……システムも桜と呼んじゃおうかな……)
「こりぇ。しゃくらにいわりぇたしょじゃい。」
木の枝でコンコン地面を叩く。
白夜は私の後ろから地面を覗き込んだ。
「……ふむ……初めて聞く名前ばかりだな。」
(やっぱり……と、いう事は……)
「ここには、いにゃい?」
「うむ。外の世界だろうな。」
この土地から出て、異世界に戻らなくてはならないようだ。
できれば、いかなくてすむならこのまま何とかしたかったが……
そう上手くはいかないらしい。
パチーン!
私は気合いを入れるために頬を叩くと、もう一度手を大きく広げて叫んだ。
「んンォん”~ ォォンオ”!!やるしかにゃーい!!」
まるでその声を応援するかのように桜の木がユラユラと揺れた。
不意に――
足元の地面が、淡く光った。
「……え?」
桜の根元から、じわじわと光が広がっていく。
気づいたときには、私と白夜の足元を円のように囲んでいた。
「おい、これは……」
「ま、ましゃか……」
白夜が警戒するように身構えた直後――
視界がぐにゃりと歪んだ。
風が吹いたわけでもないのに、景色が揺れて、足場の感覚がフッとなくなった。
そして、高いところに心臓を置いてきたような感覚が、身体全体を覆う。
(ジェットコースター苦手なんだよね。)
目をぎゅっと瞑ると、
――すとん。
「……?」
どこかに着地したのがわかる。
私は恐る恐る目を開けた。
「ここは……」
先ほどまで目の前に立っていたはずの桜はなく、あったのは二日前に一夜を過ごした岩の目の前だった。
「どうやら戻ってきたようだぞ。」
後ろにいたはずの白夜の姿はない。
「びゃくにゃ……?」
「ここだ、ここ!」
すぐ近くから、やけに高い声が響いた。
「えっ……?」
視線を下げると――
そこには、小さなポシェットが自分の存在に気づかせようとじたばた動いていた。
「……こわ。」
「な、なんだその言い方は!?せっかく着いてきてやったのに失礼だろうが!!」
「ご、ごめちゃ。」
「む……全く心がこもってないぞ!!」
じたばたと揺れるポシェットを肩からかけると、私は前に出会ったエルフのお兄さんが言っていたことを思い出した。
(そういえば……森を抜けたら町があるって言ってたっけ……)
町に行けば金貨の価値や素材の集め方も分かるかもしれない。
(魔物?のこともわかるかも……)
「しゅっぱちゅしよ!」
「おい、無視するな!!」
ポシェットになった白夜が何か騒いでいたが、先に進まなければならない私は、聞こえないふりをしてトテトテと歩き始めた。
直後――
ぷにっ。
「……?」
足元に、柔らかい感触が伝わった。
ぷるるん。ぷるるん。
視線を落とすと――
そこには、ゼリーのような緑色の何かが、私の足元で震えていた。
「きゃぁぁぁ~!!」
「な、なんだこれは……!?」
私の叫び声に反応するように、緑色のゼリーが後ずさった。
「こ、こりぇって……げーむでみちゃことありゅ。」
「ゲーム?とは、箱の中のものか。」
箱の中って………
(言い方が古いな)
目の前に現れた緑のゼリーに驚きを隠せない私だが、どうやら白夜の言葉に突っ込む余裕はあるようだ。
意外に神経は図太かったらしい。
「うみゅ……たちか……しゅ、すりゃいみゅだ!」
正解だと言うように、ぷるん、と震えた。
そして――
喜びを表すかのようにボールのようにボヨンボヨンとはね始める。
刹那、勢いよく私に向かって跳んできた。
ビュン、ビュン。
「びゃぁぁああああ、くりゅぅぅぅう~!」
どこに隠れていたのか――
一体だったはずのスライムが、気づけば二体、三体と増えている。
「え……?」
気づいたときには、十体以上に膨れ上がっていた。
「ど、どゆこちょぉぉ……」
ギリギリのところでなんとか避けると──
スライムがぶつかった草花が、
シュウ、と音を立てて溶け始める。
「にゃぁぁぁ、と、と、とけてりゅぅぅぅ!!」
(さっきぶつかった時は溶けてなかったのに……)
しかし、スライムは考える隙を与えてはくれなかった。
「おい、まり!来るぞ!!」
《分かってる!!》
頭の中で、咄嗟に白夜の言葉に反応する。
そういえば白夜とは念話で話せるようになったんだった。
(色々起きすぎて忘れてた)
私はどんどん増えていくスライムを何とかしようと、近くにあったものをかき集めた。
石、草、枝……
「お前、もしかしてそれで戦う気か?箱の中の奴らは炎出したり、水を出したりしていたぞ?」
「やりかたわからにゃい。」
それに魔法が使えるかも分からない。
(システムを見たら魔力はあるようだけど……)
私はかき集めた石をスライムに向けて投げつけた。
《ふふ……これでも昔は運動神経抜群だったんだから》
すると――
コロコロコロ……ボヨン
投げたはずの石はコロコロと地面を転がって、スライムにぶつかった。
「くっ……ださっ」
《う、うるさいわね!ポシェットのあんたに言われたくないんだけど!》
スライムは、何事もなかったかのようにぷるりと震える。
《って……全然効いてないじゃない。》
それどころか、石はそのままスライムの中に吸い込まれて、溶けていく。
そして、全て溶け終わると……
ボヨンッ!
再び、こちらに跳ねてきた。
「びゃぁぁぁああああ!!」
「だから言っただろう。物理攻撃は無理だと……」
白夜の言葉は、途中で途切れた。
スライムの一体が、地面に落ちると同時に、
ジュゥゥゥ……
草が、溶ける。
「……は?」
さっきより、明らかに強い。
さっきは、ただのゼリーだったのに。
粘り気のある液体へと姿が変わっていた。
(なんで……!?)
「まり!避けろ!!」
《わかってる!!》
考えるより先に、体が動いた。
転がるようにしてその場を離れると――
直後、さっきまで立っていた場所が、じわりと、溶けていく。
《当たったら終わりじゃん……これ》
絶望的な状況に背筋が凍った。
《スライムってもっと弱いんじゃないの?》
ゲームをしていれば初回に出てくる雑魚だ。
それなのに、今目の前にいるスライムは……強敵にしか見えない。
「いや、お前が弱すぎるだけだろう。」
白夜の容赦ない突っ込みに、私は何も言い返すことができなかった。
そして――
「……増えてない?」
視界の端で、また一体。
さらに一体。
気づけば、囲まれていた。
「どうしりょっていうにょぉぉぉお~!?!?」
私の叫び声を合図にしたかのように、スライムたちが一斉に跳ねた。




