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宝石商のあれこれ  作者: 烏の人
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爆発騒ぎ

「爆発…魔法使いがやらかしたか?」


 そんなことをぼやくアラン。魔法。それはこの世界に存在する、5番目の力。それを引き出すには特殊な鉱石を必須とし、中には固有の魔法を刻み込まれ産まれてくる一族もいると言う。その場合はその鉱石…魔石を必要としない。

 この魔法、人によって扱える幅は才能となる。故にこのように爆発することも希にあるのだ。


 あるのだが、ここしばらくはそんな事故もめっきりなかった。珍しいと思いつつ、翡翠の耳飾りをしまい仕事の準備に移った。


 アランは休みの日なにもしていないと言うわけではない。原石からのカット。そして加工、根付けを行っている。本人としては趣味なので苦ではないのだが、事実上これが仕事だ。そんなおり、店の扉が叩かれる。


「おい、あんた!服屋で火事だ!!水をもって来てくれないか!!」


「火事だと…!?」


 そこまでの大事とは予想してなかった。確かに音は鈍いが、魔法の暴発なら火事まではいかない。それに服屋と言うことはつまり、本当に事故と言う話になる。

 火事なら店に被害が出ては困る。大きめの水瓶を持ち、戸締まりをしてからアランは火事の現場に向かったのだった。


 ─────思いの外、火の勢いは弱かった。アランが戻ったのは30分ほど経ってのことだった。鍵を開けて中に入る。そうしてまた仕事の準備に移ろうとしたときだった。


「…?」


 空気が頬を撫でた。奥間に向かう。変に嫌な空気だった。


「窓が…開いてる…。」


 急いで陳列してある宝石に目をやる。配置は変わっていない。消えているものもない。ならばと、奥間の原石か地金を確認する。家を出たときのまま。引き出しも確認したが荒らされた形跡はない。


「気のせいだったか?いや、だけど窓を開けたまま出るなんてこと…いいや、今度から気を付けよう。」


 不思議に思いながらも、その日は仕事をこなして床につく。

 さて、ことが動いたのは翌日のことだ。今日は平常どおり開店。そして朝一番に来店したのは見覚えのあるメイドだった。


「おや、マリさんじゃないですか。今日はどうされました?」


「どうされました?じゃないですよ。昨日の、大丈夫でした?」


「昨日…と、言うとあの火事のことですか?」


「それもありますけど、空き巣の方です。」


「空き巣…そんなものがあったんです?」


「なにも被害がなかったようであればよかったです。どうにも近くのアクセサリー店ばかり狙われたようで…店はかなり荒らされていたようです。」


「荒らされていた…。」


 そこでふと開いていた窓のことを思い出す。


「もしかしたらうちも…。」


「え!?被害は!」


「無かったですよ。ただ、火事の消火にあたって帰ってきたら窓が開いていて…自分の不注意かとも思ったのですが、そうではなさそうですね。」


「被害は無し…ですか。」


「しかしまあ、その様子だと結構な数の被害が出たのでは?」


「ええ…金額にして金貨500枚は下らないだろうと。」


「…それはそれは。」


「まさか、アランさんが…とかないですよね?」


「ありませんよ。誓って、好きなものに嘘はつけません。それに証拠もあります。私は消火活動に当たってましたから。」


「そうですよね…そもそも、アランさんが目を付けそうな珍しいものも無いですし…。」


「…あれ、なんでまだ私が疑われてるの?」


「そりゃあなんと言うか…その糸目がどうも…。」


「悪かったですね。胡散臭くて。まあ…雑談はそのくらいにしておきましょう。証拠品などは?」


「いいえ…見つかっておりません。それどころか宝石の行方さえも…。」


「状況から見て計画的な犯行で間違い無いでしょう…。」


「やはりそう思われますよね。偶然にしては出来すぎている。」


「ええ、そもそも爆発音と言うのもおかしな話でして…まるでこちらを見ろと言っているようなものじゃないですか。」


「計画的犯行…心当たりはありますか?例えば、つての宝石商とか。」


 そう聞くと、アランは首を横に振る。


「私が仕入れているのは信頼できるところですから。」


「そうですよね…そもそも、なんでこんなにいい石があってアランさんのところから捕らなかったのかも謎ですし。」


 マリがそう言うとアランは右手を顎に当て考える。


「例えば、探し物があった…とか?」


「探し物…ですか?」


「マリさん、盗まれた宝石に特徴とかあったりしますか?」


「盗まれた宝石の特徴…特に目立った特徴はないですね。暖色系の色の石ってことくらいでしょうか?」


「暖色系…イエローからオレンジの間と言う解釈でいいですか?」


「ええ。なにかわかるんですか?」


「まあ、なんとなくですけど。この手で同系統の石が多く盗まれるのなら目的は恐らく、偽造ではないでしょうか?」


「偽造…?」


「はい。言ってしまえば、石なんて素人目には判別なんて難しいですし、中にはプロでも見分けが困難なものがあります。ですので、偽造が蔓延る。」


「なるほど…ですが、わざわざ本物の宝石を盗む理由は…?」


「万が一、偽物とバレても最低限誤魔化しが効くからではないでしょうか?それに、宝石ならばそこに付随して最低限の価値が残る。言わば保険ですね。間違えましたって言うための。」


「保険って…それじゃまるで…。」


「ええ、誰かに献上しても大丈夫なようにしている…みたいですよね。」


「ま、まさかローズ様が頼み込んでとか…。」


「それはないんじゃないでしょうか。だってあの人の我が儘はまずマリさんに届きますから。」


「…確かに…黄色の宝石なんて頼まれてはいませんし…。」


「今はなにも確定的なことは言えません。状況を整理してから推察、そして証拠集めと動くのがよいかと。」


「そう…ですね…。」


 マリがまたため息を1つつく。


「面倒事は懲り懲りですもんね…私に出来ることがあれば、手伝いますよ。」


「ありがとうございます。アランさん。」


「聞き込みから始めましょうか…と言っても私は動けないのですが…。」


「…って、私も別に面倒事に足突っ込みたいわけじゃないんですよ!」


「でも、いいんですか?」


「…何がです?」


「犯人の足取りはつかめない。しかも近くには御用達にしている宝石店が…再犯の危険性だって存在しているこの状況。もしもこの件で手柄をあげれば、お給料、増えるかもしれませんよ?」


「うぐ…。」


 確かに、アランの言う通りだ。マリはかなりローズの我が儘を聞いている。その度に死に物狂いで解決してきたのにも関わらず、出世もなく、賃金も上がらないままだ。それならばいっそ自主的に─────。


「─────聞き込み…行ってきます。」


 そう言って、マリはその店を後にするのだった。


 ─────時を同じくして、エドワード・フラッガ公爵邸にて。


「これがそうなのね…。」


 恍惚に、縦に伸びた黄色い色石を愛でる婦人の姿があった。


「はい、マリー様。そちらが、()()()()()にございます。」


「ふふ…あはは!あはははは!!」

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