スキル判明!?
「スキルな……と、言われてもゲームとやらを見たことがあるだけで、なんとなくそう思っただけなんだ。」
「……」
なるほど……
《さっきから、スキルスキルと言うから何か知ってるのかと思えば知らないって事ね。》
「な……」
「じじちゅでしょ?」
白夜は言い返すことができないのか口を噤んだ。
「はぁ……」
だが、ゲームと聞けばなんとなくわかる。
(さっきの半透明なボード……)
「さっきのボードはいわゆるステータス表示画面ではないのか?」
どうやら白夜も同じことを思っていたようだ。
(こういうときは……大体あれよね。)
私は手を前に出し、コホンと小さく咳払いした。
(この歳でこんなことやる事になるなんてね。)
恥ずかしさからか、頬にじわりと熱が集まる。
目を瞑って小さく息を吐くと、意を決して――
お決まりの一言を口に出した。
「しゅてーたしゅおーぴゅん」
「……」
「…………」
しかし――
何も起きる気配がない。
(えっ!?違うの!?)
「……ん?何も起きておらんぞ。」
《言われなくてもわかってるってば!!》
「お、落ち着け……」
「おちちゅいてるってば……」
いい大人が口に出すだけでも恥ずかしいというのに……まさか不発だなんて……
(穴があったら入りたい……)
近くにあった桜の木に手をついて顔を隠すと、
ブォン――
パソコンが起動するような音が、突然頭の中に響いた。
(……えっ……)
《伏見茉莉花。三十三歳。この土地の契約者として認証しました。》
「にゃ、にゃにこれ……!?」
「む?我には聞こえないが、どうかしたか?」
どうやら白夜には聞こえていないらしい。
しかし、私の頭の中には確かに無機質な音声が鳴り響いている。
《ご要件をお伺いします。》
(よ、要件って……。カスタマーセンター!?)
私はおそるおそる桜に向かって話しかけた。
「このばちょにちゅいておちえて。」
《こちらの場所は、伏見様が所有している土地です。残りのローンは三十年。金額は五千万円です。》
(そこは、はっきり言うのね。)
ローンは白夜に言われたから知っている。
だが、問題は他にもある。
ローンの返済方法に、私の持っているスキルについて……
聞きたいことは山ほどある。
(生活基盤を整えないと話にならないし。)
「じゃ、じゃあ、ろーんはどーちたらかえちぇる?それにまりのしゅきるにちゅいておちえて?」
《ローンは基本的にお金で返済してください。ただし素材の納品によって施設の解放も可能です。》
《それでは次に、あなたのスキルについて説明します。あなたのスキルは――“我が家”です。》
「わがや?」
《はい。素材を納品して下されば、土地内をカスタマイズすることが可能です。》
まるでゲームのチュートリアルのような説明に、思わず口が引きつった。
「へ、へぇ~……」
《信じておりませんね。では……試しに、その辺に落ちている木の枝を五十本納品してください。》
私の返答が気に食わなかったのか、システムの声が少し低くなった。
「は、はい……」
私は桜から一度手を離すと、白夜に手伝ってもらい五十本の木の枝を集めて桜の木に手を突く。
すると、
ブォン――
システムが起動した。
(どうやら桜に手を突くことがシステム起動の合図のようね)
《木の枝を集め終わったようですね。ステータスボードに投入口を出しますので、納品を完了してください。》
(えっ!?手作業なの!?)
《早くしてください。》
有無を言わさぬ返答に、一本ずつ木の枝を納品していく。
一本……
二本……
三本……
《遅いですね。もう少しスピードアップできませんか?》
幼児の身体では、一度に持てる本数に限りがある。
「こりぇでもがんばってりゅかりゃまっちぇちぇ!」
手を止めずにシステムに言い返せば、システムは「ハァ……」とため息を吐いた。
(いや、ため息を吐きたいのはこっちだから。)
それから頑張ること十五分――
「おわっちゃぁぁ~」
《やっと終わりましたか。日が暮れるかと思いましたよ。では、早速……》
(一言余計ね……)
白夜といい、システムといい……皮肉しか言えないのだろうか。
納品の確認を終えると、ボードの画面が切り替わった。
《こちらから好きなものが選べます。》
そこにあるのは小さな小屋の写真だった。
試しにそれをポチッと押してみる。
《こちらでよろしいですか?》
“はい”と“いいえ”の選択肢が出てきたので、“はい”を押した。
《かしこまりました。五分お待ちください。》
(えっ!?五分!?)
すると――
小さな人型の何かが現れ、木の枝をものすごいスピードで組み上げていく。
《完成しました。小屋です。》
「……」
白夜も見ていたのか目を丸くする。
「……いや、これ、いにゅごやにゃ!」
そこに立っていたのは小屋と言うには言い難い……
犬小屋が建っていた。
「これは、小屋というより……犬小屋なんじゃないか?昔ここに住んでいた者が飼っていた犬の小屋によく似ているぞ?」
「いわれにゃくてもわかってりゅぅぅ~」
私は狐の尻尾を勢いよく掴んだ。
「う、そ、それはやめてくれ。力が抜ける……」
《ふっ。その狐は飼い主そっくりですね。》
まるで白夜を知っているような言いぶりだが、白夜には聞こえていないらしい。
《これで、わかっていただけましたね。このようにして好きなように改築することが可能です。》
「にゃるほど……」
(あなたは犬小屋からスタートがお似合いよ?と言いたいのね。)
私は桜の木を睨みつけると、小さな手をぎゅっと握りしめた。
「やってやりょうじゃにゃい。いぬごやからしゅたーと!じょうとうだわ!!」
「……」
《ふっ。噛み噛みで決まってませんけどね。》
「にゃ、にゃにをぉぉぉ!!」
《まぁ、頑張ってください。それでは失礼いたします。》
その言葉を最後に、頭の中の気配はふっと消えた。
残されたのは――
桜の木と、白夜。
そして目の前に建つ犬小屋。
「……」
私はゆっくりとその小屋を見上げた。
(ふっ……犬小屋だってないよりマシよ。)
お金の稼ぎ方。素材の集め方……
分からない事ばかりだけど、時間はたんまりあるのだ。
(犬小屋から成り上がってみせるんだから!)
こうして――
伏見茉莉花。
三十三歳、幼女。
持っているのは五千万円の三十年ローン。
そして、ポンコツ聖獣の白夜。
スキルは“我が家”のみ。
私の異世界生活は、
――犬小屋から始まった。




