システムが無情すぎて詰みました。
「起きろ!おい、茉莉花。朝だぞ!」
頭上から、耳に残るようなバリトンボイスが降ってくる。
(すごいいい声ね……いい夢見られそう……)
フサフサと揺れる毛深い何かを抱きしめると、私はそのままもう一度夢の中へと落ちていった――
……なんてことはなく。
バシッ!
「いちゃっ!!」
大きな肉球が、否応なしに茉莉花のおでこに直撃した。
「全く……もう朝だと言っているんだ。別にお前がそのままでいいなら寝かしておいてやるが……」
白夜は一度、黙って犬小屋へと視線を向けた。
「これからも、その犬小屋に住むつもりか?」
その言葉を聞いてハッとする。
(……すっかり忘れてたわ……)
「それはいや!」
ゴンッ!!
私は慌てて飛び起きると、勢いよく天井に頭をぶつけた。
「うぅ……いたい……」
見た目に精神年齢が引っ張られているのか、目から水が流れてくる。
「うっ……うっ……」
そして――
耐えきれなくなって、ついに涙があふれた。
「うわぁぁぁ~ん……いちゃいよぉぉぉ~。」
「こ、こら泣くな。わかったから、泣きやめ。」
急に泣き出した幼女を見て、白夜は露骨に狼狽えた。
「あぁ……もう。我は子供のあやし方など知らぬぞ。どうしたらいいのだ。」
が、一度決壊した涙はなかなか止まることを知らなかった。
私自身、何とか止めようと息を止めてみたり、目をつぶってみたりしたが、なかなか止まらず……
ようやく涙が落ち着いたときには、お日様が地平線から顔を出していた。
「落ち着いたか……。」
「うっ、うにゅ……」
「まったく。子供はすぐ泣く。だから嫌いなのだ。」
「うっ……びゃくにゃ、まりのこときらいにゃにょ?」
せっかく止まった涙が、白夜の一言を皮切りに目に溜まっていく。
「はぁ?そんなこと言ってないだろ。あぁ~もう泣くな。いい歳なんだから我慢しろ。」
ふさふさの尻尾を巻き付けると、あやすようにリズムを刻んだ。
しかし……
「いいとしはよけい……」
私だって好きでしているわけではないのだ。
出来れば泣きたくないし、早く話を進めたい。
「わかった。それで?今日はどうするんだ?」
白夜は前足をぐいっと伸ばすと、私の顔をゴシゴシと拭った。
「うぐっ……いにゅごやだっちゃく。」
「それを言うなら、犬小屋脱却だ。」
「……」
私はきょとんと目を瞬かせた。
(犬小屋って言ったんだけど……)
鼻をズズッとすすりながら、白夜は体を伸ばしてから立ち上がる。
(手伝ってくれるのかな。)
「それで?やり方はわかってるのか?」
どうやら、そのつもりらしい。
私は“やり方”と聞いて、昨日の夜のことを思い出した。
「そじゃいあちゅめ……」
桜の木は、素材集めをするように言っていた。
(ゲームとかだと、作りたい物によって使う素材が違うよね)
「ふむ。で?何を集めるのだ?」
白夜の声に、私はトテトテと桜へ近づいた。
そして、桜の木に手をついた、その瞬間――
ブォン。
パソコンが起動するような音が、頭の中に響いた。
《おはようございます。ご要件をどうぞ。》
「おうちをおおきくちたい。」
まずは何を始めるにも拠点が必要だ。
そのためにも犬小屋を大きくしなくてはならない。
《かしこまりました。本日納品していただく素材はこちらです。》
――――――――――
《施設強化:犬小屋 → 小屋》
必要素材
・モススライムの粘液 0 / 5
・ホーンラビットの毛皮 0 / 3
・スプラウトの木片 0 / 10
必要魔力:不足
――――――――――
「……」
ボードに記載された素材を見て、私は固まった。
それもそのはずだ。
書かれていたのは――
元の世界では見たことのない素材ばかりなのだから……
(いや、ゲームかよ! ってか、魔力って何!?)
思わず心の中で突っ込む。
しかし、システムはそんなことなど気にもせず話を進めた。
《もう一つお伝えさせていただきます。ローンですが、毎日必ず返済が必要です。》
「……えっ!?」
《サイコロを振り、出た目の合計枚数の金貨を返済していただきます。》
「さいこりょ?」
私の言葉に反応するように、手のひらにサイコロがふたつ現れた。
「いっこじゃにゃい……!?」
《はい。二つの目を合計した数となります。》
「……」
いや、まてまてまて……
サイコロの目は六までしかない、普通のサイコロだ。
だが――
足すということは。
「さいだいで、にゅうに……」
《ふっ……そういうことになりますね。》
私が「十二」と言えなかったことを鼻で笑うと、システムはさらに残酷なことを言い放った。
《もし支払いができなかった場合、ローンは加算されます。》
「えっ……えぇぇぇえええ!?」
「ど、どうした……?」
思ったよりも大きな声が出ていたのか、白夜は私の声に肩をビクリと揺らした。
「にゃ、にゃんでもにゃ……くはにゃい……」
白夜にはシステムの声が聞こえていないようで、私の反応を見て首を傾げるだけだ。
《それではサイコロを振ってください。》
しかし――
システムは、私の気持ちなど気にもとめず。
淡々とサイコロを振るよう指示を出した。
ローン返済すればいいだけと、甘く見ていた。
けれど――
この世界は、そんなに優しくできていなかった。
《早くサイコロを振ってください。振らなければペナルティとして、金貨十二枚分のローンを追加させていただきます。》
頭の中に、システムの声が無機質に響く。
私は慌てて、手のひらに乗っていたサイコロを振った。
コロコロと転がり――
止まる。
「……」
目に入った数字は――
あまりにも無情で。
「にゅうに……」
《本日のローン返済額は、金貨十二枚です。》
「そんにゃ……ばにゃにゃぁぁぁ~」
幼女の声が、響き渡った。
(金貨十二枚って……)
そもそも金貨がどうやって手に入るのかすら知らないから、そこからだというのに……
(絶対無理だわ)




