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宝石商のあれこれ  作者: 烏の人
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マリの受難

 ローズ婦人の言う御用達…本来ならば侯爵婦人御用達と言う箔を付けることが出きる。だが、ローズ婦人のそれは違う。言ってしまえばうち専用にしてこいと言う話である。我が儘な婦人だ。独り占めをしたいのだろう。

 翌日の話である。早速マリは件の宝石店へと向かう。相も変わらず小綺麗な店内。清掃が行き届いているのがよくわかる。見た目は胡散臭いが、あれでもマメなのだろう。

 程なくして、鈴の音を聞いた店主が現れる。


「いらっしゃいませ…って、あなたは昨日の。」


「はい。昨日はどうもお世話になりました。ローズ様、大変喜びになられておりました。ありがとうございます。」


「それはよかったです。」


「それでなんですけど…1つ相談事がございまして…。」


「相談事ですか?」


「はい。先ほど申し上げた通り、大変良い品をいただき大層喜んでおられたのですが…どうにも店主様…アラン様に目を付けたらしく…。」


「侯爵婦人が?それはありがたいですね。」


「それでよろしければ、うち専用の宝石商にならないか…と。」


「専用…ですか。」


「はい。急な申し立てですみません…。」


「さすがにこの商売が出来ないのは困りますね。」


「ですよね…。」


 こんなことになるのはマリもわかっていた。さて、ローズ婦人にどう説明するものかと考えあぐねているとアランが口を開く。


「1度、ローズ婦人と会って話してもよろしいでしょうか?」


「え?」


「私が直接言って話した方がいいでしょう。」


 マリにとってもその方が安全策だ。だけど、仮にもしアランが粗相でもしてしまえば…そう考えると恐ろしい。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。これでも上級貴族とは、何度か会ったことがあるので。」


「そ、そうなのですね…。」


 少し胸を撫で下ろす。


「では、ローズ様にはそうお伝えください。あ、それとローズ様の一番気に入っている石はなんと言うんですか?」


「え?えぇと…確か大きなルビーのブローチをよく愛でていらっしゃいましたね。」


「ルビーですね。承知いたしました。」


 ─────そうして、マリは落葉を後にする。話はとんとん拍子に進み、エルベロッタ邸へ訪問する日も決まった。実に、1週間後の話であった。


「─────アラン様、お迎えに上がりました。」


「わざわざありがとうございます。マリさん。」


「いえいえ、ローズ様から丁重にもてなせ…と、申し付けられておりますから。」


「えぇと…持っていくのはこれと…あ、すみません。少し待っていて下さい。」


 そう言うと、アランは奥へと入り自分の耳を弄っていた。


『耳飾り…?でも、髪で隠れてよく見えない…。』


「お待たせしました。それでは参りましょうか。」


「はい。かしこまりました。」


 落葉からエルベロッタ邸はそう離れてはいない。だが、そこはローズ婦人。馬車を用意させている。それ程までにアランを気に入ったのだろう。たった1度、宝石を売っただけの商人を。


 10分もすればそこはエルベロッタ邸である。さすがに大きい。だが、アランは気圧される様子もない。


『慣れていらっしゃるのだろう…。』


 そうして、アランとローズはいよいよ邂逅する。ローズの部屋には様々な宝石、天然石が綺麗に置かれている。しかし、高価ではあるがアランの目に止まるような石はない。


「─────彼が宝石商、アラン様です。」


 アランは頭を垂れ、膝を付いている。


「貴方がアランね。マリから話は聞いていると思うけれど、うちの専属になる話、飲んでくれるかしら?」


 アランに注目が集まる。


「いいえ、その話はお断りさせていただきたく。」


「な、アラン様…!?」


「まあ焦らないの、マリ。アラン、その理由は?」


「私も宝石商故、石が好きです。自由に珍しい石を見て回りたいと言うのが私の願いですので。」


「ふふ、若いっていいわね。でもいいの?私なら、あなたが一生遊んで暮らせるような生活を保証できるわよ?」


「………なんと申し上げましょうか、私の見いだす価値は、それではないんです。」


「富ではない…と?」


「時にローズ様。あなたも随分と石がお好きとお見受けします。特に赤がよく映える。マリさんからお聞きしたところ、やはりルビーがお好きなようで…今回は少し珍しい物を…。」


 取り出した箱をローズに手渡す。


「これは…?」


「どうぞ開けてご覧ください。これが、私の見たい石の世界の一端ですので。」


 ローズはその箱を開けると絶句した。ルビーとは本来、鮮やかな紅色を誇る宝石だ。ローズもそれが好きだ。だから初めて見たとき、その紅に魅入られた。だと言うのに、箱の中にあったリングのルビーは淡い。紅よりも桃に近い。透明度も高くない。だが何よりはその輝き。


「これは…一体どんなカットを…?」


「カットの問題ではございません。内包物、キズ…それらが重なり宝石は時に、星と見紛う光を放ちます。それを我々はスターと呼びます。」


 そのリングを掲げるローズ。また無邪気な瞳を浮かべる。そのルビーには三本の光の筋が交差していた。


「これが…。」


「ええ、私の見たい世界です。」


「アラン…このような珍しい石は他にも…?」


「ええ、光の筋が1本通ったもの、2つの色を内包するもの、中には、色が変わるものなど様々です。」


「なるほどこれは…お金じゃないようね…。」


「ええ、仕事と言うよりも趣味ですので。」


 ローズはしばらくのあいだ、子供のような表情でそのスタールビーを掲げていた。よほど気に入ったのだろう。マリもひと安心である。そうして、ローズはまた口を開く。


「わかったわ。アラン。専用と言うのは酷な話ね。でも、いい石があったらすぐにでも私のところに言ってちょうだい!それが私の出す条件よ!!」


「ええ、かしこまりました。では、そのようにさせていただきます。」


「それでなんだけど…このルビーいくらになるの…?」


「…ええ、それだと金貨120枚程ですね。」


「ひゃ、ひゃく…。」


 驚くマリ。


「買った!!」


 即決のローズ。


 曰く、ローズはあのルビーを大層気に入ったようだ。アランからしてみれば宝石商冥利に尽きる。今日は店も休み。奥間で趣味の宝石を眺めるのがアランの至福の時間だ。このときばかりは輝きに包まれ全てを忘れることが出来る。

 そうして、引き出しに手を掛ける。出てきたのは翡翠の耳飾り。


「母さんの目は、もっと淡いだろ…。」


 そう呟く。


 ─────爆発音が街に響いたのはその直後のことだった。

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