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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

あなたの婚約破棄の先に オタク女子編

作者: 忘れな草
掲載日:2026/03/08

よくある婚約破棄ざまあのコメディーを書いてみました。 

「白亜の学園ホールはシャンデリアの光に輝き、卒業パーティーの熱気で満ちていた。軽やかなワルツが流れる中、私はリナ・フォン・アシュビー――公爵令嬢にして腐女子である。金色の巻き毛をドレスと同じ薄紫のリボンでまとめ、口元にはいつも通りの微笑を貼り付けている。


「リナよ、聞け!」


唐突に響いた声に会場が静まり返る。中央階段から降りてきたのは私の婚約者、第一王子レディン・エル=ローディアだ。その背後には四人の親衛隊――通称“ファイブG”と呼ばれる美男子たちが控え、さらに彼らに囲まれるように立つのは、淡いピンクのドレスを纏った男爵令嬢アンジェリカだった。


「今日ここに集まった諸君に告げる! 俺は偽りの愛に縛られることなく真実の愛を選んだ!」レディンは高らかに宣言し、アンジェリカの肩を抱き寄せた。「リナ、お前との婚約を破棄する!」


拍手の代わりに生徒たちはざわめき、視線が一斉に私へ向いた。胸の奥で何かが弾ける感覚。これが乙女ゲーム《ローディア物語》の“婚約破棄イベント”だと頭の片隅で冷静に理解している自分が可笑しかった。


「承知しました」私はお辞儀一つで応じる。「……ですが陛下の御裁可なく一方的に契約を解消されると、当家としてはそれなりの対処が必要となりますが?」


「黙れ! お前の冷徹さこそが我が国に仇なす元凶だ!」レディンが怒鳴る。「証拠はある! そちらの令嬢たちはどうだ!」


彼が指差した先には、同じく“婚約破棄”を宣告されている五人の令嬢が並んでいた。宰相家のクラウディア、騎士団長家のセシリア、辺境伯家のエレノア、宮廷魔術師家のフィオナ。――私の親友たち。


「我々は今日、自由を選びます」クラウディアが凛とした声で切り出した。「殿下のお言葉を聞く限り、国の未来に不安しかありません。ならば我々は自らの道を行こうではありませんか」


私は微笑みながら頷いた。予定調和の幕切れ。だが“腐女子”としての私が脳裏で別の筋書きを紡ぎ始める。



半年後――。


私たち5人は祖国を追放され、隣国イグニス王国で小さな家を借りていた。元公爵令嬢といえども、貴族の財産はすべて凍結され、残ったのはわずかな身の回り品だけ。しかし私は、ある決意を胸に抱いていた。


「リナ、本当に出版社を?」


クラウディアが訝しげに尋ねる。セシリアは剣を研ぎながら、「戦うほうが性に合う」と苦笑していた。それでも全員が賛成してくれた理由は明白だ――怒りを笑いに変える戦法こそ最強だから。


「題材はファイブGです」私は紙束を叩いた。「もちろん現実じゃなくて、“二次創作”という名の寓話ですよ」


最初の作品『白薔薇と青竜』は、レディンとランスの激甘ラブラインを描いたBL。翌月には『紅蓮騎士の誘惑』でエリウッドとバスクの肉体派カップリング、そして『魔法使いの秘蜜』でハンスを主人公にした謎多き関係……。


「すごい反響!」「買い占め騒動だって!」「絵師まで見つかったぞ!」日々新たな情報が舞い込み、粗末な印刷工房は活気に溢れた。


隣国イグニス国王も私たちの才能を見過ごさなかった。「異端審問どころか優遇政策を」という触れ込みで資金援助を受け、事業は瞬く間に巨大化していく。


祖国ローディアでは、ファイブGたちは王都を追われていた。アンジェリカは妊娠し修道院送りになり、王子レディンは偽りの名誉を求め隣国で傭兵部隊を組織。しかし王族特有の無知が災いし、荒くれ者に嘲笑われてばかり。


「噂が広まってきていますよ」情報屋フィオナが笑いをこらえるように報告する。「あの人たち、今度は辺境領主の娘に横恋慕して泥棒扱いになったとか」


「もう本のネタにしなくていいほど滑稽よね」エレノアが呆れて呟いた。


最終的に行き場を失ったファイブGは、野盗まがいの犯罪行為で捕獲されることになる。裁判の場面を新聞記者セシリアが詳細に報じると、その醜態は即座にベストセラーへ。


私たちの出版帝国は、“彼らの人生そのものが最高の娯楽”だと悟っていた。



数年後――。


イグニス王国の中心部には、かつてない文化革命が訪れていた。“腐女子カルチャー”の拠点となった街は芸術と商業で栄華を極め、リナは若い才人たちに囲まれて充実した毎日を送っている。


王宮からの使者が正式に招かれ、「友好条約締結に際し文化交流大使として帰国願いたい」と申し入れてきた時、私たちは顔を見合わせて笑った。


「行くべき?」クラウディアが冗談半分に言う。


「いやいや」私は首を振って、積み上がった原稿を見せつけた。「まだ書きかけの連載があるんですもの」


窓の外には夕暮れ。遠い国のざわめきが微かに聞こえる気がしたけれど、今は目の前の紙とペンこそが私の真実。


そして何よりも大切に思うことは……腐女子魂の赴くままに、“愛とは何か”を問い続けることだ。

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― 新着の感想 ―
これも「ペンは剣よりも強し」なのかな(笑) ファイブG……CMに出てくる桃ちゃんのお爺ちゃんズの方を思い出します♪
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